スズメバチは陶芸家?



 南但馬自然学校の本館裏には、冬に備えてストーブの燃料を保管する薪(まき)小屋があります。先日、何の気なしに壁(かべ)のすき間から中をのぞいてみると、屋根の内側にとっくりを逆さまにつるしたようなハチの巣を見つけました。

 このユニークな形をした巣は、とっくりにそっくりなので、よくトックリバチの巣に間違(まちが)われますが、実はコガタスズメバチの巣なのです。トックリバチの巣は、とっくりと言うよりも蛸壺(たこつぼ)に似た形をしています。この薪小屋には、土で作られたミカドトックリバチのものと思われる巣も見つけることができました。

 コガタスズメバチの巣は、春に女王バチが1匹でとっくり形の巣を作り上げ、その後、初夏に生まれた働きバチと協力して巣を増築し、次第に大きな球形に仕上げていきます。
 しかし、この薪小屋の巣はもう8月だというのに未だにとっくり形で、働きバチが出入りする様子もありません。今年の長梅雨が影響(えいきょう)しているのでしょうか、何らかの理由で巣は放棄(ほうき)されたようです。

 それならいっそのこと、手にとってみようと屋根から取り外しましたが、あまりに素晴らしいとっくりのできばえに、ついつい逆さまに置いて鑑賞(かんしょう)してしまいました。
 この美しい縞模様(しまもよう)は、巣の材料となる樹皮の色で決まる偶然(ぐうぜん)の産物ですが、見れば見るほど深い味わいがあり、あの古美術鑑定士(こびじゅつかんていし)も思わずうなり声を上げそうなほど、実に“いい仕事”をしています。

 こんな一輪ざしがあれば、生けた花はさぞかし映えることでしょう。そんな思いから、季節の野花、カワラナデシコをあしらうととてもいい雰囲気(ふんいき)です。しかし、「わたしの巣は花瓶(かびん)じゃないぞ!」とコガタスズメバチに叱(しか)られてしまいそうですね。
 来年は是非(ぜひ)とも、コガタスズメバチの陶芸家(とうげいか)ぶりと、こんなに素敵な巣を作り上げる工程を見てみたいと、趣(おもむき)がある白と茶の模様を眺(なが)めながら思うのでした。

文責 増田 克也

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