学校長挨拶

学校長挨拶2023年4月3日

兵庫県立長田高等学校のホームページをご覧いただき,ありがとうございます。

本校は大正10年4月に,その前身である県立第三神戸中学校が開校して以来,令和2年度に創立100周年を迎え,今,次の100年に向けて新たな歩みを始めました。

開校以来,近藤英也初代校長が掲げられた3つの理念からなる「神撫(しんぶ)教育」が,教職員・生徒に脈々と受け継がれています。

一つは,「智・徳・体」の調和・統一した全人教育
 二つは,一芸一才つまり個性を重んじる教育
 三つは,自己教育力を養う教育

これらの教育理念の実現に向けた取り組みにより,地域社会からも信頼され,全国的にも「兵庫県に長田高校あり」と評され,これまでに多くの優秀な人材を世界に輩出し,卒業生は経済,学芸,政治など各界で広く活躍されています。どんなに社会が変化しようが,「時代を超えて変わらない価値のあるもの」として,この「神撫教育」を大切にしていきます。

一方,国際化や情報化が急激に進み,VUCA時代と言われ,激しい変化が短いスパンで起きる予測不能な時代において活躍できるグローバルリーダーの育成が急務です。本校は,令和4年度より,文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール」の指定を受け,理数系教育に軸足を置きながら,文理融合の「人文・数理探究類型」を中心に,全校生徒を対象とした「探究活動」を通して,科学的思考力・情報発信力・問題解決能力等を一層高める学習活動を実践していきます。

伝統ある「神撫教育」の理念に基づきながらも,時代や社会の変化に対応した教育を進め,高い志を持った次世代のグローバルリーダーの育成に力を注いでいきます。

新型コロナウイルス感染症も感染症法上の5類となり,活動制限も大きく緩和が進みそうです。教職員一同力を合わせ,安易にコロナ前に戻すのではなく,時代の変化に合わせた長田高校らしい教育活動に取り組み,本校生徒の成長を図って参ります。さらなる高みを目指す長田高校にご期待ください。

兵庫県立長田高等学校
校長 山根 尚

1学期始業式式辞 2023年4月10日

皆さんおはようございます。午後から新入生を迎え,いよいよ令和5年度がスタートします。コロナについても5月8日には,感染症法上の2類から5類の位置づけになり,様々な制限が緩和されます。マスクのない生活に慣れない人もいるでしょうが,徐々にコロナ前,ウィズコロナの生活に適応していきましょう。

さて,巷ではAIを活用した自動応答システムの「チャットGPT」が流行っています。国会審議でも取り上げられました。皆さんはもう使っていますか。質問を入れるとすぐに回答が返ってきて,そのレベルも高いそうです。この「チャットGPT」を使ってレポートを作成する学生もいるようで,欧米では使用を禁止している大学もあるようです。

AIを有効に活用し,レベルの高い業務を遂行したり,働き方改革等につながることは今後必要であると認識した上で,相対する思いもあります。AIが間違いのない安全な道を示してくれるのはとても便利なのですが,それに全て頼ることは私たちにとって本当に有益なのかということです。そもそも偉大な発明や発見などというものは,誰も見向きもしないものを相手にし続けて,周囲から「無駄な研究」「変わり者」などと揶揄されながらも,その成果を積み上げた結果です。

AIが示してくれた道ではなく,結果的に失敗の道を選んで歩いて,最後まで失敗かも知れない。しかし,その道の途中で失敗した人の気持がわかるようになったり,失敗から立ち上がる力を身につけたり,回り道ばかりしているのでAIが知らない道に詳しくなるのかも知れない。人間性やクリエイティブな知性を高めるためにも,「チャットGPT」などのAIとは上手く付き合わないといけないと感じました。

さて,皆さんの記憶にも新しいと思いますが,Jaxaの宇宙飛行士候補に諏訪さんと米田さんが合格しました。米田さんは兵庫県で中高を過ごしたので,神戸新聞等で大きく取り上げられていました。2025年に月面に人類が降り立ち持続的な活動を目指す「アルテミス計画」の宇宙飛行士に選ばれる可能性もあるということで大変楽しみです。その試験内容は従来と変わり,性別不問,3回のプレゼンが課せられ,学歴も理系という縛りはなくなり不問となり,文系,理系だけでなく,芸術的な感覚も必要とされています。国の科学技術基本計画の中でも,文系や理系などと言う学びの分野の壁を打破した環境で学ぶことが大切と示されています。本校は昨年度より,文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクールに指定され,「探究活動」に関する取組に力を入れています。本校での文理融合の学びの中で,現状を正しく把握し適切な課題を「みつける力」,変化に対応し,粘り強く課題解決を「すすめる力」,得られた知見や成果を多くの人の理解と共感を得ながら社会に「ひろめる力」を,探究活動を通して身につけて欲しいと考えています。その過程では,先程話した人間性やクリエイティブな知性,自己肯定感なども育って欲しいと期待しています。

令和5年度も神撫教育の理念に基づき,日々の学習活動,部活動,様々な行事などの教育活動に邁進してください。そして,VUCA時代と言われ,予想もしない激しい変化が短いスパンで起きるこの時代に,日本のそして世界の未来を切り拓いて行くんだという気概が持てるよう,その礎となる力をつける一年になることを期待して1学期始業式の講話とします。

78回生入学式式辞 2023年4月10日

校庭の木々にも緑の息吹を感じる今日の良き日,兵庫県立長田高等学校第78回入学式を挙行できますことは,この上ない喜びであります。

この晴れの舞台にご来賓としてご臨席をいただきました,PTA会長 三輪 泰信 様,  同窓会長神撫会理事長 玉田 俊郎 様,誠にありがとうございます。

ただ今,入学を許可いたしました320名の新入生の皆さん,ご入学おめでとうございます。晴れて兵庫県立長田高等学校に入学されたことを心よりお祝いするとともに,皆さんが本校の仲間に加わったことを,在校生,職員一同,心より歓迎します。

本校は大正10年4月に,その前身である県立第三神戸中学校が開校して以来,脈々と受け継がれてきた神撫教育と,自由闊達な校風の下に長い歴史を積み重ね,令和2年度には創立100周年を迎えました。地域社会からも信頼され,兵庫県下のみならず,全国的にも「兵庫県に長田高校あり」と評されるところとなり,これまでに多くの優秀な人材を世界へ輩出し,卒業生は経済,学芸,政治など,各界で広く活躍されています。

新入生の皆さんには,このような輝かしい歴史と伝統のある長田高校に入学したことを誇りに思い,長田生の一員として共に次の100年に向けて歩み出して欲しいと思います。しかし,決しておごることなく,多くの立派な先輩方に続くよう,常に向上心を持ち,学びを怠らず,一人ひとりが有意義な学校生活を送ることで,さらに長田高校の伝統を継承し,そして発展させていって欲しいと願っています。

さて本校は,昨年4月,文部科学省より「スーパーサイエンスハイスクール」に指定されました。理数系教育に軸足を置きながら,文理融合の「人文・数理探究類型」を中心に,全校生徒を対象とした「探究活動」に関する取り組みを進めていきます。そして,それらの取り組みを通して,次の三つの力を身につけて欲しいと思っています。一つに,現状を正しく把握し,自らを客観的に認識しながら主体的に課題を見つける力。二つに,変化に対応し,粘り強く課題解決を進める力。三つに,周囲に課題解決の情報を正しく伝え,理解と共感を得られた成果を社会に広げる力です。そして,これらの力を身につける過程で,コミュニケーション能力やリーダーシップ,共感性,自尊感情なども育って欲しいと考えています。

皆さんには,「時代を超えても変わらない価値のあるもの」を大切にする態度を育むとともに,VUCA時代と言われ,将来の変化を予測することが困難なこの時代を生き抜くために,変化に柔軟に対応し,社会を創造・先導する視点を養い,未来への道を切り開く力を身につけて欲しいと思います。

そのために,この長田高校でしかできないこと,例えば,勉強に邁進する,部活動にのめり込む,生徒会活動に明け暮れる等,仲間と一緒に夢中になれるものを見つけ,自らを磨き高めてくれることを願っています。

最後になりましたが,改めまして,保護者・ご家族の皆様方,お子様のご入学,誠におめでとうございます。本日,お子様を本校にお預かりした上は,私ども教職員すべてが心を一つに結束して,全力を尽くして生徒一人ひとりの教育に専念する所存であります。生徒達にとって魅力があり,保護者や地域の皆様に信頼された学校づくりに邁進します。どうか保護者・ご家族の皆様も本校の教育方針に深いご理解を賜り,ご協力をいただきますようお願い申し上げます。

入学生の皆さんにとって,長田高等学校での高校生活が意義深いものになりますよう,心から願いまして式辞といたします。

兵庫県立長田高等学校
校長 山根 尚

1学期終業式式辞 2023年7月20日

今年も大変暑い夏になりそうです。2022年の全国の熱中症による救急搬送者数は7万1,029人で前年度より2万3千人程増加しています。コロナによる行動制限で,暑さに順化していないことも原因かとは思いますが,皆さんも早めの水分補給等を心がけ,熱中症予防に努めて下さい。

また,コロナに関しても,先々月,先月と感染者数は増加傾向にあります。神戸市内の県立学校ではコロナによる学級閉鎖も発生しています。5類に位置づけられたからと言ってもコロナウイルスが弱くなったわけではありませんので,手指消毒,換気等の感染防止対策には留意して下さい。

さて,今日で1学期が終わります。皆さんにとってどのような1学期だったでしょうか。1年生は学校に慣れることに力を注ぎ,2年生は部活や行事の中心になることを任され,3年生はいよいよ進路選択をより具体的に進めている感じでしょうか。また,様々な行事を通して,仲間との絆を深めた人も多かったと思います。六甲山縦走を新しい仲間との交流の機会とし,文化祭では異なる考えや意見もある中,その仲間達とひとつの目標に向かって取り組み,成功につなげる。そのような経験ができたと思います。特に中心となり進めてくれたリーダーの皆さんの感想には,「皆が進んで協力してくれたり,自分で役割を見つけて取り組んでくれ,本当にありがたかった。」という仲間への感謝の言葉が,3学年全てのクラスで見ることができました。感謝の溢れる教室っていいなと思いました。

長い夏休みは,日頃取り組むことができないことにチャレンジするいい機会です。部活動,探究活動,受験勉強を含んだ学習活動にのめり込むのもいいでしょう。それらの様々な経験を積み重ねることで,皆さんは自分軸というものを作り上げていきます。

車いすテニスのプロプレーヤーの国枝慎吾さんが1月に引退し,3月には国民栄誉賞が贈られました。国枝さんは9歳で脊髄の癌が見つかり,車いす生活を余儀なくされました。11歳で車いすテニスに出会い,25歳でプロになります。国枝さんは,車いすテニスは障害者である自分にとって「スポーツを通じての社会との共生」ではないと言い切ります。車いすテニスをスポーツとして魅せたい,プロとして感動させなきゃ,興奮させなきゃといつも考えていました。テニスラケットには常に「俺は最強だ」と貼っています。これは「断言力」と言って,外に対して自分の決意を繰り返す行為です。国枝さんに取って最も効果的なメンタルトレーニングだったそうです。もちろん,「俺は最強だ」の裏には,相当なトレーニングの積み重ねがあってのことです。

国枝さんは引退するまで,最後まで「俺は最強だ」をはずしませんでした。一度はずすともう戻れない。これは自分にとってのアイデンティティだと。引退を決めたのは,他人と比べるランキング等が落ちたことが理由ではなく,情熱の全てをかけて取り組んできたテニスへのパッションが落ちたからだったそうです。自分軸として,自分の中の基準としてプロを続ける資格がないと感じたから引退を決めたということです。

とかく人は他人と比べて優劣を決めたがることがあると思います。特に高校生の皆さんの年代には,他人のことが気になることも多いかも知れません。でもこの夏は,他人のことはおいといて,自分でやるべきことを見つけ,それをとことんやってみて下さい。特に受験勉強に力を入れる3年生の皆さんは,自分軸でやると決めたことをやり切って下さい。受験生にとって大事な夏の過ごし方に不安を感じている人もいるかも知れませんが,大丈夫です。あなたたちは最強ですから。

この暑い夏に暑さに流されずに,計画的に過ごし,また,家族や仲間とも有意義な時間をともにし,8月31日に充実感を味わっている自分をイメージして夏休みを過ごして下さい。そしていつも言いますが,これが一番大事です。9月1日に元気に登校してきてください。皆さん,よい夏休みを。

2学期始業式式辞 2023年9月1日

2学期が始まりました。夏休みは計画通りに過ごせましたか。この夏の長田生の活躍の一部を紹介します。全国高等学校野球選手権大会開会式の放送委員会の吉川さんの司会は素晴らしかったです。私のLINEには多くの人からテレビに吉川さんが写っている写真が送られてきました。高校生が頑張っている姿を見ると力をもらえるという文章を添えて。Nコン,総合文化祭の全国大会に出場した放送委員会,文芸部の皆さんもいい経験ができたと思います。大興奮で臨んだNコンは生涯の思い出になることでしょう。文芸部の三宅さんの散文は全国でも非常に高い評価を受けました。あと都々逸を趣味にしている仲間が見つかったかが気になるところです。脳科学オリンピックに出場した3年生栗秋さんは,全国8位入賞と活躍しました。脳科学オリンピックは,脳科学,脳神経,神経疾患等に関する非常に難易度の高い問題が出題されます。物理選択でありながら生物分野を自学し,臨んだ末の快挙です。

陸上競技部の磯部さん,水泳部の藤沢さん,全国IHよく健闘しました。レベルが高すぎましたね。いい経験,いい学びとして下さい。吹奏楽部の皆さん,18年ぶりの県大会出場でした。県大会でも私の中では1番でした。胸を張って下さい。音楽部の皆さんは県合唱コンクール金賞です。OHの受付の際には,美しいハーモニーで中学生とその保護者を迎えてくれました。長田高校の芸術と文化の香りを感じてくれたことでしょう。

そして,特筆すべきは山岳部女子の皆さんです。全国IH第3位です。団体競技での全国3位は素晴らしい結果です。後輩達にそのスピリットと技術を引き継いで下さい。それともう一つ,書道部の3年生の尾崎穂香さんです。選ばれし全国の書道の達人の高校生,大学生8,800人が出展した全日本書道展で,上位57名だけが受賞できる書道展大賞を獲得しました。校長室の私の机には,尾崎さんが書いてくれた机上札があります。生徒に書いてもらっただけでも嬉しいのに,更に価値が上がり喜んでいます。それ以外にもオープンハイスクールの準備運営をしてくれた生徒会を中心とした皆さん,SSH台湾研修で海外交流を再開してくれた皆さん,全国高校生クイズ選手権に出場した皆さん,様々な活動を通じてよい学びを経験できたことと思います。

そのような中,3年生を中心に補習や自習で多くの人が登校していました。図書館では,朝早くから学習に取り組む姿が見られました。自分軸で決めた学習への取組はやり切ることができたでしょうか。部活や勉強に邁進した長田生の夏が終わろうとしています。

最後に,この夏,先生方で手分けして第1学区内の全ての中学校を訪問し,長田高校の宣伝をしてきてもらいました。全ての中学校で,勉強,部活,行事等に高いレベルでひたむきに取り組む長田生は,中学生の憧れの存在であるというお言葉を頂きました。憧れられるに値する長田生として,この夏に培ったものを土台に,自分軸で,全力で様々な活動に取り組み,充実した2学期として下さい。

2学期終業式式辞 2023年12月22日

今年も残り一週間となりました。学校における教育活動は,少しずつコロナ前に戻ってきました。行事等を心から楽しむ生徒の皆さんの姿を見るにつけ,本当に嬉しく感じました。一方,海外に目を向けると,ウクライナ危機は未だ終息の気配がなく,パレスチナとイスラエルの紛争により,多くの人の命が失われるなど,未来を予想できないVUCA時代を象徴するような出来事が発生しています。一日も早い終息を願うばかりです。

さて,今日は冬至です。この日を境に昼の時間が一日一日長くなっていきます。未来が明るくなっていくように感じます。昨年も一昨年も終業式でこの話をしています。個人的に年末のこの慌ただしい感じが一年の中で一番好きなので,また,未来が明るくなる感じが好きなので,それを受験生である3年生の皆さんに伝えたくて話してしまいます。冬至の時期に食べる習慣があるのがカボチャです。カボチャに含まれているビタミンAやCは免疫力を高め,ウイルスの侵入を防ぐなどの働きがあります。どうか皆さん,温かいゆず湯と併用して,免疫力アップを図って下さい。

今年の冬は暖冬ですが,コロナが収まったと思ったら,長田高校でも11月末にはインフルエンザによる学級閉鎖が相次ぎました。感染症対策は気を抜いてはいけないということを実感しました。コロナ禍であった令和3年度におけるインフルエンザによる県内公立学校の臨時休業は0件です。三密を避ける,手指の消毒,マスクの着用を徹底し,外出先から帰ってからのうがい,手洗いの励行は,感染症対策に大きな効果があるということを私達は学んだはずです。特に受験生である3年生にとって,新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの感染症は天敵です。体調管理も大切な受験勉強の一つとして取組んで下さい。

受験で言えば,共通テストは22日前,個別試験ももう目の前です。受験生の皆さん,どうか最後の最後まで,高め合える仲間と一緒に,つまらない妥協をすることなく,自分を励まし,自分を鍛え,力を尽くして下さい。大丈夫です。あなたたちは最強ですから。

最後に,繰り返しになりますが,年末年始は多くの人が集まる場所へ出かける機会が増えますが,感染防止対策には十分留意して下さい。その上で,家族や仲間と穏やかな時間を過ごし,1月9日の始業式には元気な姿を見せて下さい。皆さん良い年を迎えて下さい。

3学期始業式式辞 2024年1月9日

短かった冬季休業も終わり,3学期が始まりました。年始早々,能登半島地震,飛行機の衝突事故,福岡での大規模火災など,一年間の災害・事故がまとめて発生したような年明けとなりました。災害等で被災された皆さんに心からお見舞い申し上げると共に,亡くなられた皆さんに哀悼の意を表します。

一昨年の9月に,兵庫県人権教育中央研修会が,尼崎市で開催されました。会場の尼崎市立小田中学校の廊下の至る所に,「時を守り,場を清め,礼を正す」と書いた掲示がされていました。この言葉は,哲学者であり,教育者でもある森信三先生の言葉です。「時を守り」は,言葉の通り,時刻,時間,期限を守るということです。大切なのは,自分だけの問題ではなく,相手がいるこということです。時間に遅れるということは,相手の時間を奪うことになります。私達にとって,時間は有限です。いつか必ず,死を迎えるからです。「時を守り」は,人を尊重することです。

次の「場を清め」は,これも言葉の通り掃除をすることです。R5年12月13日の神戸新聞朝刊の正平調に,「経営者であれ,スポーツ選手であれ,物事をとことん究める人は,最後はゴミ拾いに行き着く。」という書き出しで,カレーのCoCo壱番屋創業者の宗次徳二さんや野球の大谷翔平選手の例を挙げた記事が掲載されていました。やらされる掃除では何も気づかないでしょうが,ここでいう掃除とは,「気づく」ということです。その場を使う人,その場の役割等を考えて掃除することで,気づきや工夫が生まれ,気づく人となり,人からの信頼や信用が増してくるのだと思います。気づきを持って掃除する人は,どうしたら汚れるかを知っているので,そのような行為はしません。だいたい,部屋や道を汚す人は気づきのない人がほとんどだと思います。

最後の「礼を正す」は,挨拶・返事をすることです。気持のいい挨拶や返事をしてもらって嫌な気持になる人はいないと思います。挨拶をされると,その人へ好感や安心感,信頼感を抱きます。つまり,人と良好な関係をつくることにつながります。

>

昨年の11月19日に神戸マラソンが開催されました。本校の先生も出走し,好成績を収められています。本校の生徒でも,マラソンボランティアとして,支えるスポーツの立場から参加した人もいます。私は,H29年度・30年度と神戸マラソン実行委員会事務局長を務めました。神戸マラソンは,たくさんのボランティア,県警,消防,医師会等のみなさんの協力の下,成立しています。とりわけ多額の協賛金でご支援下さる県内の企業の皆さんは,神戸マラソンが継続できるか否かの鍵を握る存在です。その企業のトップの方々に,大会前は開催のご支援のお願い,終了後にはお礼を,事務局長としてお伝えに行きます。例えば,当時のシスメックスの家次ceoやアシックスの尾山ceoに直接,お願いやお礼を申し上げるのですが,ご対応に共通したものがあります。非常に丁寧で,私達が居心地がいいように配慮をされると言うことです。どうしたら相手が心地よくなるかという気遣い,気づきができる方なんだなと感じました。そして,世界的に活躍される企業を経営されることは,ご苦労も多いでしょうねという話をすると,回答も共通しています。私は人に恵まれ,運がいいんです。人への気遣い,気づく人になり,それが信頼となり,その信頼が積み重なったものが運なのだと感じました。

人を尊重する,気づく人になる,人と良好な関係を作る,これらは数字では表せない非認知能力という力です。長田高校は,探究的な学びを通して,これらの非認知能力の育成にも力を入れています。探究活動を通して,自分と違う意見をどう受け入れるか,曖昧に感じたらすぐ質問できるか,他人の意見を否定しないで,様々な観点から意見や考えを引き出せるか。そのような力を身につけ,周囲からの信用や信頼を積み重ね,自分の運として下さい。

そして,その運を自分のためにだけでなく,周囲の人のために,社会のために,日本のために,世界のためにも生かすことのできる人になって下さい。皆さんにとってそのような力を,運を身につけることのできる令和6年になることを願っています。

最後に,3年生の皆さん,いよいよ今週末は共通テストです。あなたたちの最強ぶりを遺憾なく発揮してきて下さい。楽しみにしています。

第76回 卒業証書授与式式辞 2024年2月28日

高取山(神撫山)に早春の息吹が感じられる今日の佳き日,76回生の皆さんとの,寂しくも喜ぶべき別れの時がまいりました。

本日は,公私ともご多用の中,PTA副会長 久戸 早公子 様ほか,ここまで支えてくださいました保護者,ご家族の皆様のご臨席を賜り,兵庫県立長田高等学校第76回卒業証書授与式をこのように盛大に挙行できますことを心から嬉しく思い,厚く御礼申し上げます。

ただいま卒業証書を授与しました318名の卒業生の皆さん,卒業おめでとうございます。この長田高校で過ごした年月は,皆さんにとってかけがえのない,思い出深いものであったと思います。卒業式に臨み,皆さんの胸の中には,文化祭,体育祭,修学旅行などの学校行事,気を抜けない日々の授業,歯を食いしばって走り抜いた周回走,暑い夏は汗を拭きながら,寒い冬はかじかむ手をさすりながら頑張った部活動など,様々な思い出が走馬灯のようによみがえっているのではないでしょうか。

皆さんが希望に胸を膨らませて入学した三年前の春は,コロナ禍の真っただ中で,教育活動に様々な制限が加えられている時でした。当たり前だと思っていたことが,当たり前でなかったことも経験しました。そのような中でもあきらめることなく,皆さんは学校の中心となり,様々な創意工夫を凝らしながら,学校行事や部活動に取り組む姿勢を見せてくれました。

皆さんが本校で過ごした年月は,学校生活の中でたくさんの仲間と出会い,切磋琢磨し,達成感や充実感を味わうとともに,悩みや苦しみも経験した日々であったと思います。そして,それらの日々は,智徳体のいずれにも偏らない精神を具現化したり,一芸一才の能力を開花させてきた貴重な時間であったはずです。この三年間の思い出を,これからの人生の中で自分を高めていく良き糧として,心に残しておいてください。

さて,皆さんがこれから迎える時代は,知識の吸収にだけ長けていても活躍できない,自分で新しいものを創り上げていかなければならない時代。激しい変化が短いスパンで起こり,それに柔軟に対応する力を持たなければならない時代です。そして,そこでは,人間に対する誠実さや責任感,覚悟,そして,情熱等のマインドセットを持ち続けることが不可欠です。

本校は創立以来,脈々と受け継がれてきた神撫教育とともに,自由闊達な校風の下で長い歴史を重ねてきました。そして,令和2年に創立100周年を迎え,今,次の100年に向けて新たな一歩を踏み出しているところです。今後更に新たな歴史を重ねていく本校は,誰もが経験をしたことがない,未来を予測することが困難なVUCA時代において,SDGsの実現やSociety5.0の到来に伴い生じる国内外の諸課題を正しく認識し,それを解決するために柔軟に粘り強く取り組み,そこで得られた成果を正しく発信できる,国際社会のリーダーとなる人材を育てることに力を注ぎます。

これから大学などを経て国際社会という広い海へこぎ出していく皆さんには,本校での学びを礎として,日々変わりゆく社会の様々な場所において,優れたリーダーシップを発揮し,その分野を牽引していただきたい。本日がそのリーダーとなるべく,新たな努力への決意を固める記念すべき日となることを願います。

ここで,卒業される皆さんへ餞(はなむけ)の言葉を贈ります。

次世代を見据えた自動車開発や積極的な情報戦略等により,世界のトヨタの地位を確固たるものにした,トヨタ自動車の豊田章男代表取締役会長の言葉です。

「何が起こるかわからない激動の時代。だからこそ変えてはいけないぶれない軸と未来のために今を変える勇気と覚悟が必要である。」

103年を迎えた長田高校の伝統もそうであるように,伝統は革新の積み重ねで生まれます。変化に憶することなく革新を実現するには,正しい答えのないものに挑戦しなければなりません。そこには周囲からの反対や成功が約束されていない不安もついてまわり,非常に大きなエネルギーを必要とします。しかし,新しい世界を拓くことができます。挑戦した者だけが見ることを許される新しい景色を楽しむことができます。どうか,皆さんがこの長田高校で身につけた,学力や数値で測ることのできない,主体性,コミュニケーション能力,レジリエンス,創造性などの力を駆使し,挑戦者として大きな夢を持ち,高い志を掲げ,これからの人生をたくましく歩んで下さい。

最後になりましたが,保護者の皆様に一言申し上げます。お子様には3年間の努力が実って本日のご卒業を迎えられたこと,誠におめでとうございます。私どもは,お子様をお預かりして三年間,不十分な点もあったかとは思いますが,全力で教育にあたってまいりました。ここにいたるまでに賜りましたご理解,ご支援に対し,この場を借りて深く感謝申し上げます。何よりも,私どもは,素直で素晴しい生徒と,この長田高校で一緒に生活できたことを誇りとし,嬉しく思っています。

卒業生の皆さん,いよいよ旅立ちの時がきました。皆さんの人生は素晴らしいものであるとともに,時には厳しいことを経験するかも知れません。嬉しいときや悲しいとき,疲れることもあれば,じっくり考えたいときもあるはずです。迷うこともあるに違いありません。そのような時,いつでもこの長田高校を思い出し,訪れてください。皆さんが過ごした学舎(まなびや)や神撫台グラウンドは,静かに,そして温かく皆さんを迎えてくれるはずです。母校としての誇りを持ち,懐かしんでほしいと願っています。また,長田高校は,何よりもそのような学校であり続けたいと心から思っています。

いつ終わるとも知れない国際紛争や大規模地震の発生など,世界中で心を痛める出来事が絶えない今,皆さんはしっかりとそれぞれの先を見据えて,想いの方向へ突き進んでください。本日,長田高校の校門を出て,素晴らしい人生に繋がる道を,胸を張って進んでください。「星に至らん望み持て」。最強である皆さんの新たな一歩と,それに続く未来が光輝くものとなることを心から祈念し,式辞といたします。

兵庫県立長田高等学校
校長 山根 尚

3学期終業式式辞 2024年3月22日

まずはじめに,76回生の卒業式の準備,片付けにあたってくれた皆さん,ありがとうございました。4年ぶりの講堂での卒業式でした。厳粛で,とてもよい卒業式を行うことができました。卒業生退場の直前に,「ちょっと待って下さい。」と卒業生からのサプライズのお礼が,学年主任の高田先生,副主任の上河先生,学年付の吉本先生に贈られ,講堂全体が卒業生の優しさに包まれました。長田の生徒は優しいなと改めて感じました。特に私は,色々と話には聞きますが,目の当たりにする機会が限られているため,本当にうれしくなります。どのくらいうれしいかというと,長田の校舎ごと皆さんを抱きしめたいほどうれしいです。

また,新入生となる79回生を迎えるにあたっての大掃除等の入試会場の準備についても感謝します。無事に,入試,合格発表等を終えることができました。合格発表は3月19日でした。掲示ボードがオープンされると大きな歓声がおこり,抱き合っている人,ぴょんぴょん飛び跳ねている人,両手を突き上げている人,それぞれのスタイルで喜びを表現していました。毎年この光景を見るにつけ,こんなに喜んでもらって幸せだなと思います。皆さんも自分の時のことを思い出しながら,気持を新たにして新学期の準備をして下さい。

そして,4月には皆さんに憧れ,長田高校に憧れながらも,期待と不安を抱えて入学してくる新入生を温かく迎えてあげて下さい。

さて,私が皆さんの前で話をする時には,探究活動について触れることにしています。皆さんは様々な探究の時間で,アントレプレナーシップについて学んでいると思います。知らず知らずのうちに。アントレプレナーシップとは,起業家に必要なあり方,利益を生み出すために,世の中の課題に対して新しい解,答えを提示し,リスクを恐れず立ち向かっていく精神・姿勢を示す言葉です。

世界の著名なアントレプレナー達は,異口同音にこう言っています。「アントレプレナーは絶えず変化する時代の価値観を素早くキャッチする感度が必要だが,それと同時に持ち続けないといけないマインドセットがある。それは人間に対する誠実さや責任感,覚悟,そして情熱である。アントレプレナーとしての成功より,人間としての成功を目指さなければ,真のアントレプレナーにはなれない。」

今後,皆さんの生きていく環境には,生成AIなどが当然のごとく活用され,より効率的にレベルの高い活動がなされます。しかし,アントレプレナー達の言葉を聞くにつけ,やはり大切にすべきは,人の心なのかなと感じます。将来的に起業するしないは別にして,最初に話した皆さんが持つ優しさを忘れず,人間としての成功を目指して欲しいと思います。その礎となる力をつけることができる令和6年度になることを期待します。4月からの皆さんの活躍を心から楽しみにして,そして応援し続けたいと思います。