自然学校の春告花



 里の桜は先週早々に満開となり、田起こしの作業も至るところで始まりました。毎年、艶(あで)やかな桜を見ると、時季を同じくして花開く朝来山のミスミソウが気にかかります。そこで、取り急ぎ朝来山へ足を向けることにしました。

 まず、ふもとで迎えてくれたのは、うす紅色の柔(やわ)らかな葉をつけたヤマザクラです。葉と花がほぼ同時に開くヤマザクラは、ソメイヨシノとまた違(ちが)った趣(おもむき)があります。
 いよいよ登山道に入ると、この春初めて見るヤマルリソウが、コンクリート道の割目から力強く花を開かせています。少し進めば、道端(みちばた)のコケに埋(う)もれながら、一株のスミレが淡(あわ)い紫色(むらさきいろ)をした花びらを、パッとこちらに向けていました。

 歩くこと約1時間、たどり着いた尾根の近くには、ようやくちらほらと咲きはじめたばかりのヤマザクラが、遠く城下町を見下ろしています。
 「この先のカーブを過ぎればミスミソウがあるはず」期待を胸に進むと、白い花びらを開かせたミスミソウが薄暗(うすぐら)い登山道の傍(かたわ)らでひっそりと出迎えてくれました。
 近くの斜面(しゃめん)では、もう一息で全開する花が風に揺(ゆ)れています。ぐっと近づいて撮影すると大輪の花に見えるミスミソウも、実際は直径1.5pほどの小さなもので、うっかり踏(ふ)みつけてしまわないよう注意が必要です。
 さらに、辺りを丹念(たんねん)に探すと、コナラの根本にふたつ並んだ花や、朽(く)ち木の下でアセビの葉に守られるように咲いた花をみつけることができました。

 朝来山にこの小さな白い花の存在を知って十数年、今やミスミソウは梅や桜と並ぶ、南但馬自然学校の“春告花”です。最後に、長く伸(の)びた茎(くき)の先端で宙に浮(う)かぶ花をカメラに収め、日々春めく朝来山を後にしました。

文責 増田 克也


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