![]() |
兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫 |
博物館・美術館を巡る 2017年11月15日 |
台風による悪天候の続いた10月と打って変わり、11月には秋の空が広がっています。 行楽のシーズンにふさわしい好天には、どこかへ出かけたくなるものですが、わたしの場合、博物館長になる以前から、博物館・美術館巡りが恒例のイベントです。あわせて館長になってからの好奇心―他の県立レベルの博物館の実状を見てみたい―という下心も加わっての秋の博物館巡りとなりました。
まずは定番の正倉院展(奈良国立博物館)。久しぶりの観覧でしたが、平日の午後ということで10分程度の入場待ちで館内に。ほの暗い館内に展示されているものは小ぶりなものが多く、他人の背中越しに見ることが多いのですが、それを計算してか、実物の上に、細部を拡大した写真を掲げ、さらに展示ケースの外に日英両言語のキャプションを添えるという工夫がされていました。しかも、キャプションの文字が大きくて読みやすいのも長年の定番展示の経験から得られた工夫と感心させられました。展示物のなかでは、最後のコーナーにあった戸籍・計帳・田図などの古文書が興味深いものでした。
つぎは三重県立美術館の本居宣長展。これも平日でしたが、三重県出身の大偉人の特別展にも関わらず館内は閑散としており、居合わせたのは近所の介護施設から来た高齢者グループのみ。しきりに「難しいてようわからん」という声が聞かれましたが、わたしの見るところ、展示物に添えられたキャプションの文字が小さすぎることに最大の原因があると思われました。本居記念館の協力を受けているだけに、キャプションの内容は素晴らしい出来ですが、見えにくくては「猫に小判」。正倉院展並に工夫してほしい―と強く思いました。それにも関わらず、宣長手書きの日本地図を展示するなど、大国学者が図像に大きな関心を持ち、作品を残していたとの視点はとても新鮮で、わたしの滞在時間のもっとも長い美術館でした。
展示の最後に「奇想の画家」として有名な長沢蘆雪の手になる高僧の頂相(肖像画)が展示されており、そのカラフルな世界に驚いたのですが、愛知県立美術館で蘆雪展が開催されているというので、その足で、名古屋に向かいました。
初めてじっくりと展示を眺めたのですが、南紀和歌山の禅宗寺院の襖絵など水墨画を中心とした作品群に驚きました。特定の主題で描かれた襖絵で、禅寺の本堂を構成するというのは、「絵は単体のものだ」という認識とは異質なもので、その空間を再現した展示手法には目を見張りました。同じ工夫は、サントリー美術館で開催されていた狩野元信展でも試みられており、ひとつの流行なのかも知れないと思うと同時に、瞬時に、両者を比較してみたい誘惑に駆られました。片や16世紀中葉、片や18世紀末ですから、そこには200年余の時間が流れているのです。
|
|
|