行く鳥来る鳥



 桜の花が8分咲きとなった4月3日のこと、今年も南但馬自然学校の周辺にノビタキがやって来ました。ノビタキは、南の越冬地(えっとうち)から、本州中部以北の繁殖地(はんしょくち)を目指して旅をする渡り鳥です。

 毎年ノビタキが立ち寄る、雑草が生い茂(しげ)った休耕田に向かうと、セイタカアワダチソウの上で黒いタキシードを着たようなオスがちょこんととまり風に揺(ゆ)られていました。
 しばらくすると、あちらこちらを飛び回りはじめ、枯(か)れ草のてっぺんにとまる度に、繁殖地でメスに捧(ささ)げるラブソングの練習でもしているのか、遠慮(えんりょ)がちに口を開け小声でつぶやくように歌うと、また飛び出していきます。
 この日、夕刻まで周辺の田んぼでノビタキを探しましたが他には見あたらず、どうやら当地に来ているのはこの個体だけのようです。最後にもう一度休耕田へもどり、西日に包まれる一番乗りのノビタキをカメラに収めフィールドを後にしました。

 次の日、再び休耕田を訪れると、オスが2羽に増え、加えて1羽のメスの姿もありました。メスのノビタキは、田んぼより一段高い道路沿いの柵(さく)によくとまり、この場所から虫などの餌(えさ)を繰り返し狙(ねら)っていました。

 観察を終えて、薄暗(うすぐら)くなりはじめた畑を通りかかると、地面から近くの柿(かき)の木にサッと飛び上がるものがいました。「また、ノビタキか?」と思い目をやると、それはこの地で冬を過ごしたオスのジョウビタキでした。ジョウビタキは、秋に北の国の繁殖地から日本などへ移動して越冬し、春には再び故郷の繁殖地へ帰って行く渡り鳥です。
 このジョウビタキは畑で餌でも探していたのでしょうか、くちばしにはコケが付いています。すると、くちばしを素早く枝に擦(す)りつけてコケを落し、背中に対で並ぶトレードマークの白い斑点(はんてん)をこちらに向けた途端(とたん)、茂みに姿を消しました。
 このところすっかり暖かくなり、もうジョウビタキを見る機会はないだろうと思っていただけに、うれしい出会いとなりました。

 今、南但馬自然学校の周辺は、“行く鳥と来る鳥”が混在する野鳥の端境期(はざかいき)です。機会に恵まれれば、“行く鳥と来る鳥”どちらも見られる、少しお得な時季でもあります。

文責 増田 克也


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