県立高等学校教育改革第一次実施計画
はじめに
兵庫県教育委員会では、21世紀を展望した本県高等学校教育の在り方について検討するため、平成10年7月に「全日制高等学校長期構想検討委員会」を設置し、同11年6月に報告を得た。
この報告は、これからの高等学校教育の在り方として、ゆとりの中で基礎・基本の確実な定着と個性の伸長を基本に、生徒一人一人が豊かな人間性や社会性を身に付け、これからの変化の激しい時代をたくましく生きていく「生きる力」の育成を目指すことを提言している。
県教育委員会は、この報告に示された様々な提言を尊重するとともに、その後の関係者への説明会や学区別協議会等における意見も踏まえながら検討を進め、このたび、県立高等学校の教育改革を推進する概ね今後10年間の実施計画(第一次)を策定した。
なお、定時制通信制教育の在り方については、平成9年11月の「生涯学習社会に対応した単位制高等学校の設置並びに定時制高等学校の適正配置・活性化方策等について」において、今後の基本的な方向が示され、現在これに基づく推進計画を進めているところであり、このことについても併せて示した。
今後、県立高等学校の改革を推進するに当たっては、それぞれの学校はもとより、市郡町教育委員会やその他の関係機関等との協議・調整が不可欠であり、今後ともその円滑な推進に向けた一層の連携を図りながら、新しい世紀、新しい時代にふさわしい兵庫の教育を創造していくことが大切である。
このため、各高等学校においては、教職員一人一人がこの実施計画の趣旨を理解するとともに、地域の特性や生徒の実態等を踏まえた自校の教育課題を明確にし、特色ある学校づくりに積極的に取り組んでいく必要がある。
また、保護者や県民の皆様におかれても、県立高等学校の教育改革についての一層のご支援とご協力をたまわるようお願いするとともに、中学校教育関係者にあっては、今後大きく変貌するそれぞれの高等学校の特色や学科の内容、新しい入学者選抜制度等について十分理解され、一層適切な進路指導を行われるよう願うものである。
この計画は、「全日制高等学校長期構想検討委員会」の報告(平成11年6月)に基づき、国際化、情報化、少子・高齢化や生徒の多様化、生涯学習社会の進展等に伴い直面する様々な課題に対応し、子どもたちの「生きる力」の育成を目指す、県立高等学校の教育改革を推進するに当たっての基本的な考え方とその推進計画を示したものである。
計画の期間は平成12年度から平成20年度までの間とし、平成15年度までを前期、それ以後を後期とする。
前期については実施の具体的な年度や地区名等を挙げ、後期については、改革の大まかな道筋を記した。今後、新たに国や県の動向で配慮すべき状況が生じた場合は、必要に応じて計画の見直しを行うこととする。
なお、この計画の対象は県立高等学校とするが、計画を推進するに当たっては、市郡町教育委員会や私学関係者などの関係方面・関係機関等と十分な協議・調整を図るものとする。
21世紀という大きな時代の転換期を前に、高等学校教育は今その在り方が大きく問われている。 昭和23年に新制高等学校が発足してから半世紀余りが経過し、高等学校は今日、義務教育課程を修了した者の97%が学ぶ国民的な教育機関となった。
そこには、能力・適性、興味・関心、進路などを異にする多様な生徒が入学してきており、こうした状況の中で受験競争の過熱化や不登校問題など様々な教育課題も指摘され、とりわけ、学校生活や学業に適応できずに退学していく生徒の数は全国で年間10万人を超え、本県においても約2000人にのぼっている現状がある。
これらの要因としては、従前の高等学校教育が、急激な中学卒業者の増加や高等学校進学率の急速な上昇の中で、その量的拡大に対応することに追われ、どちらかと言えば質的な面での整備・充実が必ずしも十分とは言えなかったこと、さらには、教育内容や指導方法等がややもすれば画一的なものとなり、生徒の実態や時代の変化に対応しきれなくなってきていることなどが挙げられる。 これからの高等学校においては、生徒一人一人の個性や能力を最大限に尊重した教育へと転換を図っていくという観点から、教育内容における選択幅の拡大や新しいタイプの高等学校の設置促進をはじめ、中学校と高等学校、高等学校と大学等の接続の改善や転編入制度の弾力化、さらには、中高一貫教育の導入の検討など、生徒がそれぞれの個性に応じて多様な学校選択ができ、かつ、いつでもやり直しのきく柔軟な教育システムを実現していくことが求められている。
このことは、学ぶ側の生徒から言えば、今日の国際化、情報化、少子・高齢化、科学技術の進展など、今後一層激しい社会の変化が予想される21世紀にあって、自ら考え、判断し、行動できる資質や能力とともに、社会生活のルールや公正さを重んじる心、自然を愛する心、ボランティア精神など、時代を超えて変わらない豊かな人間性としての「生きる力」を身に付けていくことが重要になってくる。
そのためには、高等学校教育においても、ゆとりの中で基礎・基本の確実な定着と個性の尊重を基本に、これまでの知育偏重の風潮や知識詰め込み型の教育から、「生きる力」をはぐくむ教育へと基調の転換を図り、生徒が成就感や達成感をもって、学びたいことが学べる魅力ある学校づくりを推進していくことが不可欠である。
加えて、本県では、平成7年の阪神・淡路大震災や平成9年の神戸市須磨区の事件から学んだ教訓を生かし、命の大切さや共に生きる心をはぐくむなど、「心の教育」の充実に努め、生徒が自らの夢の実現に向けて自分の人生を積極的に切り拓いていく心を育てる取組が求められている。
以上のことから、個性を尊重する多様で柔軟な高等学校教育を目指し、学びたいことが学べる魅力ある学校づくりを積極的に推進するために、総合学科や単位制高等学校などの新しいタイプの学校の設置をはじめ、普通科における特色あるコースの設置や専門学科における学科間の融合による活性化を図るとともに、民間活力の導入による公設民営等の学校や、保護者や地域の人々の意見を学校運営に取り入れる仕組みの導入についても検討する。
高等学校の望ましい規模・配置については、生徒数の減少期にあって、学校活力を維持する観点や学校文化の地域に果たす役割などを総合的に判断しながら進めていくこととし、とりわけ、配置の適正化を進めるに当たっては、生徒の通学条件や地域の実態等にも十分配慮しながら、原則として新しいタイプの学校への発展的統合を図っていくこととする。
入学者選抜制度については、特色ある学校づくりと併せ、生徒が自らの能力や適性、進路希望等に応じて学びたい学校を主体的に選択することができるよう、現行の単独選抜と総合選抜の長所を採り入れた「複数志願を可能とする新しい選抜制度」を当面は普通科の大規模学区で実施し、その他の学区においても、学校の個性化・多様化の進捗を見ながら、可能なところから順次採り入れる。
また、入学者選抜方法については、各学校・学科などの特色に応じて選抜方法を多様化することや生徒の多様な能力を積極的に評価するための選抜尺度の多元化を推進する観点に立って、様々な選抜方法や評価方法を検討するとともに、特色ある学校を生徒が自らの特性に応じて選択することができるよう、現行の通学区域や自由学区の在り方について、必要に応じて見直しを図っていくこととする。
生涯学習社会への対応については、高等学校が地域の人々の身近な教育施設であり、今後とも人々のニ−ズに対応した多様な学習機会を提供していくことが期待されていることから、生涯学習機関としての役割について教職員の啓発や学校施設の開放、各種生涯学習講座への教職員の活用はもとより、地域の人々がいつでもどこでも学びたいときに学べるような単位制高等学校の設置を促進するなど、地域に根ざし、地域に開かれた高等学校づくりを一層推進するとともに、人々が学んだ学習の成果が地域や学校に還元され、評価されるような柔軟で弾力的な教育システムの構築に努めることとする。
○ 個性を尊重する多様で柔軟な高校教育への転換を図る
生徒が自ら考え、判断し、行動できる「生きる力」の育成を目指し、生徒一人一人の個性を伸ばす、特色ある学校づくりを進める。
○ 生徒急減に対応した学校の望ましい規模の確保と配置の適正化を進める
長期にわたる生徒急減期にあって、特色ある教育活動の展開や学校の活力を維持するため、望ましい規模の確保を図るとともに、全県的な視野から、地域のバランス等も考慮して学校の改編整備や統合なども含め、適正な配置を図っていく。
○ 過度の受験競争を緩和し、生徒の主体性を生かせる選抜システムを工夫する
特色ある学校づくりに併せ、生徒が自分の進路希望等に応じて学びたいことが学べる学校を選択できるよう、選抜制度・方法の改善に努める。
○ 生涯学習社会に対応し、地域に開かれた学校づくりを進める
多様な人々の学習ニ−ズに柔軟に対応するとともに、地域の教育力を高等学校の教育活動に取り入れるなど、開かれた学校づくりを一層推進し、生涯学習機関としての役割を高めていく。
第3章 魅力ある学校づくりの推進
これからの高等学校教育においては、学力を単に知識や技能の量の問題としてとらえるのではなく、生徒が自ら考え主体的に判断し行動するために必要な資質や能力などの総合力としてとらえることが必要であり、そのためには教育内容や方法だけではなく、学校制度や学科の枠組みの多様化の中で生徒一人一人の興味・関心等に基づく主体的な選択による学習を促していくことが求められている。
このため、普通科・専門学科に次ぐ「第3の学科」としての総合学科の設置や学年による教育課程の区分を設けず柔軟な履修形態をとる単位制の導入をはじめとして、新しいタイプの学校の設置を推進する。
総合学科は、普通科と専門学科の双方にわたる多様な教科・科目の中から生徒が自己の興味・関心等に応じて主体的に選択して学習することによって、自己の進路への自覚を深め、学ぶことの楽しさや成就感を得ることができることから、中学校生徒・保護者などからも期待されている学科として、今後も積極的に設置を進める。
【改革の方向】
- すべての生徒が通学可能となるよう原則として普通科の学区に各1校、生徒数や学区の範囲において大規模な学区については複数校に設置することとし、平成13年度までに7地区に各1校を設置した後、平成14年度からは毎年2校程度を目途に設置する。
- 設置に当たっては、各校の個性化・多様化を推進するため単独の学校の改編あるいは生徒急減学区における学校の統合・改編によることとし、学校の統合の時期、新しい選抜制度の実施時期等とともに、全県的な配置バランスについても考慮する。
- 設置対象校については、地域や生徒の実態等に応じた特色ある系列の設置などについて検討するため、教育委員会の支援のもとに2年程度の研究期間を設ける。
《推進計画》
前 期(〜平成15年度) |
後 期(〜平成20年度) |
・13年度−加印学区に1校設置(学校改編)
・14年度−神戸第三学区の1校に設置(学校改編)
・15年度−尼崎学区、北但学区に各1校、学校の統合により設置 |
・神戸第一学区、神戸第三学区、西宮学区、宝塚学区、伊丹学区、明石学区、加印学区、北播学区、姫路・福崎学区、西播学区に設置 |
全日制の単位制高等学校については、生徒の主体的な教科・科目の選択による学習を可能とするとともに、転入学・編入学希望者の弾力的な受入れや社会人等を対象とした一部科目の履修制度など、柔軟な学びのシステムや開かれた学校として期待されていることから計画的に設置していくこととする。
【改革の方向】
- 全日制の単位制高等学校を原則として県下7地域に各1校、学校数や生徒数が多い地域については複数校に設置する。
なお、但馬地域と淡路地域については、学校数が少なく、通学範囲にも一定の制約があることから、総合学科の配置状況も考慮して設置の是非や設置形態等について検討する。
- 設置に当たっては、各校の個性化・多様化を推進するための単独の学校改編あるいは生徒急減学区における学校の発展的統合・改編によることとし、新しい選抜制度の実施を勘案しながら平成14年度以降毎年1校を目途に計画的に設置を進める。
《推進計画》
前 期(〜平成15年度) |
後 期(〜平成20年度) |
・14年度−神戸地域に1校(学校改編)、阪神地域に1校(学校改編)、丹有地域に1校(新設)を設置
・15年度−西播磨地域に1校(学校改編)を設置 |
・神戸地域、東播磨地域への設置推進、但馬地域と淡路地域については地域の実情を勘案しながら検討 |
国際化、情報化、少子・高齢化等の社会の変化に対応し、これらの新たな社会的要請に応える教育を推進していくため、新しい専門高校の設置を推進する。
【改革の方向】
- 海外での経験を通してはぐくまれた特性を伸ばすとともに、異文化・異言語の生徒にも開かれた学校として、海外から帰国した生徒等を対象とする国際高校を阪神地域に平成15年を目途に設置する。
- 情報高校、福祉高校及び芸術高校の設置については、地域における設置の必要性や意義、私立高校や専門学校の設置状況等を勘案して検討する。
- 設置対象校については2年程度の研究期間を設け、必要に応じて研究校に指定するとともに、学校施設・設備の整備を行う。
《推進計画》
前 期(〜平成15年度) |
後 期(〜平成20年度) |
・15年度−国際高校の設置
・情報高校、福祉高校、芸術高校の設置検討 |
・新しい専門高校に関する検討内容や学校の研究の進捗状況等を踏まえて必要に応じて設置 |
学校が地域の教育機関として、家庭や地域の要請に応じ、学校運営や教育内容等について可能な限り自主的・自律的に特色ある教育活動を展開できるよう、チャータースクールのような公設民営等による新しい学校の設置・運営の在り方について、その可能性を含めて研究する。
【改革の方向】
- 関係部局等と連携を図りながら研究を進める。
- 必要に応じて研究開発学校の制度の適用について検討する。
《推進計画》
前 期(〜平成15年度) |
後 期(〜平成20年度) |
・チャータースクール等の公設民営の学校について関係部局等との連携のもとに研究及び研究開発学校の制度適用の検討 |
・設置に向けた在り方の研究 |
専門教育を主とする学科のうち音楽、美術、体育、国際文化、演劇の各学科については、入学希望者が多く、目的意識の明確な生徒の入学により学校が活性化していることから、これらの学科の募集学級の拡大を図るとともに、生徒の学習ニーズや将来の有用性等も考慮しながら、社会の変化等に対応した特色ある学科や英語・理数コースの見直しに伴う新しい専門学科の設置を進める。
【改革の方向】
- 既存学科の募集学級数の拡大については、進学希望者数等を勘案するとともに、併設されている普通科の学級数との調整を図ることとする。
- 新しい専門学科については、各学校が類型やコースとして設置、研究し、少なくとも3年間の研究成果等を勘案しながら設置を検討する。前期においては、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえた「環境防災科」について、学校の研究の進捗状況等を見ながら早期の設置を図る。
- 既設の英語・理数コースをより専門性を高める専門学科に改編することや、社会及び生徒のニーズ等に応じた社会福祉、生命科学、郷土研究等に関する学科等について、各学校の成果や専門学校等の配置などに配慮しながら設置を検討する。
《推進計画》
前 期(〜平成15年度) |
後 期(〜平成20年度) |
・12年度〜環境防災科、社会福祉科、生命科学科、郷土研究科などの新しい専門学科の設置検討と教育課程等の研究
〜美術科、演劇科の募集学級数の拡大について検討
・14年度−環境防災科の設置 |
・生徒のニーズや学校における研究の進捗状況等を見ながら、新しい専門学科の設置を推進 |

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