小バエに濡れ衣



 みなさんは“ブト”または“ブヨ”という虫をご存じでしょうか。この虫に刺(さ)されると、徐々(じょじょ)に痛がゆくなって腫(は)れ上がり、何日もつらい思いをすることになります。また、体質によっては、病院の受診(じゅしん)を余儀(よぎ)なくされるほど重傷化することもあるようです。
 この虫の正しい名前は“ブユ”といいますが、主に関東では“ブヨ”そして当地では“ブト”と呼んでいます。
 
 このところ、早朝に野外へ出かけたとき、嫌(いや)になるほど何度もブトにやられてしまいました。ところで、ブトってどんな虫でしょう。改めて考えてみれば、「小さい虫」という以外に何の認識もなく、ハッキリと姿すら見たこともありません。ブトには刺されたくありませんが、次の機会にはしっかり確認したいと、赤くなった患部(かんぶ)をさすりながら思うのでした。

 機会はすぐに訪れました。夜明け間近の道を歩いていた時のことです。ちょうど体が暖まりはじめた頃(ころ)に、顔の辺りを飛び回り、何度手で追い払(はら)っても性懲(しょうこ)りなくやって来る数匹のうるさい虫にまとわりつかれました。
 「よし、ブトが来た!」じっくり姿を見るには吸血させるほかありません。覚悟(かくご)を決めて袖(そで)から腕(うで)を差し出すと、その中の1匹がすぐに手の甲(こう)へとまりました。薄暗い中で手のブトをいくらか写真に収め、1分ほどが経過しましたが、不思議なことにまったく痛くもかゆくもありません。

 早速、デジタルカメラの液晶画面(えきしょうがめん)で写真を拡大してみると、これはどう見てもハエです。こんな口では吸血できるはずもなく、おそらく手から染み出す汗(あせ)でもなめていたのでしょう。
 その後、飛び回る数匹の虫を手で掴(つか)んで持ち帰り調べると、見た目通りショウジョウバエ科で、人や動物の目をめがけて飛んでくるメマトイの一種、体長3〜4oほどのマダラメマトイというハエでした。
 
 過去に何度もうるさい虫にまとわりつかれた際に、「これはかゆ〜いブトだ」と思い違いをしていました。これまで吸血をしないメマトイに濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)を着せて申し訳なく思いましたが、メマトイはメマトイで人の目に飛び込み病原体を媒介(ばいかい)しているらしいので用心するに越(こ)したことはありません。
 正真正銘(しょうしんしょうめい)のブトに対面できるのはいつになるでしょうか、早く会いたいような、会いたくないような、複雑な気持ちです。

文責 増田 克也


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