山椒は食わねど



 梅雨が明けてから、連日の猛暑(もうしょ)が続いています。8月4日の気温は本校で33度、そして豊岡市では38度まで上がり、全国でこの日一番の暑さとなりました。
 夏本番を迎(むか)え、あれだけ賑(にぎ)やかだった野鳥のさえずりも、めっきり聞こえなくなり、妙(みょう)に静まりかえった朝来山は、暑い夏が行き去るのをじっと耐(た)えているかのように思えます。

 そんな山中で、静けさを破るように、道端(みちばた)の木から数羽の鳥が「ヒリリ、ヒリリ」と鳴き声を残し飛び立って行きました。その木に少しずつ近づいてみると、まだ1羽だけ残っているではありませんか。そっとカメラを向けて撮ったのが上の写真です。

 この野鳥は名前を“サンショウクイ”といい、春に東南アジアから北上し、日本などで繁殖(はんしょく)をする渡り鳥です。スマートな身体にタキシードを着たような模様が特徴(とくちょう)ですが、写真の個体はどこかあどけない表情と、背中の黒色が斑(まだら)なことから、この春に巣立ちをした若鳥だと思われます。この若鳥も、秋には南へ向けて旅立つことでしょう。

 ところで、このサンショウクイがとまっている木は、カラスザンショウという山椒(さんしょう)の仲間です。サンショウクイの名前からして「山椒の実でも食べに来たのかな?」と思いますが、実際には虫やクモを好み山椒は食べないようです。では、どうしてサンショウクイなんていう名前が付いているのでしょう。
 それは、山椒を食べると口の中がピリピリっとしますが、昔の人はサンショウクイの「ヒリリ、ヒリリ」という鳴き声を聞いて、「きっとあの鳥は山椒を食べたのだろう」と想像し“山椒喰(さんしょうくい)”と名付けたそうです。なんともほのぼのとしたネーミングですね。

 ではここで、今年5月に録音したサンショウクイの鳴き声を聞いていただきましょう。いかがでしたか、みなさんにも、山椒を食べて「ヒリリ、ヒリリ」と聞こえたでしょうか?

文責 増田 克也


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