白い花と招かざる客



 今にも雨が降り出しそうな、自然観察路むささびコースの斜面(しゃめん)にセンブリの花を見つけました。直径2pにも満たない小さな花は、遠目には全くわかりませんが、近づくにつれて白い花びらが山肌(はだ)から浮(う)かび上がり、辺りは神秘的なムードに包まれます。
 こちらの株はつぼみも含(ふく)めて10ほどの花を付けています。近づいて上からのぞき込むと、紫色(むらさきいろ)のラインが入った可憐(かれん)な花は、いつまで見ていても飽(あ)きない愛らしさです。

 5枚の花びらの付け根には、それぞれ2つずつの黄色い蜜腺(みつせん)があります。「蜜腺から伸びる白いヒゲのようなものはいったいなんだろう?」そんなことを考えていると、小さな小さなアリがヒゲをかき分け、蜜を求めてやって来ました。
 センブリは干して煎(せん)じると胃腸に効く大変苦い生薬になりますが、熱心にアリが通って来るところをみると、花びらから出る蜜はきっと甘(あま)いのでしょうね。

 センブリが咲いた辺りには、夏の忘れ物マツカゼソウが揺(ゆ)れています。ついにポツポツと雨が降りはじめ、いよいよ暗くなった林の中に浮かび上がる、赤と青のマムシグサの実にもシャッターを切りました。
 さあ引き上げようと何気なく足元を見ると、そこには“招かざる客”ヤマビルが、音もなく忍(しの)びより私の靴(くつ)に張り付いているではありませんか。何のためらいもなくずんずん上に登ってくるヤマビルを取り払(はら)うため、あたふたしていると、せっかくセンブリからもらった穏(おだ)やかな雰囲気(ふんいき)は吹っ飛び、すっかり興醒(きょうざ)めしてしまいました。

文責 増田 克也

“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp