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兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫 |
「鏡開き」と「菰巻き」〜「ほろよいひょうご」展によせて(続)〜 2018年11月15日 |
特別展「ほろよいひょうご―酒と人の文化史―」を開催中なので、再度、お酒の話を。
特別展は、日本酒の展示らしく「鏡開き」で始まりました。
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以前、教え子の結婚式で一度、やった記憶があるのですが、四斗樽を木槌で打ち下ろし開封する行為―それが「カガミビラキ」と呼ばれているのです。古来、カガミはまず、水に映るおのれの姿を見る水カガミから始まり、のちに金属製の鏡・鑑へと進化したと言われています。樽にナミナミと入った酒を鏡に喩えたことで、それを開くことが鏡開きになったのでしょうが、ネーミングの面白さに感心。当日、一緒に鏡開きした神戸新聞の太田支社長は、中に酒が入っていると期待されたのですが、中身は空。それでも木槌で蓋の外れた樽から、お酒の匂いがプーンと漂ってくるではありませんか。
その酒樽を包んでいるのが菰(こも)。菰巻きの実演が11月10日(土)の午後、尼崎市の岸本吉二商店のご協力で行われました。本来、菰は稲わら、それも背丈の高い山田錦の稲わらでされるのですが、近年は、化学繊維が使われています。菰の正面は、白く下地が塗られ、そこに思い思いの酒銘と象徴的な絵柄がプリントされることで、パッケージとしての菰が完成します。それを樽に巻き付け、太いモノと細いモノの三種類のわら縄(これも現在は化学繊維)で巻き上げるのが菰巻き。その手業は、まさに電光石火。太く長い縄が蛇のようにノタウチ回ったかと思うと、いつの間にか、酒樽を締め上げていました。
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荷師(にし)と呼ばれる手仕事が、今も、伝承されているのですが、嬉しいのが26歳の、この道6年の若者が実演してくれたこと。20歳の頃、それまで学んでいた情報工学の世界から転身、菰巻きの世界に入ったとインタビューで応えてくれました。「モノづくりが好きだったから」と言いますが、地べたに座ってするこの仕事、辛いはず。それを6年続け、やっと人前で披露する技量を備えるようになったのです。当日の出来映えはと聞くと「85点」と応えてくれました。20歳代の青年が、荷師として菰巻きの技術を継承していることに感動された大勢の聴衆から、激励の拍手がありました。
この菰づくりも鏡開き同様、酒樽の需要があってのこと。720mlの瓶詰めで酒を飲んでいるだけでは、鏡開きも菰巻きも必要とならないか・・と沈んでいると、岸本商店では丸い瓶詰めを巻いた小さな菰も作成されているとか。しかも個人の誕生日の祝い、新年の祝いには干支の入った菰など、慶事に合わせて注文を受けている由。ミニ鏡開きセットもあるというので、菰樽の将来に明かりがさした気がします。
そういえば、展示室の入口に並ぶ菰はたしかにミニの菰でした。
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