第76回 卒業証書授与式式辞 2024年2月28日
高取山(神撫山)に早春の息吹が感じられる今日の佳き日,76回生の皆さんとの,寂しくも喜ぶべき別れの時がまいりました。
本日は,公私ともご多用の中,PTA副会長 久戸 早公子 様ほか,ここまで支えてくださいました保護者,ご家族の皆様のご臨席を賜り,兵庫県立長田高等学校第76回卒業証書授与式をこのように盛大に挙行できますことを心から嬉しく思い,厚く御礼申し上げます。
ただいま卒業証書を授与しました318名の卒業生の皆さん,卒業おめでとうございます。この長田高校で過ごした年月は,皆さんにとってかけがえのない,思い出深いものであったと思います。卒業式に臨み,皆さんの胸の中には,文化祭,体育祭,修学旅行などの学校行事,気を抜けない日々の授業,歯を食いしばって走り抜いた周回走,暑い夏は汗を拭きながら,寒い冬はかじかむ手をさすりながら頑張った部活動など,様々な思い出が走馬灯のようによみがえっているのではないでしょうか。
皆さんが希望に胸を膨らませて入学した三年前の春は,コロナ禍の真っただ中で,教育活動に様々な制限が加えられている時でした。当たり前だと思っていたことが,当たり前でなかったことも経験しました。そのような中でもあきらめることなく,皆さんは学校の中心となり,様々な創意工夫を凝らしながら,学校行事や部活動に取り組む姿勢を見せてくれました。
皆さんが本校で過ごした年月は,学校生活の中でたくさんの仲間と出会い,切磋琢磨し,達成感や充実感を味わうとともに,悩みや苦しみも経験した日々であったと思います。そして,それらの日々は,智徳体のいずれにも偏らない精神を具現化したり,一芸一才の能力を開花させてきた貴重な時間であったはずです。この三年間の思い出を,これからの人生の中で自分を高めていく良き糧として,心に残しておいてください。
さて,皆さんがこれから迎える時代は,知識の吸収にだけ長けていても活躍できない,自分で新しいものを創り上げていかなければならない時代。激しい変化が短いスパンで起こり,それに柔軟に対応する力を持たなければならない時代です。そして,そこでは,人間に対する誠実さや責任感,覚悟,そして,情熱等のマインドセットを持ち続けることが不可欠です。
本校は創立以来,脈々と受け継がれてきた神撫教育とともに,自由闊達な校風の下で長い歴史を重ねてきました。そして,令和2年に創立100周年を迎え,今,次の100年に向けて新たな一歩を踏み出しているところです。今後更に新たな歴史を重ねていく本校は,誰もが経験をしたことがない,未来を予測することが困難なVUCA時代において,SDGsの実現やSociety5.0の到来に伴い生じる国内外の諸課題を正しく認識し,それを解決するために柔軟に粘り強く取り組み,そこで得られた成果を正しく発信できる,国際社会のリーダーとなる人材を育てることに力を注ぎます。
これから大学などを経て国際社会という広い海へこぎ出していく皆さんには,本校での学びを礎として,日々変わりゆく社会の様々な場所において,優れたリーダーシップを発揮し,その分野を牽引していただきたい。本日がそのリーダーとなるべく,新たな努力への決意を固める記念すべき日となることを願います。
ここで,卒業される皆さんへ餞(はなむけ)の言葉を贈ります。
次世代を見据えた自動車開発や積極的な情報戦略等により,世界のトヨタの地位を確固たるものにした,トヨタ自動車の豊田章男代表取締役会長の言葉です。
「何が起こるかわからない激動の時代。だからこそ変えてはいけないぶれない軸と未来のために今を変える勇気と覚悟が必要である。」
103年を迎えた長田高校の伝統もそうであるように,伝統は革新の積み重ねで生まれます。変化に憶することなく革新を実現するには,正しい答えのないものに挑戦しなければなりません。そこには周囲からの反対や成功が約束されていない不安もついてまわり,非常に大きなエネルギーを必要とします。しかし,新しい世界を拓くことができます。挑戦した者だけが見ることを許される新しい景色を楽しむことができます。どうか,皆さんがこの長田高校で身につけた,学力や数値で測ることのできない,主体性,コミュニケーション能力,レジリエンス,創造性などの力を駆使し,挑戦者として大きな夢を持ち,高い志を掲げ,これからの人生をたくましく歩んで下さい。
最後になりましたが,保護者の皆様に一言申し上げます。お子様には3年間の努力が実って本日のご卒業を迎えられたこと,誠におめでとうございます。私どもは,お子様をお預かりして三年間,不十分な点もあったかとは思いますが,全力で教育にあたってまいりました。ここにいたるまでに賜りましたご理解,ご支援に対し,この場を借りて深く感謝申し上げます。何よりも,私どもは,素直で素晴しい生徒と,この長田高校で一緒に生活できたことを誇りとし,嬉しく思っています。
卒業生の皆さん,いよいよ旅立ちの時がきました。皆さんの人生は素晴らしいものであるとともに,時には厳しいことを経験するかも知れません。嬉しいときや悲しいとき,疲れることもあれば,じっくり考えたいときもあるはずです。迷うこともあるに違いありません。そのような時,いつでもこの長田高校を思い出し,訪れてください。皆さんが過ごした学舎(まなびや)や神撫台グラウンドは,静かに,そして温かく皆さんを迎えてくれるはずです。母校としての誇りを持ち,懐かしんでほしいと願っています。また,長田高校は,何よりもそのような学校であり続けたいと心から思っています。
いつ終わるとも知れない国際紛争や大規模地震の発生など,世界中で心を痛める出来事が絶えない今,皆さんはしっかりとそれぞれの先を見据えて,想いの方向へ突き進んでください。本日,長田高校の校門を出て,素晴らしい人生に繋がる道を,胸を張って進んでください。「星に至らん望み持て」。最強である皆さんの新たな一歩と,それに続く未来が光輝くものとなることを心から祈念し,式辞といたします。
兵庫県立長田高等学校
校長 山根 尚