![]() |
兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫 |
鉄道の思い出 2018年5月15日 |
企画展「線路はつづく」を開催中です。展示コーナーにどんと、鉄の塊が置かれ、重量感たっぷりの展示です。副題に「レールでたどる兵庫五国の鉄道史」とある通り、主役はレールと言えるでしょうか。
今回の展示には、県内における鉄道の始まりを伝えるという狙いがありますが、列車に乗った記憶は、大なり小なり、誰しもが持っているように思います。かつて読んだ本ですが、民俗学者の宮本常一は、故郷周防大島に生まれ育ったことから、10歳代半ばに大阪に出る折に乗った列車が生涯、初の列車経験だったそうです。離島に生まれた人なら、いまでも経験することがまれでしょうが、その時、父親から「乗っている間、眠ってはいけない。車中から窓越しに見える景色をよく観察するように、また駅に着く度に乗り降りする人の姿や会話にも注意するように」と言われたそうです(原文はもっと良い表現です)。佐野真一氏の『旅する巨人』で知った話です。この戒めは、常一少年を民俗学者にする一言であったと思われますが、車中、掌に載ったSNSに集中し、窓の外や隣の人に注意を注ごうとする人がいない昨今の状況を見るに付け、鉄道が、ただの人を運ぶ手段になってしまったのではないかと思えてきます。
そんな現代人も、たぶん、海外で鉄道に初めて乗るときには、常一少年と同様、初体験に心をふるわせ、周囲に目をやるのではないでしょうか。わたし自身も、ヨーロッパの各地を旅するなかで鉄道に、あらたな発見があったことは一再ならずあります。そのいくつかを写真とともに紹介します。
まずは、機関車とレール(写真1)。撮影地点は忘れましたが、タラップの低いこととレールの幅の広い(広軌)ことに驚きました。列車の汚さとともに自転車が乗り込んでくるのにも目を見張りました。
|
つぎは駅舎。思い出の駅舎はパリの北駅をはじめたくさんありますが、とくに終着地の駅は、映画「終着駅」があるように文化が濃縮されています。建築物としても見事で、パリ・リヨン駅は、見事なアーチがプラットホーム全体を覆い(写真2)、対するベルギーのアントワープ駅は、石造りの豪壮さで旅人たちを唸らせます(写真3)。外から見るだけでは、それが駅とは思えない優れた近代建築の粋です(写真4)。
|
|
|
そして最後は、山岳鉄道の勇姿。「動く世界遺産」と呼ばれるレーティシュ鉄道ベルニナ線(スイスのサン・モリッツとイタリアのティラーノ間を走る)に乗った折のスナップです(写真5)。この後、列車は、巨岩をくり抜いたトンネルに吸い込まれていきました。
|