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兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫 |
レキハクの登竜門―新人学芸員のデビュー― 2018年1月15日 |
どの人の人生にも、「初舞台を踏む」という経験があるものです。初舞台とは役者や芸人の場合ですが、スポーツ選手なら新人戦、歌手ならデビュー、小説家なら芥川賞と、言い方はさまざまでも、どの分野にも登竜門に類する関門=階段があります。長く大学教授を務めていたわたしも、最初に女子大生の前で講義した瞬間は忘れられません。先輩の教授から、「女性と思わないで、大根やカボチャが並んでいると思って」と励まされて立ったものの、何を話したかまったく覚えていませんでした。
新年冒頭のブログにこんな話題を振ったのは、昨年12月後半から、当歴史博物館(略してレキハク)の歴史工房(無料スペース)で、新人学芸員二人のデビュー展が開催されているからです。二人とも、昨年4月に採用された新人で、この度の展示が、規模が小さいとはいえ、初めての自分の展示です。まさに彼女たちの登竜門に当たる展示なのです。
歴史工房室の右手が、近世絵画専門の山口奈々絵さんのコーナー。そこには黄地に白で「江戸絵画にみる吉祥のかたち」のタイトルの下、狩野栄信(ながのぶ)の作「寿老人竹梅鶴図」が展示されています。縦136p、横幅61cmという大ぶりな軸が三幅も掛けられ、迫力のある展示です。展示品のキャプションと並んで「どんな意味をもつかな?」として、画中の寿老人・桃・霊芝・白鹿が取上げられ、絵の中のキーワードを分かりやすく示そうとしているのは学芸員としての工夫でしょう。
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そのめでたい絵の隣に、黒地に赤で「じごくへようこそ」とあるのが、もうひとりの新人藁科宥美さんの展示です。ここでも負けじと、大きな掛け軸「五趣生死輪図」が中央を占め、五輪を持つ赤鬼が観覧者を待ち受け、迫力満点。そして左に「六道ってなに?」「今回は地獄を取上げます」のパネルと源信の『往生要集』(天保版版本)を置くことで、地獄観の由来を説明しています。さらに右手には「善悪地獄極楽双六」が展示されていますが、それは当館の遊べる双六「浄土双六」を念頭に入れた工夫でしょう。
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歴史工房には館蔵品を使うという約束事があるので、中世絵画を専門とする藁科さんにはとくに展示品の選択に限界があったことと思いますが、それでも「人様に見てもらう」という緊張感は、山口さんも同じ。昨年の4月以降、いろいろと考えてきた成果だと思います。
同じ経験は、2年先輩の学芸員大黒恵理さんもしています。彼女は登竜門で、当館の歴史では初めてという女性の展示「近世庶民女性と文字」を試みたのですが、兵庫県のマスコットはばたんの絵入りのキャプションが評判でした。今秋には、いよいよ特別展を担当します。
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ベテランの展示は、いつでも見ることができますが、新人の展示は一度きり。3月半ばまでの会期中、ご覧いただければ幸いです。