兵庫県文化財保護審議会建議 要旨



次世代への継承と新しい文化の創造のために

21世紀における兵庫県の文化財行政について−

 

はじめに

 文化財行政は、社会の変化に伴い大きな転換期を迎えようとしている。特に埋蔵文化財については、開発に伴う発掘調査事業が縮小する方向に向かっている。今後は、蓄積された成果をいかに県民に還元していくかが重要な課題となっている。また、有形文化財では、茅葺き民家などの建造物が廃棄され、さらに、無形文化財などは担い手が急速に減少していることが指摘されており、実態調査と計画的な保存・活用が求められている。

 今後、文化財行政を推進するに当たってのキーワードは、@グローバル化、ボーダレス化の時代におけるアイデンティティの確立と世界文化の向上発展への貢献、Aこころ豊かな人々を育む生涯学習社会への貢献、B循環型社会構築への貢献、C地域づくり・まちづくりへの貢献である。

 

T.兵庫県における文化財保護行政の推移

(略)

U.兵庫県の文化財の特色

(略)

V.文化財行政の21世紀への展開                

1.文化財の概念

(1) 文化財保護法の文化財

 文化財保護法(以下「法」という。)における「文化財」の概念自体は広範であるが、「指定」される場合は高い壁がある。行政施策の対象となっているものは「指定文化財」がほぼすべてである。今後、概念や指定の範囲は拡大していくものと考えられる。

 

(2) 「埋蔵文化財」の概念

 埋蔵文化財に対する保護制度は、すべてを平等に取り扱うという制度となっている。しかし、ほとんどが記録保存にとどまっている。今後、いかに保護の重点化を図っていくかということが課題となっている。

 

(3) 今後の「文化財」概念

 文化財保護の根底には地域の特色や時代の流れがあることを捉えていくべきであり、新たな指標を構築していく必要がある。指定に当たっては、点又は線的なもののみではなく、面的な広がりをもつ概念をとりいれていく視点も重要である。また、ソフトとしての営みをも考慮したトータルな指定も検討する必要がある。加えて、「地域文化財」についても、指定対象として検討すべきである。我が国の文化財保護は、生活感のない学術的な色彩の強い施策が中心となっているが、底辺を拡大する施策を充実することにより、文化財に新しい役割を与えることが重要である。

2. 阪神・淡路大震災と文化財

(1) 阪神・淡路大震災への対応

 震災における被害額は、指定文化財だけでも約85億円に達したが、明石城の修復工事の竣工ですべての事業を完了することができた。復興基金では、未指定の文化的建造物等についても、補助制度が設けられた。これまでに、284件、約10億円が補助され大きな成果を挙げた。このほか、「文化財レスキュー事業」が実施された。

 

(2)  残された課題−指定文化財と未指定の文化財

 「文化財レスキュー事業」については、文化財の所在情報が決定的に不足していた。このため、行政が認知することなく失われていった未指定の文化財が多数あったのではないかと推測されている。今後、未指定の文化財や法の規定する文化財概念のみでは捉えきれない「歴史文化遺産」の悉皆調査とリスティングが重要な課題となる。

 

(3) 文化財と歴史文化遺産

  国は、震災の教訓をも踏まえ、「文化財登録制度」を導入した。しかし、専門家が不足していることもあり、この制度は十分普及しているとはいえない。今後、専門家の養成を図る必要がある。また、建造物以外の有形文化財についても「インベントリーシステム」(台帳登録制度)の導入などが課題となっている。

 

(4) 歴史文化遺産の保存と活用

 これまでの文化財行政(埋蔵文化財を除く)は、指定文化財については手厚い支援を行いほぼ完全に保護してきたが、未指定の文化財や歴史文化遺産については、ほとんど省みることがなかったため、これらに対する施策の充実を図る必要がある。

 

3. 文化財保護の意義

(1) 文化財の保存と活用

 法は、文化財保護について、世界文化の進歩等への寄与などの役割を与えている。しかし、戦後から高度成長期において、文化財の活用を前提とした整備を進めることは社会の情勢からみて困難な場合が多かった。今後、「活用」重視の21世紀の文化財行政に踏み出すことが求められている。

 

(2) 文化財の活用に当たっての留意事項

 活用するに当たってはその価値を維持することが大前提であり、保存に対する配慮を欠いた利用は、その価値を損なう恐れがある。しかし、部分的な現状変更は避けられない場合がある。現状を変更してはならない部分とやむを得ない部分をあらかじめ十分に議論しておくことが重要である。また、すべての人々が文化財に親しめるようにハード面及びソフト面でバリアフリー化に配慮する姿勢が必要である。

 

(3) 保存偏重主義の克服                           

 関係者等の間では、いわば「保存偏重主義」というような考え方が根強い。様々な形で活用され、文化の向上発展に貢献することで目的が達成される。学術的な価値のみに拘泥することなく、普及・啓発活動を強化していくべきである。

 

(4) 文化財保護の効果と説明責任

 施策が、県民等にとってどのような利益があるのか、様々な角度からその効果を検証する必要がある。最近では、開発側においても歴史文化を尊重した開発行為を基本としてきており、相互の情報交換を積極的に行うべきである。保存と活用について将来的な見通しを踏まえた上で、発展的な施策をとるべきである。

 

4.21世紀における文化財行政の方向と課題

(1) 住民参画型の文化財保護−地域住民等との連携の必要性

 姫路城やコウノトリのように極めて注目され、手厚い保護を受けることができる文化財は例外である。多くは、地域密着型のものとして存在意義がある。このような文化財の保護は、地元が主体的に計画を策定するとともに、住民からの支持があって可能となる。

 

(2) 地域の主体性

 文化財の整備が各地で行われているが、コンサルタント会社等に任せっきりになっているケースが見られる。史跡整備などの基本的な部分は、まちづくり・地域づくりともかかわっており、住民のニーズを引き出していくことが重要である。まちの核となる部分は自分たちで創造していくという意識を関係者は持たなければならない。

 

(3) 地域の文化財を活かす環境づくり

 地域の文化財は、単体だけでは保存・活用が困難な場合が多く、付加価値が必要である。このため、ソフト事業を実施したりほかの文化財とのネットワーク化を図ることが重要となる。また、その他の文化施設などと組み合わせることも重要である。さらに、文化財をわかりやすく説明する「地域文化財解説員」が必要である。このほか、大学等の機関等が有するマンパワー等を活用できるよう連携方策を研究していく必要がある。

 

W.文化財行政の当面する課題と提言

1.埋蔵文化財行政の諸課題

(1) 埋蔵文化財行政の現状

 発掘調査の効率化・迅速化を図るため、職員の増員、効率化のための技術導入などの取り組みを行ってきた。また、埋蔵文化財の範囲、発掘調査の要否についての基準、出土品の保管と活用等の取扱い基準等について策定するなど各種基準の標準化等に努めている。今後、発掘調査経費の積算の標準化等への取り組みが必要となっている。

 

(2) 転機を迎える埋蔵文化財行政

  専門職員数及び調査経費は減少に転じる傾向がある。出土品は、県内総量で20万箱を超え、そのうち県保管は約6万4千箱に及び、魚住分館は飽和状態に達しており収蔵施設の確保と出土品の整理が大きな課題となっている。

 

(3) 出土品収蔵施設等の充実

 出土品の中には、活用の可能性の低いものが混在していることから、適切な収蔵方法が検討されるべきである。魚住分館は、保存することに重点が置かれた施設であり活用には支障をきたしている。また、金属器などの保管に適した設備を有していないなどの問題もある。今後、収蔵庫の諸機能の大幅な向上を図るべきである。

 

(4) 出土品の積極的な活用

 県と県下の市町が保有する出土品はほとんど活用されていないのが現状である。埋蔵文化財調査事務所は市町の事業を支援するとともに、自らも出土品を活用した事業を展開すべきである。

 

(5) 県立考古博物館(仮称)構想の推進

 県立考古博物館(仮称)は、出土品を展示するだけではなく、地域住民と連携した参加体験型博物館としての設置が望まれる。また、考古学の中核施設として位置づけ、県内所在の博物館や郷土・歴史資料館等をサテライトとして資料・情報の交流等を積極的に進めるべきである。

 

(6) 開発事業に伴い発掘調査が行われた遺跡を活用した事業の推進

 開発事業に伴って発掘調査が行われた遺跡のなかには、春日町七日市遺跡のように、保存状態が良好な遺跡があるため、まちづくりや地域活性化の拠点としての公開・活用施設の整備を行うことも重要である。

 

(7) 埋蔵文化財調査事務所の今後の在り方

 施設の老朽化が進んでおり見直しが必要である。開発事業に伴う発掘調査等は中核機関としての機能を担う必要があるが、学術調査等の実施、出土品は県民のものであるとするための普及活動の充実などを行う組織へと成長していく必要がある。将来的には、県立考古博物館(仮称)との連携融合を視野に入れつつ、本県の中心的な専門教育・研究機関へと成長していくことが望まれる。

 

2.文化財の保存・整備事業の計画的な推進と活用

(1) 史跡の整備及び公有化

 史跡はまちのシンボル的存在として重要となっており、補助要望が非常に強いことから、今後とも、所要の予算を確保していく必要がある。これまでの整備は地域との間に十分な調整がなされなかった例もある。その結果、地域の活性化に寄与することや住民が訪れることも乏しく、雑草に埋もれた整備史跡も見られるという現実がある。例外的に、「大中古代の村」は、年間5万人以上の来園者があり、住民にも利用されている。これをモデルケースとしてその成果をいかしていくことが重要である。

(2)史跡の活用

  史跡は、ハードの整備だけでは地域の活性化にはつながらない。このため多様な史跡を拠点に相互を結ぶネットワーク化など、ソフト事業の充実が必要である。施策の展開は、県、市町の教育委員会だけではなく、観光等の諸部局が一体となって推進する必要がある。

 

(3) 建造物の計画的な修復・修理

 県文化財保護審議会の緊急提言を踏まえ、大幅に予算を拡充したことで修復・修理事業の完了に目途が立ったが、今後とも予算を確保していく必要がある。また、寂光院の放火事件を踏まえ、防災施設の保守点検及び小修理等にかかる経費を補助していくとともに、所有者に対する指導を強化していくべきである。このほか、県指定文化財の公有化については、慎重に議論されるべきである。

 

(4) 美術工芸品の保存と活用

 県指定文化財については修理を要する数が多く、充分に対応できていない。また、修理のできる専門家が県内にはほとんどいないため、対策が必要である。防犯・防火については、抜本的な体制を確立するには至っておらず、無住の寺や防火設備がない場所に所在している指定文化財もある。地域住民と行政が一体となった取り組みが必要である。

 

(5) 民俗文化財の保存と活用

 民俗文化財は、地域における心の絆を基本にした地域活動そのものにより支えられるものでなければならない。今後とも、保存団体への道具等の修理、後継者育成への補助を行うことが必要だが、まちづくりと一体となったソフト事業としての施策を行うべきである。このほか、映像媒体を活用して記録していくことも重要である。

 

(6) 天然記念物・名勝の保存と活用

 天然記念物の保護と同時に生態系をはじめとする地域の環境を維持していくことが重要であり、環境部局等との連携協力が不可欠である。天然記念物・名勝は県民の生活環境を質的に向上させる核であり環境とともに保存するために努力することは現世代の責務である。

 

(7) 民間助成財団等を活用した文化財の保存と活用 

 国、県、市町による公的な補助のほか、芸術文化振興基金や民間の助成財団による助成金があり、文化財の所有者や市町は積極的に活用する必要がある。

 

3.文化財、及び歴史文化遺産にかかる悉皆調査と調査体制の整備

(1) 悉皆調査の必要性

 文化財、及び歴史文化遺産を保存・活用していくためには、基本的な調査研究が必要不可欠である。その前提条件となるのが、これらの悉皆調査である。今後、重要と考えられるテーマを設定して調査を実施することが喫緊の課題となっており、所要の予算を確保する必要がある。

 

(2) 県教育委員会の体制の整備

 現在、県教育委員会には、美術工芸品等の専門職員が配置されていないため、施策の立案について支障をきたしている。その配置が喫緊の課題となっている。また、県立歴史博物館等の諸施設と連携協力して戦略的・体系的に調査を実施していくことが重要である。建造物の専門職員については複数配置を検討すべきである。

 

(3) 文化財保護指導委員の拡充

 現在、非常勤の文化財保護指導委員が24名置かれており、文化財の管理状況等について報告・勧告しており、一定の成果を挙げている。しかしながら、兵庫県は広大な県土を有しており過重な負担となっているため、拡充の検討が必要である。

 

4.20世紀の生活・産業資料等の収集

 20世紀に対する評価はいまだ定まっていないため、20世紀の生活・産業に関する資料は適切な保存措置がとられておらず急速に失われつつある。このため、このような資料を県立歴史博物館が中心となり、県民の理解と協力を得て収集し、歴史の証人として未来へと残していくことを検討すべきである。

 

5.コウノトリの野生復帰と地域環境の創造

(1) コウノトリの保護増殖と野生復帰事業の推進

 コウノトリの野生復帰事業は、コウノトリの郷公園が設置され、研究員等が配置されたことにより、その体制がほぼ整備された。野生復帰を果たすためには地域全体の環境創造を推進していくことが重要であり、住民との連携・協力が必要不可欠である。

 

(2) 野生復帰に向けてのロシア極東地域との共同研究

 野生復帰のためには、コウノトリの生息条件を正確に知ることが不可欠であり、ハバロフスク地方等の研究者等との共同研究等が必要である。

 

6.文化財の普及・啓発事業の充実

(1) 文化財マップの作成

 文化財をわかりやすく紹介し、手軽に文化財めぐりができるマップは、文化財を身近なものとして親しんでもらうため不可欠であり、早急に作成することが望まれる。

 

(2) IT・CG映像の活用

 文化財の保存活用のため、ITを積極的に活用する必要がある。また、史跡などは、CGを活用するとたいへんわかりやすくなるため、普及啓発について有効である。我が国の文化を世界に発信していく上で、ITの活用方策を研究していく必要がある。

 

7.文化財を活用した学社融合方策の推進

(1) 総合的な学習の時間の活用

 平成14年度から総合的な学習の時間が導入されるが、このような学校教育の展開において、地域を特徴的に表す文化財を教材として導入することは極めて有効である。身近で直接触れることのできる文化財を核とした地域づくりといった課題を提供することになり、課題解決能力の育成にもつながっていく。

 

(2) 地域文化財解説員の派遣、人材バンクの構築

 専門家や地域住民等を講師として文化財について指導してもらい、歴史学習や体験学習を充実していく必要がある。その際、「地域文化財解説員」をリストアップすることが有効である。このため、人材リストを作成し、簡便に利用できるよう、インターネットでの検索を可能にするなど、総合的な学習の時間を展開する上で様々な対策が必要である。

 

8.文化財の保存・技術の伝承

(1) 檜皮生産の現状と課題

 兵庫県は、檜皮の高級品である「黒背皮」の60%以上を生産しているが、檜皮採取に適している檜が極めて少なくなってきていることや檜皮を採取する原皮師が不足していることから、著しく支障をきたしている。このため、山南町では、「檜皮・柿葺き技術保存全国大会」を開催したり、檜皮採取研修林を設けたりして、原皮師の養成に積極的に乗り出している。県は、このような試みを支援していく必要がある。

 

(2) 「国宝・重要文化財保護林」の確保

 今後、県有林については、「国宝・重要文化財保護林」として檜皮採取を積極的に受け入れるとともに、80年生以上の檜を計画的に育成していくことが求められる。また、民有林については、その所有者に対して、80年生以上の檜を確保していくよう呼びかけていくことが重要である。

 

(3) 伝統的な文化財保存技術の普及と啓発

 左官、瓦葺き、石垣、宮大工、建造物の模型製作などの技術者が年々減少し、後継者不足も深刻となってきている。今後、伝統技術の後継者を育成するため、技能者の養成方策等について積極的に検討していく必要がある。

 

9.文化財保護活動に係る顕彰

 教育文化にかかる顕彰制度としては、兵庫県文化賞、兵庫県ともしびの賞、兵庫県教育功労者表彰があるが、地域において文化財保護活動を行ってきた者については、顕彰する制度がないのが実状である。今後、文化財保護に貢献した者や団体を顕彰し、文化財の保護活動を積極的に奨励していくため、兵庫県文化財保護功労者表彰(仮称)制度の創設を検討すべきである。

 

 

  

 

循環型社会における歴史文化遺産の活用方策について

 

 

1.歴史文化遺産保護の現状と課題

 

 阪神・淡路大震災による歴史文化遺産の被害状況に鑑み、「阪神・淡路大震災復興基金」は未指定の文化財に対する「歴史的建造物等修理費助成事業」を行った。

 その後、国は、同種の身近な歴史文化遺産の保護を目的とした「文化財登録制度」を創設した。制度の導入から4年を経て、兵庫県内でも70件が登録されているなど、歴史文化的建造物の保存・活用への関心はかつて無いほどの高まりを見せている。しかし、登録文化財の所在が一部地域に偏在しているなど社会全体のコンセンサスを得て活用されているとは言い難い。これらの理由として、歴史文化遺産の存在・価値に対する認識不足、具体的活用方策の欠如、歴史文化遺産の修復専門技術者の不足があげられており、登録制度の導入を積極的に提唱した兵庫県教育委員会としては、この制度の有効な運用方策を提言する責務もある。

 

2.欧米諸国における歴史文化遺産保護の状況

 

  日本の文化財保護体制との違いは、欧米諸国が数十万件の文化財を登録するなど、保護対象件数が多いことである。そして、積極的な歴史文化遺産の利活用を図る中で、歴史文化遺産の修理市場が形成され、地域の重要な産業に位置づけられるまでになっている。 

 また、ドイツやアメリカ合衆国が歴史文化遺産の保全を通して、経済の再活性化に大転換したのはリセッションが起きた頃で、循環型社会に転じようとしているわが国においても、装置としての建築物から文化を育むストックに大転換する時期が来ている。

 

3.歴史文化遺産の活用とまちづくりの関係

 

 歴史文化遺産を活かしたまちづくり関連制度の変遷から、建設省が平成8年にこれまでの建設行政に加えて、「文化」への取り組みを内部目的化し、文化行政との密接な連携を図っていくことを重要な柱とする等、保存部局と開発部局が連携しての保存対策が必要との意識が定着しつつある。

 また、歴史文化遺産の保存及び活用の機運は拡大し、最近では地域において保存・伝承されてきた歴史文化的建造物・記念物・地域の伝統的な芸能や風俗などの伝統文化に対する関心が高まるなど、歴史文化遺産を活かしたまちづくりの進展が期待されている。

 例えば、事例調査の結果、活用が「有る」と答えたもの60%、計画中のもの7.5%であった。しかし、文化財の担当部局と地域商工業、農林水産業及び観光産業の担当部局との連携については、「ない」が約80%を占め、歴史文化遺産の利用が必ずしもまちづくり全体と総合的に調整されていない状況を示していた。

 兵庫県内の現状でも、各種業態を越えて連携を図っている事例も見られるが、建造物等の施設を扱うハード事業とイベント等のソフト事業の両者を有機的に連携した活動は少なく、これらの諸活動を系統だった活動に活性化するためには、公的制度による支援が喫緊の課題となっていた。

 

4.まちづくり活動から見た歴史文化遺産の活用方策

 

 まちなみ保存活動団体の活動調査の結果、保存活動の契機となる立ち上げの局面では専門型団体の役割が大きく、活動内容を見ても専門型団体が啓発活動、行政への働きかけ、技術支援等、根幹的な部分を担っていることが判った。

 歴史文化遺産専門技術者の活用形式として、専門家参画型(文化財建造物の専門技術者は一専門家として参画)、専門家提案型(文化財建造物の専門技術者はプロデューサーも併任)が考えられ、兵庫県の場合には、提案型のケースが多いと推測された。また、歴史文化遺産支援組織の形式として、非地縁型の支援組織で、県もしくは「県民局」程度の広がりを持ち、歴史文化遺産の活用を推進する専門家を包含する団体を組織し、その組織が住民支援をしていく形態が効果的であることが推考された。

 

5.ヘリテージ・マネージャーの制度の導入

 

 まちづくりにおいて歴史文化遺産を利活用するには、独創的なアイデアや市場の動向に敏感な能力が要求されることから、歴史文化遺産の活用を推進する「兵庫県ヘリテージ・マネージャー(歴史文化遺産活用活性化推進委員)」として、

 

@   歴史文化遺産の保存修復に関する技術を有する専門家

A   歴史文化遺産を活用したまちづくりについて、総合的な調整のできるプロデューサー

B   歴史文化遺産を活用していくため、住民の同意を醸成するための歴史文化遺産サポーターとも言うべき歴史文化遺産の理解者

 

が考えられた。また、上記の要望を充足する講習課程として、

 

@ 建築士に対し、歴史文化遺産の調査法及び修復設計手法、歴史文化遺産を活   用したまちづくりマネージメントに係る専門講習

A  アート・マネージャーやまちづくりコンサルタント等住民団体の様々なまちづくり活動を支援している者に対し、歴史文化遺産の見方、歴史文化遺産を活用したまちづくりマネージメントに係る専門講習

B  文化財に対し興味を持っている人に、歴史文化遺産の見方及び歴史文化遺産を活用したまちづくりの魅力等についての講習

 

が必要との結論に達した。

 また、ヘリテージ・マネージャーの活用促進策として、歴史文化遺産を活かしたまちづくりへの参加を促進するため、県教育委員会が受講修了者をヘリテージ・マネージャーとして登録し、登録人材バンク情報を「ひょうごまちづくりセンター」などに提供するとともに、生活空間の整備に繋がるまちづくりと歴史文化遺産の保全・活用の連携を強化するべきである。

 なお、非地縁型の専門家団体の活用が重要であり、登録人材バンクを有効に活用して非地縁型支援団体を組織化するには、登録文化財の発見など市場拡大に繋がる諸活動について、県教育委員会としても積極的な促進策を講ずるべきである。

 

6.提 言

地域の歴史と文化を示す歴史文化遺産の利活用が重要であることを看取し、当委員会は、循環型社会における歴史文化遺産の活用方策について、検討結果を以下の様に提言する。

 

(1)        ヘリテージ・マネージャーを養成すること

 

(2)        ヘリテージ・マネージャーの名称を付与し、歴史文化遺産の積極的な活用を

  図ること

(3)  ヘリテージ・マネージャーのネットワークを形成し、人材バンクの創設を図ること

(4)        ヘリテージ・マネージャーのまちづくりへの参加を推進すること

 

(5)  ヘリテージ・マネージャーに対して、歴史文化遺産に係る調査研究を委嘱すること

(6)  ヘリテージ・マネージャーにより構成された団体の活動について、支援方策を図ること

(7)  将来の目標として、登録文化財の積極的な推進のため、国や各都道府県には、ヘリテージ・マネージャー制度について、制度創設や支援を働きかけること