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兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫 |
桜を見なかった一年 ―20年前の思い出― 2019年3月15日 |
我が家のトイレには、在日韓国青年会が作成したカレンダーが掛かっています。韓国好きな妻が買ってきて掛けたモノですが、3月の画像は卒業式です。
チマ・チョゴリを着た学生とともに桜が描かれています。しかし本場韓国は、欧米と同様6月卒業ですので、これは日本の暦に合わせた特別版ということになるでしょうか。
いずれにしても3月は、卒業式のシーズンです。追いかけるように入学式が来るので、桜が、卒業式と入学式のどちらの時に学生・生徒たちに微笑むのかは、長い日本列島のこと、学校のある場所によるでしょう。個人的な感想でいえば関西は、圧倒的に、入学式の桜だと思います。
この日本人に馴染み深い花−桜−を、まるまる一年間、見なかった年があります。正確には「日本で」見なかった年と言い換えるのが正確ですが、ふだんなら、3月後半から4月末にかけて、どこかで必ず目にする桜を、その年の3月末から翌年の4月まで目にすることがなかったのですから、強く印象に残っています。その要因は、1999年3月末から一年余、アメリカ・プリンストンで暮らしたからです。
しかし面白いことに、桜を見なかった分、ふだん日本では、あまり注目しない花に目が行き、魅せられました。
第1にマグノリア、とくに色濃い紫木蓮です。アメリカに住まいして最初に町に出かけたときに見たマグノリアの印象は鮮やかで、目を奪われました(写真1)。
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とくにレンガや石造の建物とのコントラストは絶妙で、早春を代表する樹木と言えるでしょう(写真2)。
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木蓮が、春の到来を告げる樹木の花だとすれば、イの一番に春を告げる植物は、いうまでもなく球根類、とくにクロッカスや水仙・チューリップです。オランダではクロッカスが咲くと、その日は「クロッカスの日」として学校が休みになる、と聞いた記憶があります。印象深かったのは、ベルギーの古都ブルージュのベギン会修道院の中庭に咲き揃う黄水仙(写真3)。
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庭に聳え立つ針葉樹がすべて裸木で、冬のまま、時が止まっている−と思った瞬間、足下に広がる黄色と白の水仙の花・花・花―これもまた感動の一瞬です。
この訪問は、アメリカからヨーロッパ経由で帰国する折りの一コマですが、予定では隣国オランダのキューケンホフ公園でチューリップを見る計画でした。しかし見頃は4月、3月では時期尚早ということで諦めました。
しかし想いは断ち切れず、数年後の訪問となりましたが、32ヘクタールに700万球という触れ込みは半端でなく、圧倒的なチューリップの海でした(写真4)。写真ではとても伝えきれません。
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ちなみに木蓮の花言葉は「自然への愛」、チューリップは「思いやり」(花の色ごとに違うようですが)、黄水仙は「私のもとへ帰って」だそうです。