事故防止−大きな事故を起こさないための実験上の注意−

 事故の原因は、物理的な事故、化学的な事故と、生物的な事故に大別できる。物理的な事故では、火災、爆発、破損、放射能被爆などがあげられる。一方、化学的な事故では、化学反応によるもので、引火、発火、酸化剤などの加えすぎによる溢れ出し、吹き出しなど、生物的な事故では、薬品による急性中毒や慢性中毒、あるいは、環境汚染がひきおこされるようなものである。また、飼育生物の管理不備による生態系への悪影響も危惧され、細菌や血液、ウシの危険部位を扱う実験やDNA実験などで感染の危険にさらされたり、人体に危害を及ぼすおそれもある。このような事故を起こさないためにも、常に、注意を払うことが必要である。

1.一般的な注意

  1. 実験台の上は、常に整理し、試薬の混乱を避ける。
  2. 薬品を入れた容器の口は、必ず人のいない方に向け、反応を観察する場合には、上からのぞき込まないようにする。
  3. においを嗅ぐ場合は、手で鼻の方へあおぎよせ、直接鼻を近づけない。
  4. 有毒な気体を取り扱う場合には、ドラフト内で行う。
  5. 危険物質が飛び散る危険性のある場合には、防護めがねを着用する。
  6. 薬品が手に触れるような場合には、手袋を使用する。
  7. 火気を扱うときには、引火性の物質を近くに置かない。
  8. 必要以上の試薬を用いない。むだになるばかりではなく、反応が激しくなり、危険な場合もある。
  9. 危険な試薬の取り扱いについては十分注意する。
  10. 廃液は、回収・処理をする。
  11. 薬品を取り扱った後には、必ずよく手を洗う。

2.基本操作

  1. 試薬びんの栓はさかさにして実験台の上に置き、試薬びんはラベルを上にしてもつ。  
  2. 試験管に試薬をとる場合には、試験管の内壁を伝わらせてゆっくり注ぐ。また、ビーカーにとる場合には、ガラス棒を伝わらせて注ぐ。  
  3. 試薬を取りすぎた場合、試薬を試薬びんにもどさない。

3.試験管に入れた試薬を加熱する場合

  1. 水溶液を加熱する場合には、水溶液の量を試験管の容量の1/4以下にする。突沸させないように、円を描くように振りながら、試験管の底の少し上をおだやかに加熱する。必要に応じて、試験管ばさみを用いる。  
  2. 固体の加熱で水蒸気が発生する場合には、水平よりも試験管の口を下げるように試験管を固定する。固体は底につめず、管壁に広げ、全体を均一に加熱する。  
  3. 引火性の物質の加熱は、湯浴などを用いて間接的に加熱する。

4.薬品の取り扱いについて

 個々の薬品の特性を知って危険のないよう十分注意して取り扱う。(取り扱いについては、「薬品」を参照)

5.生物材料の取り扱いについて

 本来、その地域に生息しない生物や、自然環境において存在しない生物を使用する場合、飼育生物が、学校周辺の生態系に悪影響を及ぼさないように注意する。 周辺環境に固有の生物との交雑を避けるため実験後の生物や、採集したり購入した生物を安易に実験室外に放出しない。
 細菌や血液などには、病原性の強いものや感染力の強いウイルスが含まれることがあるので、取り扱いに、十分注意する。また、DNAに関する実験は、文部科学省の「教育目的組換えDNA実験指針」に基づいて行う。(バイオハザード対策を参照)

6.物理機器の取り扱いについて

  1. 電気の実験では、回路をすべて作り終えてから、コンセントやスイッチを入れる。導線や端子に手が触れて感電したり、ショートさせたりしないようにする。
  2. 静電高圧発生装置(バン・デ・グラフ型起電機)の電源を入れた後、高圧電極に近づかないようにする。
  3. 紫外線、赤外線、レーザー光源は、直視しない。
  4. X線発生装置を使用する際には、人体が被爆しないように、充分安全確保を図る。
  5. 霧箱用の付属線源は、放射性物質がほとんど裸の状態なので線源に直接手で触れたり、容器から落とさないように注意する。

7.よく起こる事故の具体例

  1. ガラス細工・ガラス器具
    • ガラス管をゴム栓に通すとき、力のいれすぎや操作上の不注意から手を突きさす。
    • ビーカー内の溶液をガラス棒で撹拌するとき、ガラス棒が当たってビーカーが破損し、中の溶液が流れ出して薬傷を起こす。 
    • ガラス細工の時の、くずガラスによるケガや火傷。 
  2. ナトリウム
    • 金属ナトリウムを水に反応させるとき、金属ナトリウムの量が多すぎたための燃焼や爆発によるもの。
    • 残った金属ナトリウムをごみ箱に捨てたための自然発火によるもの。
  3. 硫酸
    • エステルやニトロベンゼンの合成実験における突沸事故で、不注意や取り扱い上の誤りによるもの。
    • 濃硫酸を希釈する操作における急激な温度上昇によるもの。
  4. 揮発性・引火性薬品
    • エステルの合成や薬品の溶解などにおける発生気体への引火によるもの。
  5. 爆発性・発火性薬品
    • 塩素酸塩と燃焼剤を混合するとき、その方法や混合量の誤りによるもの。
      ※指導者が不在の場合に事故が起こることが圧倒的に多い。
  6. その他の劇毒物・有毒ガス
    • 塩素ガスが圧倒的に多い。これは、学習で取り扱う回数が多いばかりでなく、塩素は速効的な毒性をもっていることと、なかなか拡散しないことに起因している。
    • 二酸化イオウ、硫化水素
  7. 前記以外のもの
    • 突沸によるもの。
    • 薬傷(過酸化水素水、硝酸銀、フェノール等)

 実験は、危険を伴うものである。いかなる実験にも常に安全に留意しなければならない。事故を起こさないためのあらゆる努カをはらい、先人の経験を生かして、安全で、効果的で意義ある実験を実施することが大切である。事故の起こる原因を調べてみると、人為的な原因によるものがほとんどである。したがって、いろいろな事項に「注意」して、事故を起こさないよう万全の努カをはらわなければならない。しかし、いくら注意しても、人の誤りをゼロにすることはできない。もし、誤りがあっても、直ちに大事故につながらないようにするための方策を講じることも大切である。