奇妙なやつら



 梅雨の終わりに、本校スタッフの間では、ある奇妙(きみょう)な生き物の話題で持ちきりでした。スタッフA「見た見た!ダンゴムシの大きいやつ!」 スタッフB「あれはムカデとちゃうか?」 スタッフC「植木鉢(うえきばち)の中にいっぱいおったで−」

 それなら私も、是非(ぜひ)、対面しようと本館の裏手にある、その生き物が集まる場所へ向かうと、いましたいました。そこには十数匹のミドリババヤスデと、細長いオオミスジコウガイビルがうごめいていました。
 ミドリババヤスデの体長は約4p、ダンゴムシを大きくしたような体型で、足がたくさんあるところはムカデにも似ています。数年毎に発生するらしく、どうやら今年は当たり年のようです。
 一緒(いっしょ)にいるオオミスジコウガイビルは、頭部の形が日本髪(にほんがみ)を飾(かざ)る、笄(こうがい)に似ていることから名付けられた、これまたミドリババヤスデに勝るとも劣(おと)らない不思議な生き物です。

 ミドリババヤスデは、壁面(へきめん)に付いているコケを食べるために集まっているようです。観察していると、ただ闇雲(やみくも)に食べているわけではなく、コケの緑色の部分には目もくれず、根本に頭を突っ込んでいます。人気のスポットでは、ほらこの通り、2匹が同時に食べています。

 一見、敬遠してしまいそうなミドリババヤスデですが、カメラ越(ご)しに見ていると、何となく親近感が湧(わ)いてくるから不思議です。
 彼らが見せる行動の中で私が気に入ったのは、移動する際の“脚運(あしはこ)び”です。後ろから前へ、寄せては返す波のように脚を動かして進む姿は、コンピューターで計算し尽(つ)くされたハイテクロボットも真っ青になるほどスムースで、思わず目が釘付けになります。

 ここで気になるのは、やっぱり脚の数ですね。いったい何本あるのでしょう。早速、数えてみると、31対62本もありました。漢字で“百足”と書くムカデの脚は21対42本なので、ミドリババヤスデの方がずっと多いとは意外な事実です。それにしてもよくもまあ、あれほどたくさんの脚をもつれることもなく動かせるものです。

 梅雨が明け10日ほどが経過した今、あれほどいたミドリババヤスデやオオミスジコウガイビルはすっかり姿を消してしまいました。中にはホッと胸を撫(な)で下ろすスタッフもいますが、奇妙なやつらがいなくなると、何となく淋(さみ)しい気もします。
 でも、大丈夫。耳寄りな情報があります。ミドリババヤスデは秋に再び発生するらしいのです。実際に2003年の秋には、本校の近くを通る、JR播但線(ばんたんせん)でミドリババヤスデが線路を覆(おお)い、列車の車輪が滑(すべ)って前に進めなくなるという珍事件(ちんじけん)がありました。
 これほどの大量発生は困りものですが、秋にはまた不思議な生き物に会えると思うと、何やら涼しくなるのが待ち遠しいこの頃(ごろ)です。

文責 増田 克也


自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp