兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫 |
浮世絵と女性−カミーユ・クローデルとメアリー・カサット− 2019年5月15日 |
歌麿・写楽・北斎・広重・国芳の作品146点を集めた特別展は、予想に違わず大人気です。開会後3週間にして一万人を超えたのは、10連休という特別な事情を差し引いたとしても、人気のほどを物語ります。
どの作家も名品揃い、というコレクションの質の高さも、観覧者一人一人に満足感を与えていると言えるでしょう。この機会に、日本の誇る美術品を堪能していただきたいと心から願っています。
ところでこの5人、1750年代から1860年の間に、画家としてのそれぞれの人生を送っています。歌麿・写楽、北斎、そして広重・国芳の三世代で一世紀。したがって「五大浮世絵師展」は、「黄金期浮世絵の1世紀」展と言い換えることができます。
観覧者のアンケートに、これだけ並ぶと浮世絵の流れがよく理解できる、という感想が多いのも首肯されます。まさに浮世絵、とくに多色刷り錦絵の魅力全開です。
会場でわたしたちが感じるこのインパクトを、1890年代の欧米の画家たちが感じていました。
その代表は、1853年に生まれたゴッホで、歌川広重の「名所江戸百景」(1857作)の「大はしあたけの夕立」などを写していたことでよく知られています。24年前、ゴッホ美術館でその作品を見たのですが、それが、海外で浮世絵を見た最初でした。それ以来、海外に出ると決まって美術館で浮世絵を見るのがクセになっています。それを通じてもつ印象は、日本の浮世絵が、欧米の女性画家を育てたのではないか、ということです。
パリのロダン美術館で見たカミーユ・クローデルの作品「波」(1897−1903)は、北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」を彷彿とさせます(写真1、会場は撮影OK)。
高さ60センチほどの作品ですが、北斎譲りの大波とカミユ創作の女性像との融合に、思わず見とれてしまいます。
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いまひとりは、アメリカの印象派画家メアリー・カサット(1845〜1926)の作品「水浴する女」(写真2)。
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ワシントンのナショナルギャラリーで見たモノですが、図録Mary Cassatt : Modern Woman,1999によれば、彼女自身、浮世絵のコレクションを持ち、居間には鳥居清長の作品を掛けていた由(写真3)。
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また「水浴する女」は、上半身裸の女性の前にある鏡がミソで、歌麿の作「鏡を見る高島おひさ」から着想を得たと言うではありませんか(写真4)。
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男性絵師の独壇場であった日本の浮世絵は、大量に欧米に出回ることで、女性の芸術家を生み出す力となったのではないか―長く、海外で浮世を見てきたわたしのささやかな印象です。
写真1は、ロダン美術館で撮影 写真2〜4は、図録“Mary Cassatt : Modern Woman”ワシントン・ナショナルギャラリー、1999による。