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兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫
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風呂敷の柿としらるるみやげかな 2016年11月15日 |
二年前に亡くなられた落語家桂米朝師匠の一句。秋が深まり、枯れ木に残る柿の実が甘みを増していく今日この頃にピッタリです。
当館では現在、「描かれた大正モダン・キッズ《と題し、1914(大正3)年に婦人之友社から発刊された『子供之友』の原画展が開催されています。100年あまり前の作品ですが、保存状態がよかったお蔭で美しい色合いをたっぷりと楽しむことができます。『子供之友』のあゆみと共に、北澤楽天・竹下夢二・武井武雄・村山知義らの画家ごとのコーナーが設けられ、子供に向けた視線と画風の違いを楽しむことができます。個人的には村山知義に惹かれるのですが、歴史研究者としては、<大正>という時代相への関心が強く生まれます。
大正という時代の文化史的魅力に目を開かされたのは、半年ほど、ベルギーに滞在していた2009年の夏でした。隣国オランダに小旅行した折、ロッテルダムで見たTaisho Kimono展がそれです(※1)。オランダ人学芸員の企画ですが、催し物会場には着物が天井からぶら下げられ、宙づりになった着物を「絵《のごとくに鑑賞するのです。男物・女物、そして子供向けの着物が並び、その中の一品、背にベースボールを描いた羽織に目を奪われました。ほかにも汽車や飛行船を描いた男子用、撫子満開の女子用と、それはそれは着物の鮮やかなこと。着物という和装とベースボールや飛行船という新文明との融合は、着物の通念を打ち破るものでした(写真は図録“Taisho Kimono”による)。大正時代は、日本の着物文化の最後の黄金期である―とは、企画した学芸員の解説です。
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対する今回の「大正モダン・キッズ《展には、和装に対する洋装のハイカラさが、こども文化の新傾向として全面に発現されています。ほぼ同時期に開催されている国立歴史民俗博物館企画展「身体をめぐる商品史《は、歯磨きや洗顔、百貨店といった大人と子どもの新しい身体経験として大正時代を捉えようとしています。100年前の時代に注がれた複数の視点は、大正時代の豊かさを示しているようです。
(※1)Kunsthal Rotterdam, ”Silk Stories Taishô Kimono 1900-1940”, March 28, 2009-June 21, 2009.
http://www.kunsthal.nl/en/exhibitions/taisho-kimono/
(※2)国立歴史民俗博物館、企画展示「身体をめぐる商品史《、2016年10月18日(火)~12月18日(日)。
http://www.rekihaku.ac.jp/outline/press/p161018/index.html
https://www.rekihaku.ac.jp/exhibitions/project/old/161018/img/flier.pdf