46.霧箱による放射線の飛跡

[目的]簡易霧箱を用いて放射線(α線)の飛跡を観察する。
[準備]放射線源(ラジウム226) 簡易霧箱 ドライアイス エタノール
[操作]
1)ドライアイスを入れる。
2)エタノールをスポンジにしみこませる。
3)放射線源を差し込む。
 
[留意点・工夫点]
ドライアイスは細かく砕く。
ドライアイスを扱うときには、軍手等を使用し、凍傷にならないようにする。
ドライアイスは、直前あるいは前日に購入して紙に包んで、発泡スチロールのふた付の入れ物に入れ、冷蔵庫に入れておくとよい。
容器内のスポンジにエタノールが充分しみわたるようにする。スポイトやピペットを使用するとよい。
霧箱用付属放射線源は、ほとんど裸の状態であるので、直接手で触れないように注意する。また、放射線源の方向や位置を調節するとき容器内の壁面や底面に触れないようにする。
飛跡がよく見えるように、電灯やハロゲンランプなどで容器内を照明する。それでも見えないときには、霧箱のふたを毛皮などでこすり、内部の余分なイオンを取り去る。
時間が経過するとエタノールの過飽和状態がくずれやすくなるので観察は手際よく行う。
簡易霧箱の製作
 
 [留意点・工夫点]
 アクリル容器やタッパーの底に窓をあけ、さかさにして使用したり、ガラスのキャセロールにラップでふたをする。
 放射線源として、キャンプ用ランタンのマントルを利用してもよい。日本製のマントルには放射線源が含まれていない(non-radiativeと明記されている)ので注意する。
 黒い布を敷くと見やすい。
 布の上にエタノールを数滴たらす。
 放射線源は底面から約2p離すと放射線が飛びやすい。
 ドライアイスは固まり(直方体)のまま使用する。
 容器が水平でないと飛跡が斜めに流れるので、水平になるようにドライアイスの下にガーゼや雑巾などを敷いて高さを調節する。実験台の凍結防止にもなる。
 図にあるように窓のまわりの銅線と銅板に高電圧をかけると一度生じた飛跡がすばやく消え、次々に新しい飛跡があらわれる。
 窓のまわりの銅線と銅板はなくても飛跡は見られる。
<参考1>
放射線が見える理由
  放射線は物質を通過したとき、物質中の原子から電子をはじき飛ばして、その原子をイオンにする働きがある。ドライアイスで冷やした過飽和のエタノール蒸気の中の放射線が飛ぶと、放射線のイオン化作用により、イオン化された空気のイオンを核として、エタノール蒸気が液化して霧が発生するため、その霧によって、放射線の飛跡(流れ星のようなすじ)を観察することができる。また、沸点が低いアルコール類は、室温で過飽和状態になりやすいためこの実験に適している。
<参考2>
放射線とその危険性
放射線の種類と性質
  陽子と中性子が小さな原子核にまとまっているのは、陽子や中性子の間に核力とよばれる強い結合力が働いているからである。しかし、核力はクーロン力と違って、ごく近い範囲内で作用するので、原子核が大きくなると、陽子同士の反発力が強く現れ、原子核は不安定になる。また、原子番号が小さくても、不安定なものもある。これらの原子核は、安定な原子核になるまで、放射線を出しながら崩壊を続ける。
種類本体*電離作用透過力
α線
(α崩壊)
エネルギーの大きなヘリウムの原子核
4He(2個の陽子と2個の中性子)
2
原子核は質量数が4、原子番号は2減少する。
強い弱い
β線
(β崩壊)
エネルギーの大きな電子 e-
原子核の質量数は変わらず、原子番号が1だけ増える。
γ線
(γ崩壊)
波長の短い電磁波(10-13〜10-10m)
原子核の質量数、原子番号とも変わらない。
弱い強い
         *電離作用:原子や分子をイオンにする作用
  現在では、大気圏外からの宇宙線、人工的なX線、電子線、中性子線なども、放射線とよばれている。中性子線は原子炉によって得られ、透過力が極めて大きいので、鉄やコンクリートの壁なども透過してしまう(鉛は、透過しない)。
放射線の危険性
  放射性同位体から出る放射線は、生物体の細胞内の物質を破壊する作用があるので、放射性原子の取り扱いには充分な注意が必要である。α線の空気中の飛程は、10p前後で、β線もそれほど長くなく、衣服で止まる。外部から人体に照射した場合、α、β線は皮膚などの表面に影響を与え、γ線は体内に深く侵入して原子や分子に作用をする。また、体内に取り込まれた(手についたものが口に入る)同位元素の場合、α線を出す同位体のなかには骨に吸収され沈着するものが多く、骨髄に障害を与えるので特に危険である。
実験中の注意
 @ 放射線源に絶対に触れない。実験後、よく手を洗う。
 A 放射線源にはなるべく近づかない。
 B 放射線源は、使用時以外、鉛板などでシールドを施す。
 C 放射線源を破損することのないようにする。