令和7年度阪神・淡路大震災追悼行事に寄せて2026年1月16日
おはようございます。今日は1月16日、明日で阪神・淡路大震災から31年を迎えます。
■ 能登半島で見た「復興の現実」
私は昨年11月、石川県の能登半島を訪れました。
2024年元日に発生した能登半島地震の際に、被災した高校の校長を務めていた友人に招待され、被災地の今の姿を見てきました。
そこには、地震で隆起した海岸線を、そのまま道路にしている場所がありました。こんなにも地形が変わるものなのかと、言葉を失いました。
大規模火災と地震被害により建物が焼失した「輪島の朝市」は一面の更地となり、今も原っぱとして残っていました。輪島市では、この輪島朝市を「復活の象徴」として再整備する計画を進めているそうです。
ニュースでは「能登半島の復興が進んでいる」と報じられています。しかし現地に立ってみると、そこには今なお「時間が止まったまま」の場所が数多く残っていました。
復興とは、単に元に戻ることではなく、失われた日常の上に「新しい日常を築き直すこと」なのだと思います。そう考えたとき、この31年間、神戸で暮らし、神戸で働いてこられた方々が歩んでこられた道のりの重さとご苦労を、あらためて実感しました。
■ 「記憶を風化させない」とは何か
1995年1月17日5時46分52秒、淡路島北部深さ約16kmを震源とするマグニチュード7.3の兵庫県南部地震が発生しました。この地震は6,434人の命を奪い、数えきれない人々の日常を一瞬で壊してしまいました。
あれから、「震災の記憶を風化させない」という言葉をよく耳にするようになりました。では、なぜ忘れてはいけないのでしょうか。
それは、災害が「過去の出来事」ではなく、“これから私たちの身に起こりうる現実”だからです。
阪神・淡路大震災、東日本大震災、そして熊本や能登半島の地震など、日本は繰り返し大地震に見舞われてきました。南海トラフ地震は、いつ起きてもおかしくないと言われています。
「自分の世代には起きないかもしれない」
そう思った瞬間、防災は他人事になります。31年前の今日、明日も今日と同じように朝が来るはずでした。大地震が来るとは誰も思っていなかったのではないでしょうか。今夜布団に入り、明日の朝、いつもと同じ朝が来ないとしたら・・・そんなことを、少し想像してみてください。
だからこそ、私たちは毎年1月17日に立ち止まり、「自分事」として捉え、考え続ける必要があると思っています。
■ 「そばにある幸せ」に気づくということ
2年前の神戸新聞に掲載された、災害社会学者で関西学院大学教授の金菱清さんのコラムに、私はとても心を打たれました。
そのコラムは、東日本大震災の遺族の声を聞いていると、「あの朝、なぜ気持ちよく挨拶をしなかったのだろう」と何年も悔やみ続けているという方が少なくなかった、という内容でした。
「あの日のわたしへ手紙をつづる」(『永訣』)という本のプロジェクトのなかで、「10年前に災害のことを何も知らない自分自身に対してもし伝えられるとしたら何を教えたいですか」という問いに対して、津波でお父さんを亡くされた男性が書いた手紙の一節を紹介します。
『 せめてこれだけは3月11日の朝、お父さんに伝えてください。
「朝ごはんの目玉焼き、今までで一番おいしかったよ。行ってきます」
私はこの言葉が言えなかった。日常の中のたった一言、二言をわざわざ伝える必要がないと感じていました。でも、伝えられなかったことを今までずっと後悔しています。 』
今日、みなさんが当たり前に食べた朝ごはん、交わした会話、笑顔。それらは「保証されたもの」ではありません。「明日もある」と思っていること自体が、実は奇跡なのかもしれません。何気ない日常の尊さを心にとめてみてください。
■ これからの私たちの役割
政府は、昨年12月26日の閣議で「防災立国の推進に向けた基本方針」を決定し、災害への備えと対応を一体的に進める「防災庁」の、今年中の設置に向けて動き出しました。
しかし、防災は国だけで取り組むものでないことは当然です。
本校は、阪神・淡路大震災の被災地にある高等学校です。だからこそ、私たちは「防災」について、地域や専門家の方々にも力を借りながら、広い視野で、科学的に、考え続けていく責任があると思います。
学校で学ぶこと、話し合うこと、一人ひとりが研究すること---これらも大きな「社会の防災力」になると信じています。
■ 結びに
今日の追悼行事は、亡くなられた方を追悼する機会であると同時に、「生きている私たちが、どう生きるかを考える日」です。
明日の朝は、家族に「おはよう」と言い、友人に「ありがとう」と伝えましょう。
そして、阪神・淡路大震災で亡くなられたすべての方々に、心より哀悼の意を表するとともに、この1月17日を、「命と日常を大切にする日」として、胸に刻みましょう。
兵庫県立長田高等学校長 藤原 生也