茂みの中でかくれんぼ
「フィ、フィフィ」茂みの中から、か細い鳴き声が聞こえてきます。「おや・・・?」立ち止まり聞き耳を立てると、やっぱりそうです。この声は、今季初めて聞くベニマシコのものに間違いありません。
ベニマシコはモンゴル北部や中国北部、サハリン、日本では北海道や本州北部で繁殖(はんしょく)し、寒くなる時季には、本州、四国、九州などへ移動して越冬(えっとう)する渡り鳥です。
なんとか姿を見たいと思い草原を探しますが、茂みの中から声が聞こえるばかりで、どこを見回してもベニマシコの欠片(かけら)もありません。
ベニマシコが潜(ひそ)む草原は、以前、田んぼでした。一面に生(お)い茂(しげ)った雑草が、長らく稲(いね)が作られずに放置されていることを物語っています。周りで農業を営む方々にとっては、害虫の発生源となるやっかいな場所ですが、今では野鳥たちの餌場(えさば)となっています。
声が聞こえてからどれくらい時が経ったでしょう。一本のセイタカアワダチソウの先端が揺(ゆ)れはじめたかと思うと、褐色(かっしょく)をしたスズメより小さな小鳥が茎(くき)の中程までよじ登ってきました。待った甲斐(かい)があったというものです。やっとのことでメスのベニマシコが姿を現しました。
きっと地面の近くで餌(えさ)を採っていたのでしょう、写真を拡大するとおちょぼ口に食べかすをたくさん付けています。“キョロッ、キョロッ”左右に視線を配ると茎にくちばしを擦(こす)りつけて、食べかすを掃除(そうじ)しアッと言う間に茂みの中へ消えました。
その後、更(さら)に待っていると赤いオスも姿を現しましたが、どちらも僅(わず)か数秒間、束(つか)の間の出会いとなりました。
季節が進み雪が地面を覆(おお)うと、ベニマシコはセイタカアワダチソウの先端まで上がってくるので、姿をハッキリと見ることができます。「なんだか雪が待ち遠しい・・・」そんな気持ちにさせられた一日でした。
文責 増田 克也
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