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兵庫県立歴史博物館 館長 藪田 貫
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「災害と歴史遺産」展の語るもの 2015年2月1日 |
阪神・淡路大震災20年の1月17日(土)朝、午前7時頃、自宅近くの停留所でバスを待っていると、雲の間から大きな丸い太陽が顔を出しました。即興で「震災日 昇る太陽 いとおしく」という句が浮かびました。忘れられない朝を、思い出させてくれた太陽でした。
わたしたちのレキハクでは、今、「災害と歴史遺産」展を開催しています。「被災文化財等レスキュー活動の20年」という副題の示すように、地震・津波・台風・洪水などの災害から貴重な文化財を救出してきた歴史が、展示されています。前半は東日本、とくに陸前高田市の事例、後半は兵庫県域の事例が扱われているのですが、陳列されているのは、仏像、土器、刀から、絵図、古文書、水車、昆虫標本にいたる多様なモノで、一瞬、何の展示なのかと驚きます。通常の見慣れた展示、つまりテーマを決めて、絵画なら絵画、古文書なら古文書が並んでいるという美術館・博物館の常識とかけ離れているからです。
その理由は、ほかでもありません。陸前高田市立博物館がまるごと、震災と津波の被害に遭ったと事件ことに由来します。同様に、尼崎市や佐用町の旧家が、まるごと被害を受けると、木のモノも、金物も、紙のモノも、泥と汚水にまみれることとなります。その時、「もう駄目だから捨てよう」とゴミ扱いされていれば、今回の展示は生まれていません。「貴重な文化財・歴史遺産だから残そう」と判断したときに、はじめてレスキューとなるのです。人の命の尊さは、誰もが知っています。命についで、文化財という大事なモノがあると人々に認識されることで、文化財レスキューが生まれたのです。その始まりは、1995年1月の阪神・淡路大震災でした。
20年の歳月を思い返しながら、ひとつひとつの展示物に見入りました。