夏の花を訪ねて



 やっとのことで梅雨が明け、ようやく夏らしい天気が続くようになりました。そこでこの時季によく向かう場所へ夏の花を探しに行ってみました。

 まず出迎(でむか)えてくれたのは、よく目立つ橙色(だいだいいろ)の花を咲かせた、フシグロセンノウです。花は園芸品種かと間違えそうなほど大きく鮮(あざ)やかで、この辺りでは夏に咲く花の代表でしょう。茎(くき)に黒い節があり、これが名前の由来となったようです。

 こちらはフシグロセンノウに似た色合いの細い花びらを持つ、キツネノカミソリです。名前にある“カミソリ”は、シャープな花びらの形から名付けられたものとばかり思っていましたが、どうやら、春に出るみずみずしい葉っぱの形を表現したものらしいのです。ところがどこを探しても、葉っぱは全く見あたりません。それもそのはず、キツネノカミソリは花が咲くころまでに葉をすっかり枯(か)らせてしまう変わり種の植物なのです。

 長い梅雨の間は、あれだけ待ちわびた夏の日差しですが、まともに浴びせられるととても耐(た)えられず、暗い山筋を流れる沢(さわ)に逃(に)げ込みました。長靴(ながぐつ)でジャブジャブ水に入ると、足元から天然のクーラーが心地よく、先ほどとは別天地です。

 気をよくして上流に向かうと、ほとばしる水しぶきに大きな葉を光らせるイワタバコを見つけました。ひんやりとした日陰(ひかげ)の谷川に、赤紫(あかむらさき)の花を咲かせたイワタバコは見ているだけで涼(すず)しげで、何かしらホッとした気持ちにさせてくれます。水の流れに触(ふ)れるたびに上下する葉の手招きに、近づいて花をのぞき込むと、後ろにめくれ上がった5つのしゃれた花びらは、まるで手の込んだ和菓子(わがし)のようです。

 イワタバコから“涼しさ”をたくさんもらって沢を後にすると、山から吹き下す風に、草むらのツリガネニンジンが小さなベルを揺(ゆ)らせていました。

文責 増田 克也

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