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兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫 |
松尾大社と第36・37代知事阪本勝さん―「ほろよい・ひょうご」展によせて― 2018年10月15日 |
10月6日、秋の特別展「ほろよい・ひょうご」が鏡開きとともに開会、11月25日(日)までみなさまのご来館をお待ちしております。
展示の準備が行われていた今年6月30日、「酒づくりの神様」として広く酒造家の信仰を集めている松尾大社に参拝しました。特別展「ほろよい・ひょうご」の開催を告げ、成功を祈るためですが、これまで同社を訪れたことがなかったのもひとつの要因でした。
折しも夏越し祭りの最中で、茅の輪をくぐって本殿への参拝となりました。名物の山吹は、すでに花を落としていましたが、神域を流れる疎水は水量が豊かで、境内が瑞々しさに溢れています。その象徴は、本殿の脇に立つ「亀の井」【写真1】。文字通り彫り物の亀の口から樽型の容器に、こんこんと清水が流れ出ています。見上げれば、「神泉」と書かれた扁額が架けられています。聞けば、各地の酒造業者が酒作りのはじめに、この清水を瓶に詰め、杉の細い葉を集めて珠状にした酒林(さかばやし)とともに持ち帰るのだそうです。
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それに御利益を受けている酒造家がいかに多いかは、拝殿の左手御輿倉の前にうずたかく積まれた銘柄入りの酒樽が物語っています【写真2】。さすがお酒の神様、壮観です。
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楼門を出ると右手にお酒の資料館があり、無料で見学できます。メーカーからの寄贈された大小さまざまな酒造道具が展示されているのですが、入り口には、桶を利用した撮影コーナーがあったので余興で一枚【写真3】。
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境内には当然、酒造業に関する記念碑や燈籠なども林立しており、特別展にパネルで展示された義民清兵衛の顕彰碑はその一つ。清兵衛は、丹波杜氏を代表する人物で、兵庫の酒造史に欠かせない功労者ですが、現地の篠山城跡とならんで松尾大社にも建てられているのです。そんな杜氏の歴史を知ろうと『丹波杜氏』(丹波杜氏組合、昭和32年)をめくっていると、第36・37代知事(1954〜62)であった阪本勝氏の序文が目に飛び込んできました。そこには「酒はわたしの子守歌だ」とあるではありませんか。これはどうしたことかと、調べてもらうと「ぼくの母の家は大阪天満の古い酒造家だった。おおぜいの酒造り男がぼくをボンボン、ボンボンといって可愛がってくれた。」(『阪本勝随筆集』)という一文に行き着きました。納得です。
いまでは一軒も酒造家がありませんが、かつて大阪天満の酒造組合が奉納した燈籠も、松尾大社の一画にありました【写真4】。
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