春に備えて



 2月に入り一年で最も寒い時期を迎(むか)えました。南但馬自然学校の木々もすっかり葉を落とし、静かに休眠(きゅうみん)しています。息を吹き返したように、みずみずしい若葉や艶(あで)やかな花に彩(いろど)られるのは、まだまだ先のことですが、木々たちは来る春に向けてすでに準備をしています。そこで校内にある雑木の冬芽を見て回りました。

 それでは、上の写真を見てください。これは自然観察路“くまコース”にあるクロモジの冬芽です。この木は葉っぱや皮からいい香りがするので、和菓子(わがし)などに添(そ)えられる高級つまようじの材料になることで知られています。
 クロモジは花と葉が出る部分が2つに分かれ、別の芽になっているのが特徴(とくちょう)です。4月を迎(むか)えるころには芽はほころび、丸い部分から花が、そして細長いところからは葉っぱが現れます。
 冬晴れの青空を背景に見上げる冬芽は、両手を挙げ元気よくバンザイをしてエネルギーを貯えているようでした。

 こちらはファイヤー場にある枯(か)れ木です・・・? いえいえ枯れ木ではありません、これは実が栃餅(とちもち)の材料になるトチノキです。葉っぱがすっかり落ちて枯れているように見えますが、枝の先端(せんたん)には、この春開く冬芽が息づいています。冬芽の表面を取り巻く、ねっとりとした水飴(みずあめ)のような樹液は、厳しい冬の寒さから保護をする役目をしています。冬芽を指で触(ふ)れると、見た目どおりネバネバとして、何度もティッシュペーパーでふき取ってもまだ粘(ねば)り、まるで接着剤(せっちゃくざい)のような感触(かんしょく)でした。
 この冬芽も5月になると、大きく葉を広げ、上向きに伸(の)びる塔(とう)のような花を咲かせることでしょう。

 野外キッチンの近くには、白い冬芽をいくつも付けたコブシの木があります。花や葉っぱになる冬芽は白い毛で大切に保護をされ、あたかも毛皮のコートを着ているようです。
 同じ木にある冬芽でも成長には差があり、小さく硬(かた)い冬芽のコートは毛が短く、少しふくらんでくると毛が伸びて、最後には見るからに暖かそうな装いになります。どうやらコートは冬芽の成長に伴(ともな)ってグレードアップし、ふんわり感が増すようです。
 野外キッチンのコブシは、あと2ヶ月もすれば、行く冬の雪の白さを引き継いだような可憐(かれん)な花を咲かせます。

 この他にも、鱗状(うろこじょう)の鎧(よろい)に守られたもの、バナナのように反り返ったものなど、いろいろな冬芽が見られました。みなさんも身近な場所で冬芽を探してみてください。冬空の下じっと寒さに耐(た)える冬芽は、かすかな春の息吹を感じさせてくれることでしょう。

文責 増田 克也

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