黒タキシードのテノール歌手



 冬の渡り鳥でツグミという野鳥をご存じでしょうか。南但馬自然学校では、秋の始めから翌年の5月ころまで、毎日のように目にする大変身近な野鳥ですが、暖かくなると日本より北の地域に移動して、今ではまったく見かけなくなりました。でも残念がることはありません。この時季にツグミはいなくても、クロツグミという魅力(みりょく)たっぷりな野鳥がいます。
 今週の“自然のページ”は、ツグミと同じ仲間のクロツグミを紹介(しょうかい)しましょう。

 クロツグミは、大きさや形こそツグミとよく似ていますが、お腹(なか)や脚(あし)、くちばしをのぞいてほぼ真っ黒です。そして、ツグミが日本などで越冬する「冬の渡り鳥」なのに対して、クロツグミは春に日本で繁殖(はんしょく)するために訪れる「夏の渡り鳥」です。

 クロツグミの特徴(とくちょう)は、なんと言ってもその美しいさえずりでしょう。小鳥の声と言えば「ピーピー、チュンチュン」など、甲高(かんだか)い声を想像させますが、クロツグミの声はひと味違います。
 もしも、小鳥たちが混声4部合唱をするならば、クロツグミの担当はテノールでしょう。混声4部合唱には声の高い方から、ソプラノ、アルト、テノール、バスとありますが、クロツグミのテノールは中音域のとても聞きやすい声質です。

 枝先でクロツグミがさえずり始めました。黒いタキシードを着込み、胸を張り、朗々(ろうろう)と歌う姿は、どこから見ても立派なテノール歌手です。
 さあ、それでは、クロツグミのテノールをお届けしましょう。是非(ぜひ)、目を閉じて静かに聞いてみてください。霧(きり)に包まれた朝の高原にテレポートしたような清々しい気分にさせてくれますよ。

 クロツグミのリサイタルは、梅雨が明けて暑くなるとそろそろ終演になりますが、少し早起きして山へ出かけてください。今ならまだだいじょうぶ、きっととびっきりのテノールを聞かせてくれるはずです。

文責 増田 克也

“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp