即席ミニ観測会



 7月22日水曜日、天文ファンの本校スタッフTさん。なぜか朝からそわそわと落ち着きがありません。それもそのはず、今日は鹿児島(かごしま)やトカラ列島などで皆既日食(かいきにっしょく)が、そして兵庫県でも部分日食が見られる滅多(めった)にない日なのです。時計が午前9時をまわるころになると、居ても立ってもいられなくなったようで、本館のエントランスにある望遠鏡を外へ持ち出し、何やらセッティングを始めた様子です。
 最初は静観していた他のスタッフも、やっぱり気になるようで、1人、2人と集まり始めると、その人だまりを見つけてまた人が集まり、気がつけば食堂や清掃(せいそう)のスタッフも加わり、望遠鏡を数人が取り囲む、即席(そくせき)ミニ観測会となりました。

 観測会が即席なら、観測機材も即席です。望遠鏡の鏡筒(きょうとう)にキノコや花などの撮影に用いる、丸いレフ板をはめ込みフードの代わりとし、像を投映するスクリーンには、プラスチック製の白いバットを写真撮影用(しゃしんさつえいよう)の三脚(さんきゃく)にガムテープで固定して使用しました。にわか仕立ての機材でも、これが結構役に立ち、日食を観測するには十分でした。
 皆(みな)は白いバットに浮(う)かび上がる、月のような光をのぞき込むたびに「ワーァ」と歓声(かんせい)を上げ、「よう見とかんな、次の皆既日食は26年後やでなぁ」「まぁ、26年やったら、私らぁとてもようおらんわ」などと日食談義に花が咲きました。

 何度か雲に邪魔(じゃま)されながらも、残り数分で最大食分を迎(むか)える午前11時になると、三日月状の光はずいぶん細くなりました。するとどうでしょう、辺りは、くもりでもなく夕暮れでもない、今まで体験したことがない不思議なほの暗い空気に包まれ、気温もいくぶん下がったように感じました。
 せっかくの日食なので、空に向けてカメラのシャッターを押(お)すと、ぶ厚い雲がうまい具合に減光フィルターの役目を果たし、曲がりなりにもなんとか記録写真を残すことができました。

 日食とは、「太陽と月と地球が一直線に並び、月が太陽の光をさえぎる」ただそれだけのことに、人々はなぜ魅了(みりょう)されるのでしょう。
 その答えは人それぞれでしょうが、神秘的な天体ショーに普段は会することがない者たちが集まり、貴重な時間を共有できたよろこび。今回、日食を観測する機会に恵まれて、これもまた1つの理由ではないかと感じた一時でした。

文責 増田 克也

“自然のページ”のご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp