56.有機化合物の分離と確認

[目的]水と有機溶媒への溶解性の違いを利用することにより、複数の有機化合物を分離する。
[薬品]ジエチルエーテル 希塩酸 アンモニア水 水酸化ナトリウム 炭酸水素ナトリウム
有機化合物の混合物(アニリン・安息香酸・フェノール・ニトロベンゼン)
さらし粉 塩化鉄(V)
[器具]分液ロート
[操作]
  有機化合物の混合物の分離
1)ジエチルエーテルに、試料を混合する。
2)希塩酸を加え、よく振る。…アニリンがアニリン塩酸塩になる。(水層)
3)水層(下層)をビーカーに流し取り、水酸化ナトリウム水溶液を加え塩基性にすると油状のアニリンが遊離する。
[確認] さらし粉水溶液を加えると紫色に呈色する。
4)炭酸水素ナトリウム水溶液を過剰に加え、よく振る。…安息香酸が安息香酸ナトリウムになる。(水層)
5)水層(下層)をビーカーに流し取り、希塩酸を加え酸性にすると安息香酸を生じる。
[確認] 安息香酸の白色結晶が多量に得られる。
6)水酸化ナトリウムを過剰に加え、よく振る。…フェノールがナトリウムフェノキシドになる。(水層)
7)水層(下層)を流し取り、希塩酸を加え酸性にするとフェノールが生じ、白濁する。
[確認] 塩化鉄(V)水溶液を加えると青紫色に呈色する。
8)エーテル層をビーカーに流し取り、ジエチルエーテルを蒸発させるとニトロベンゼンが得られる。
[確認] ニトロベンゼンに水を加えると、水に沈み特有の臭気を放つ。
[留意点・工夫点]
混合する有機化合物は、
アニリン(塩基性物質)安息香酸(酸性物質)フェノール(酸性物質)ニトロベンゼン(中性物質)がよい。また試料同士が反応しないことが必要である。塩基性の化合物、炭酸より強い酸性の化合物、炭酸より弱い酸性の化合物、中性の化合物、をそれぞれ1つずつ選ぶ。
試料を混合するには、結晶のフェノールを温めて溶かした後、アニリンとベンゼンと安息香酸を加えて混合するが、安息香酸には、先にジエチルエーテルに溶かしておいた方がよい。
混合試料の分量比は、安息香酸:アニリン:フェノール:ニトロベンゼン:ジエチルエーテル=1g:3ml:3ml:2mlで、実際には、すべて40倍にして作るので、安息香酸を溶かす時のジエチルエーテルの蒸発も2mlの時と比べて液がなくなることはない。ジエチルエーテルは少々追加してもよい。
有機化合物の溶媒としてジエチルエーテルが一般的に用いられるのは、沸点が低く(34.5℃)蒸発しやすいためである。ただし 引火性・麻酔性があるので、火気と換気に充分留意する。
水酸化ナトリウムを加えて出来たアニリンと塩酸を加えて出来たフェノールを抽出する場合は、ジエチルエーテルで遊離させる。
<参考1>
分液ロートの扱い方
実演の方法が理解しやすい。
分液ロート内の気体の圧力が増して来るので、時々活栓を開いてガスを抜く。
分液ロートには口の近くにある穴とふたの穴を合わせると通気ができる。通気の時は、内部の液滴が飛び出して来ることがあるので、液滴を浴びないように通気口の向きに注意する。
<参考2>
 酸性(塩基性)の化合物に塩基(酸)を加えると塩が出来る。アニリンに希塩酸を加えるとアニリン塩酸塩ができる。塩は水に溶け、水層に移る。
酸の強さにより、フェノールは炭酸(CO2の水溶液)より弱いので、炭酸水素ナトリウムでは反応は起こらない。[酸性の強さ] スルホン酸>カルボン酸>炭酸>フェノール