歴史が生んだ厄介者?



 まず、上の写真を見てください。水の中をゆうゆうと泳いでいる動物はいったいなんでしょう。ブタでしょうか?それともイノシシでしょうか?
 答えは、ネズミの仲間、“ヌートリア”です。ネズミの仲間といっても、その大きさは日本の水辺に棲むほ乳類では一番大きく、体長80pにもなるそうです。この写真のヌートリアもみなさんがよく知っている柴犬(しばいぬ)くらいの立派なものでした。
 
 ヌートリアは夜行性の動物です。おもに夕方から活発に活動を始めますが、昼間でも川の中を泳ぐ姿や、天気のいい日には川岸でひなたぼっこをしているところを見かけることがあります。しかし、大変警戒心(けいかいしん)が強く、人や車が近づくと一目散(いちもくさん)に川の中へ逃げ込んでしまいます。
 そんな用心深いヌートリアですが、この日は岸に上がり草を食べる様子を観察することができました。
 「もぐもぐもぐ」地面に口をつけたまま、あごの辺りだけを動かし夢中で食べています。しかし、食事中も周りへの警戒を怠(おこた)りません。ふと何かを思い出したように、動きをピタッと止めて頭を上げると、鼻をヒクヒクさせて注意を払い、安全が確認できると、再び頭を下ろして草を食べ始めます。
 それにしても、大きな前歯ですね。写真を拡大してオレンジ色の前歯を見ると、「やっぱりヌートリアはネズミの仲間なんだなぁ」と改めて感じます。
 この日、おもしろい様子を観察することができました。これまで口で直(じか)に草を食べていたヌートリアが、まるで人間のように地面に肘(ひじ)をつくと、前脚(まえあし)で器用に草を掴(つか)んでは口に運び始めました。この方法だと頭を上げたまま食べられるので、辺りを警戒するには都合がいいですね。

 ヌートリアはもともと日本にいない、南米のブラジルやアルゼンチンなどの動物です。では、どうして日本にいるのでしょう。それは、今から70年ほど前のこと、ヌートリアの毛皮を軍服に利用するためヌートリアを輸入し、西日本を中心に養殖(ようしょく)が始まりました。ところが戦争が終わると毛皮がいらなくなり、養殖場から逃(に)げ出したものや捨てられたものが野生化し、その子孫が現在も日本に棲んでいます。今では、農作物に被害(ひがい)

                    畑の作物を荒らすヌートリア

を与(あた)えたり川岸に穴

                 川岸に開けられたヌートリアの巣穴

を開けたりする厄介者(やっかいもの)とされ、特定外来生物に指定されています。
 
 ヌートリアは戦争に振(ふ)り回された歴史をもった動物です。人間の身勝手で外国から連れてこられた彼らは、戦後64年経った現在も戦争の事実を静かに伝える生き証人のように思えます。

文責 増田 克也


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