3 小学校におけるアサーショントレーニング
山 田 良 一(神崎郡福崎町立福崎小学校)
1.アサーショントレーニングの意義
周囲の人々につい自分の思いばかりを言い過ぎたために「ああ。言わなければよかった」と意気消沈してまったり、反対に「ちゃんと言っておけばよかった」と後悔したりすることは誰にもでも思い当たることである。また、概してこのような「言い過ぎ」や「言いそびれ」はつい繰り返してしまい、「こんな性格だから」と自分に腹を立てることもあるかもしれない。このような言動は人間関係を積極的・主体的なものとしなくなる要因の一つである。
現在の若者は「きれる」「むかつく」といった単純な言葉で、様々な感情を表現したり、「ウォスモ(ウォーキングスモーカー)」「ベリバ(ベリーバッド)」といった簡略化した言葉で会話を構成する傾向がある。これらの話し方は彼らの本心を隠し、表面的なつながりを中心にした人間関係をつくるものである。それは同時に集団からはみ出さないように自己防衛的な言動とも受け止められる。その結果、感情が突然吹き出し、自分の言動を押さえられないため悲惨な事件を引き起こすケースも起きている。
一方、子どもたちの世界でも、大人に逆らわず言われたことを素直に聞くといった「よい子」が急増している。これらのよい子も含め衝動的な行動に移るのは、自分の感情をコントロールできないことに起因している。従順である「よい子」は、自分の思いを心の奥深くに押し隠したり、自分の感情や思いが把握できていなかったり、周囲に自分をあわせすぎたりするため、自己コントロール力が低い傾向にある。いずれも自分の感情や思いに応じた表現方法や手段がわからないことが要因であろう。
一般に、自己表現方法は3種類に分類されている。第1に自分が正しいことに固執した攻撃的な話し方、第2に相手が正しく自分を押さえた受け身的な話し方、第3に自分のことを考え相手のことも思いやる、アサーティブな話し方(非攻撃的な自己主張)である。これらの表現方法はこれまでの経験に基づくものがおおく、今後の経験により変容可能である。それには、自己の表現の特徴を理解し、自分の感情をコントロールしながら、適切な表現方法を取得するよう体験的な訓練をすることが必要である。それを通してアサーティブネス(非攻撃的な主体的自己主張)態度が身につくのである。
本文は小学校高学年より行う、アサーショントレーニングのプログラムの提案である。
1)アサーショントレーニングプログラム構成図
自分のことを知ろう | 自己理解 |
1時間扱い
ワークシートによる自己理解
自分を話そう | 自己開示、表現訓練 |
日常的
自分の過去を語る(うれしかったこと、くやしかったことなど)
こんなときどうしますか | 自己表現の特徴理解 |
1時間扱い
日常場面での自分の言動を理解する
どんな話し方があるのかなあ | 表現の共感理解 |
1時間扱い
受け身的、攻撃的、アサーティブネスの3種類を知る
動物の言葉で話してみる
どんな受け止め方になるのか観察する
心を落ち着けて話してみよう | ストレスマネージメント |
日常的
アサーティブネスな表現をするために、心の平静さをコントロールするように心がける
アサーティブな話し方を | 表現の意志決定 |
1時間扱い
よりよい表現を自分で決定する
こんなときどうするのか試してみよう | ロールプレイによる疑似体験訓練 |
2時間扱い
日常に近い体験をとおして、実践に近づける
2.アサーショントレーニングの実際
1)「自分のことを知ろう」
(1)目的
ワークシートをもとに、自分の中にある主体的な自己表現の特徴を知り、自己の課題をもつ。
(2)対象、時間
小学校高学年
1時間扱い
(3)学習の形態
個人→グループ(4〜6名)→個人
(4)準備物
ワークシート(資料1)
(5)学習の流れ
子どもの活動 |
子どもへの補助・支援 |
(1)自らの日常の行動を見つめる
(2)気づいたこと、感じたことを話し合う (3)どんな自分になれるといいか考える。 |
・ワークシートを進めながら自分を振り返るように ・グループで自分の気づいたこと、感じたことを広げるように
・肯定的なイメージをもたせるように ・自己の課題を見つけ、まとめさせる。 |
(6)学習の経過・考察
@ワークシートの特徴
自分のことを知るために、質問紙で答えていきながら振り返るものである。本質問紙は自分の気持ちをどの程度表現できるのか、友だちとのあいさつなど基本的な関わりがどうかを(はい、少しはい、いいえ)で答えるものである。
質問紙は約10分程度で終えるようである。そのため、解答を吟味し、自己を振り返る時間を十分に確保することができる。グループ内で感想を出し合うなど気持ちの分かち合いに重点をおいた学習展開である。
A子どもたちの傾向
本調査の女子は「おはよう」「さようなら」「ありがとう」などあいさつがうまく、「ごめんなさい」といわれると許すよう心がけている。また、悔しい気持ちをあまり表に出さずにいるようである。
一方、男子はうれしい気持ちや悔しい気持ちを表現できる反面、困ったときに助けを求めること、分からないところを人にたずねることが消極的である。
また、男女とも共通して、「ありがとう」の感謝は日常的に使われているが、したくないときには、「いや」と言いにくく、頼まれると断ることができないようである。その反面、自分のまちがいを指摘されても聞き入れにくいという傾向が本学級の児童調査の結果から認められる。
あいさつや感謝の言葉といった社交的な一面をもちながら、意に反したことに対して「いや」を表明しにくく、さらに、欠点の指摘は受容しにくいといった社会性を感じさせる。
2)自分を話そう
(1)目的
自分のことを友達に話すことで、自分を理解してもらい、さらに、友達の話を傾聴することで相手を理解しようとする態度を育てる。
(2)対象、時間
小学校高学年
日常的、習慣的扱い
(3)学習の形態
個人→グループ(4〜6名)→個人
(4)準備物
テーマを書いたサイコロ(今までに一番悲しかったこと、悔しかったこと、うれしかったこと、腹がたったこと、苦しかったこと、恥ずかしかったこと)
(5)学習の流れ
子どもの活動 |
子どもへの補助・支援 |
(1)一人ひとりがリラクゼーションをする。 ・心が落ち着くのを感じる。 (3分程度) (2)テーマを決定する。 |
・自分のペースで ・椅子にもたれるように腰をかけ、軽く目を閉じて、呼吸を合わせながら心の緊張を解く。 ・音楽をかけると効果的である ・感情テーマの書いたサイコロを振って決める。 ・話を聞く姿勢、気持ちを考 るように ・楽しく話し合いができるよう な雰囲気を |
(6)学習の経過・考察
本学習は、終わりの会などを使って日常的に行うことで、自己開示と人間関係の深まりをねらいとしているものである。だれもがもっている感情を書き込んだサイコロを利用して、テーマを決める。サイコロはゲーム性を高め、気軽に取り組める雰囲気を作り出すのに効果的である。
この場面では、自分のことを語る話し方と傾聴する態度の獲得を目指すものである。自己開示が信頼を深め、信頼が深まれば、さらに自己開示が容易になる。取り組みの当初は、話すのに抵抗があったり、人の話に真剣さが見られないこともあった。そこで聞く人の姿勢に視点をあて指示すると有効である。具体的には、机を寄せてグループをつくったところで、子どもたちに「前かがみになって、顔を友だちに近づけてごらん。いすに膝をついてもいいから。でも、背筋はしっかり伸びるように注意して」と教示をするのである。結果、顔を近づける行為が自然と聞こうとする気持ちにつながるようで、グループに活気と支持的雰囲気が生まれてくる。こうなると、友だちと話す機会が多くなり相乗的によい方向へ結びつきやすくなる。
3)こんなときどう答えますか
(1)目的
自己の話し方がどんな気持ちから生まれているのか気づく。
(2)対象、時間
小学校高学年
2時間扱い
(3)学習の形態
個人→一斉→グループ
(4)準備物
日常場面での様子を絵に描いたワークシート(資料2)
(5)学習の流れ
子どもの活動 | 子どもへの補助・支援 |
(1)自分の日常的な行動を思い起こしながワークシートをすすめる。 (2)16場面の答えを書き終えた後の感想話し合う。 |
・自分らしい言葉を考えるように話す。 |
(3)ワークシートに書き込んだ答えから、 いくつかの例題をみんなと話しあう。 例1(突然のゲーム中断) 例2(頼んだことがかなえられなくて) 例3(80点のテストを渡して)など ・相手が悪いと考えている話し方 ・自分が悪いと考えている話し方 ・どちらのことも考えている話し方 絵1突然のゲーム中断 ![]() (4)自分の話し方の特徴を振り返る。 |
・先生とロールプレイを使って 発表すると自分の言葉で表現 しやすい。 ・話し方の特徴に気づくように話す。 ・自分の気づきや感想を作文に 書く。 (注)他の絵は資料として最後に掲載 |
(6)学習の経過と考察
@葛藤場面を使ったワークシート学習
自分の表現特徴を知るために、現代の環境に応じた欲求不満場面を新たに構成したものである。(資料2)学校2場面、友人との関わり8場面、家庭6場面場面の合計16場面でつくられている。いずれの場面もストレスのかかる絵の構成で、表現内容を攻撃的、受け身的、アサーティブ的な3つに分類される。その特徴から自己の特徴をする手がかりとする。このワークシートは、登場人物には顔の表情や細かな服装はなく、絵の情報から感情が伝わりにくくなっている。ワークの進め方は、読み手が登場人物の特定やそのときの表情、感情を推測しながら、自分の話し方を書き込んでいく。読み聞かせずに自分のペースでワークシートを答えていく。
このワークシートを使って、ロールプレイに移し替えたりする展開も授業のプログラムに加えているが、実際、極度に攻撃的、感情的な話し方が見られることも多い。従来の道徳授業であれば、その発言を注意し訂正することになるのであるが、自分を理解する観点から、子どもたちの感情を受け止め、後のアサーションプログラムにそって、自らその攻撃性に気づき、自己変革につながるよう支援的立場で展開することが大切である。
A子どもたちの感想例
K子<自分の言葉>
私の言葉づかいは、すごく攻撃的だとわかりました。自分で書いた言葉がすごくえらそうに見えて、頭にくるという感じでした。だから、相手の気持ちを考えて、できるだけ直そうと思いました。今まで分かっていたんだけどなおせないし。・・・・・これからは、もっときちんとしようと心の中で、ひっそりと思った。もっともっと、人にやさしくし、いい人になろうと思った。
Y子<私の言葉遣い>
私の言葉づかいは「あきらめ型」のようです。例えば、「私が食事をしようとしてお母さんがもう少し待ちましょう」の場面では、口で「うん、わかった」と答えても、心の中でどうして?って思っているんです。・・・・・・
私にとって、思うことはできても口で言えない「あきらめ型」が多いことから考えてみると、私は内気なんだと思いました。
H男<ぼくの話し方>
ちょっと、攻撃型だなあとおもった。「何なにして」って頼むのはできるだけど、外で遊ぶのが好きでも、勉強なんかに熱中しているとはっきり断れるんだとわかった。「弱虫」や「小さいくせに」なんて言われても、このときは、攻撃せずに「どうして」と答えられんだなあと初めてわかった。
O男<ぼくの話し方>
何か頼まれるとすぐに引き受けてしまう。ちょっと攻撃的なところもあるので、そこを直したらいいと思う。
自分が悪いと思うとあやまれるけれど、自分が悪くないと思うと攻撃的になるのがわかった。・・・・・・・・最初、怒ってしまったあとから「あんなこといわん方がよかったなあ」と思うことが多いから、最初から怒らないようにした方がいいなあと思った。
T男<あきらめるタイプ>
ぼくは、(突然の誘い)でも「ちょっと待って」と書きました。(小さいくせに)のときは、「べつにいいやん」と書きました。それを見ただけで、ぼくはあきらめ型だと思いました。どの問題を見ても「べつに、いいやん」という答えが多くて、あきらめ型です。「あーあ。あっさりかたづけてしまうんだなあ。」攻撃型の言い方は、心で思うんだけどなあー。あーあ、どうしよう。ぼくは、あきらめ型しかもっていないのか・・・・・」
今、ぼくにほしいのは、ちょっとっだけの攻撃型だ。いつも弱気になっていたなあ。あーあ。攻撃型がほしい。
これじゃあ、大人になっても・・・・・。ハアー。
B授業後の考察
この結果から、攻撃的、受け身的、アサーティブの3領域に加えて、無気力的なあきらめ型が新たな領域として明らかになった。
攻撃型は自己中心的な考え方をもち、人の話を自分への攻撃、非難と受け止め高圧的な表現となる。一方、受け身型は自分に自信が他の人の圧力や欲求に屈服してしまう表現となる。この受け身型は「よい子」と呼ばれるタイプに多く見られる。これを受けて、あきらめ型は、受け身型から出発し、自己主張が受け入れなれない結果、「言っても無駄である」との自己防衛的考えを習得したものである。近年、見られるステューデントアパシー症候群が主なタイプであろう。
4)どんな話し方があるのかなあ
(1)目的
表現の特徴には、受け身的な態度表現と攻撃的な態度表現、さらには非攻撃的な表現があることを知り、それぞれの態度によって相手の受け止めた感情の違いに気づく。
(2)対象、時間
小学校高学年
2時間扱い
(3)学習の形態
個人→グループ2人組
(4)準備物
日常場面での様子を絵に描いたワークシート(資料2)
(5)学習の流れ
子どもの活動 |
子どもへの補助・支援 |
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(1)話し方の2つの方法を思い出す。 ・攻撃的な話し方(相手が悪い) ・受け身的な話し方(自分が悪い) ・あきらめ的な話し方(無気力) (2)攻撃的な話し方、受け身的な話し方は相手にど映るのか、考えよう。 ・攻撃的な話し方、受け身的な話し方をしたときの相手のしぐさや表情、態度を観察しよう。 (3)どんな話し方がいいんだろう |
・ワークシートの問題を使いロ ールプレイをする。 ・自分らしい言葉の表現で ・作文の感想紹介も ・擬態語を使ってロールをする。 ・相手の身体的な特徴と、声の響き、大きさにも気づくように ・話し方の違いが、この後どう影響するのか、考えさせよう。 ・自分のことも相手のことも考 えた話し方を見つけさせる。 よりよい表現を場面に応じて |
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自分 OK |
相手 NO |
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攻撃型 受け身型 |
○ × |
× ○ |
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アサーティブ |
○ |
○ |
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・自分も相手も大切にする話し方ってどんなんだろう。 (4)ワークシートを使って、アサーティブ な話し方に書き直そう。 (5)グループで自分たちの思いを話しあう。 |
(6)学習の経過・考察
@擬態語を使ったロールプレイ
小学生を対象に攻撃型、受け身型、あきらめ型のロールプレイを実施するには、実際の意味ある話し方をすると人間関係が崩れる危険性がある。そこで、年齢に応じて、動物の鳴き声を使ったり、「あいうえお」などの演技中の言葉が不明確になるよう配慮したい。
また、2人組のロールプレイをするにも、まず、全員が教室の自由な場所で一斉に試してみる。全員が一度に取り組むことは、周囲の目から解放され恥ずかしさが軽減される。このことは一人ひとりが主体的に授業に参加しようと意欲が高まる結果となる。
A話し方の違いの観察
話し手の態度や様子、声の調子が相手にどう伝わるのかを体験的に観察することで、聞き手の気持ちを知るのがねらいである。そして、どんな話し方がいいのかを探らせる。子どもたちが観察した特徴を表ー1に提示する。
表−1 話し方の違いによる態度、様子の観察
攻撃型 |
受け身型 |
あきらめ型 |
|
声の調子 | ・大きく強い ・どなる |
・小さく弱い | ・ぼそぼそした感じ |
態度 様子 |
・前におそうように ・大きく伸び上がる |
・後ろに ・小さくまるまる |
・横を向く ・横へ動く |
顔の表情 | ・大きな目、口 ・にらむ |
・下向きで視線をそらす | ・よくわからない ・へらへら |
Bアサーティブな話し方
子どもたち自らどんな話し方をすればいいのか、考える視点を表にまとめる。この表「ジョハリの窓」をつかって、自分もOK(大切にする)、相手もOK(大切にする)といった合い入れる共生的な考えを支援する。
5)心を落ち着けて話してみよう(ショートストレスマネージメント)
(1)目的
つい言い過ぎてしまうことや言わずに我慢してしまうことの場面を思い出し、どんな表現が適切なのかを考え、そのために心を落ち着ける自分なりの方法を発見する。
(2)対象、時間
小学校高学年
日常的、習慣的に
(3)学習の形態
個人→グループ2人組
(4)準備物
日常場面での様子を絵に描いたワークシート(資料3)
(5)学習の流れ
子どもの活動 |
子どもへの補助・支援 |
(1)日常生活の中で「つい腹が立って言い過ぎたと思ったこと」や「言おうと思
いながらがまんして悔しい思いをしたこと」「どきどきして言いそびれた
こと」などを思い出そう。 (2)話し方の失敗は、どうして起こるのでしょう。 (3)自分の感情を沈める自分の方法を探そう。 (4)感情的な場面でも心を落ち着けて、自分のこと相手のことを考えて話そう。 (5)ロールプレイでアサーティブな言い方 を体験してみよう。 |
・自分の気持ちに気づかせる。 ・どんなことがあったのか、作文に
・自分独自の方法で心を落ち付ける。 ・感情を落ち着かせると、良い考えが浮かぶことに気づかせる。
・ストレスマネージメントを思い出すように
・2人組で話してみよう。 |
(6)学習の経過・考察
これまで、ストレスマネージメント教育をとおして、リラックスした心の状態を体験している。その心の状態を必要に応じて自分でコントロールできることは非攻撃的な自己主張にいたる大切な要因である。
過日おこなわれた音楽会、運動会などに子どもたちは、緊張の高くなる場面に応じて、自己流のショートストレスマネージメントを活用しているようである。そのいくつかの方法を以下に紹介すると、
・ただ目を閉じて、自分がちゃんとできたところを心の中で見る。
・「すーはー、すーはー」と深呼吸を2,3回行い、楽しいことを思い出す。
・はじめに大きく息を吸う、うまくいっていることを想像する。最後に、心臓に手をおいて深呼吸、次に、おなかに手をおいて深呼吸、さらに、「ぜんぜんきんちょうしない。うまくいく。うまくいった」と呪文をとなえる。
・おでこに手を当てて、目をつぶって1,2回深呼吸すると体がふわーと軽く なって落ち着く。
・首の付け根を親指で押して、深呼吸する。
・目を閉じて、おなかを軽く押さえて深呼吸する。
などの方法が見つかった。
各自が見つけたリラクゼーションを心を落ち着ける場面で活用する。一つは攻撃的な話し方をしてしまう場面に、また、受け身的になって自分を押さえ卑屈になりそうな場面に、それを積極的に利用するのである。
6)こんなときどうするのか試してみよう
(1)目的
場面に応じて自分の表現を適切なものにかえる能力を身につけ、実践しようとする態度を育てる。
(2)対象、時間
小学校高学年
日常的、習慣的に
(3)学習の形態
個人→グループ2人組
(4)準備物
資料4
(5)学習の流れ
子どもの活動 |
子どもへの補助・支援 |
(1)どんな話し方がよりいいのか、思い出 そう。 ・自分の気持ちを大切に ・相手の気持ちも大切に (2)こんなときどうするのか、2つの話し 方を考えよう。 ・攻撃的な話し方 ・受け身的な話し方
(3)自分の気持ちとにらめっこしながら 「もし、落ち着いていなければ」自分で 落ち着けよう。 ・アサーティブな話し方
(4)例題にそってロールプレイで試してみ よう。 ・自分の気持ちを確かめながら、よりよい 話し方を身につける。 |
・学習の振り返りを
・それぞれの話し方の違いを理 解できるように
・自分流のショートストレスマ ネージメントを
・日常的に使えるように |
例題文
来週の土曜日、たつや君は誕生日会をしようと計画していました。友だちも喜んで参加してくれるのを知ってわくわくです。「みんなとどんなゲームをしようか。サッカーもいいかなあ。」なんて考えていると待ち遠しくなってきます。一番仲のいいけんちゃんを誘おうと思って、休み時間に話しかけました。
「今度の土曜日、昼から誕生日会をするんだけど、けんちゃんもきてね。」
すると、いつもならふざけながら笑ってくれるけんちゃんが、少し困ったような顔をしています。
「どうしたの?都合悪いの。」
と顔をのぞき込むと、
「うん、サッカーの試合が土曜日あるんだよ。行きたいけどなあ。日曜日ならいけるけど」
と小さな声で返事が返ってきました。たつや君は考えました。一番仲のいいけんちゃんがいないとつまらないし、誕生日が終わっちゃうけど一日だけだし延ばそうかと思いました。
「わかった。けんちゃん。日曜日の昼からにするよ。それならいい。」
と聞くと、
「うん、いける」
といつもの笑顔になって、答えてくれました。たつや君は心の中で、けんちゃんのために日をかえてよかったと思いました。
待ちに待った日曜日の午後です。友だちが次々にやってきます。でも、けんちゃんはやってきません。たつや君はいらいらしてきました。そんな時、電話が鳴りました。たつや君は走って電話をとりました。
「あ、たつやくん」
けんちゃんの声でした。
「ごめん、今日いけなくなったんだ・・・」
とけんちゃんの声が聞こえました。たつや君は
「 」
どう答えたでしょう。
3.アサーショントレーニングを終えて
一連のプログラムを終えて、子どもたちの中に変化が見られたであろうか。そこで、子どもたちに質問紙を使って、トレーニング以前と以後の意識調査を比較検討してみた。その結果、
@したくないときには、「いや」と言えますか?
A腹が立ったとき、そのいらいらをしずめられますか?
Bわからないことを人に尋ねられますか?
C友だちがあなたを怒らせたり、無視したときはそれを言えますか?
の質問項目に向上が認められた。また、子どもたちの感想も
・前より言葉をよく話すようになった。
・自分の気持ちが表せるようになった。
・職員室にはいるときや発表するときのドキドキがとれ、話せるようになった。
・けんかをしそうになったとき「やっぱりぼくもわるいかなあ」と思えるよう になった。
・人前でもあまり恥ずかしく思わず発表できるようになり、うれしい。
など、一人ひとり意識は違うが、自己肯定的な感想をもっているようである。
これは「自分のいやな気持ちも正直に表してもいいんだ」といった安心感が、子どもたちの中に広まったことが一因である。@Cが向上したのは、自分の意に反する場面で「いや」と言えるようロールプレイをしたこと、友だちとの関係の中で腹立たしさや悔しさを擬似的に表現したことが実践的な場面へと結びつく機会となったためであろう。また、Bでは、終わりの会を使った自分の思いを話そうの場面で「分からないことを尋ねる」をめあてに日常的におこなったことが影響していると思われる。人との関係をよりよいものとするには、会話をとおしてたずねることは有効である。「たずねること」は、聞き手にとり理解しようとする積極的な姿勢とうつり、親和的な関係を深めることになる。このように様々なトレーニングを通し経験や体験を増やことで、生活場面に広がりつつあると考えられる。同様に、腹が立ったときにいらいらをしずめられるような自己コントロール力が高まったことも自分を振り返る視点をもつために重要なことである。
一方、このトレーニングをきっかけに
・話すことを意識して、緊張してしまうようになった。
・言葉遣いを直そうと思っているのに、なかなかなできずにがっかりしている。
・以前は、受け身あきらめ型だったのが、攻撃型になってしまった。
・前より話ができるようになったと思うけど、やはり、怒りっぽいです。
といった、意見も見られた。
特に、感情の正直な表現と怒りとの関係が混乱を招いている例である。怒りを静め、話せるようになることがアサーションの目的ではない。平木も指摘しているように、怒りは人間本来のもっている大切な感情であり、適切に表現できることがさらに良好な人間関係を築くものである。この怒りについてのアサーショントレーニングは、継続的な課題である。
文献
平木典子『アサーショントレーニング』日本・精神技術研究所、1993年
シェーン・リー&R・S・グレイム、吉牟田直他訳『自己表現トレーニング』
岩崎学術出版社、1996年
川端徹朗他『WHOライフスキル教育プログラム』大修館書店、1997年
『人間関係を豊かにする授業実践プラン50』小学館、1997年
幸美砂子「学校カウンセリングにおけるアサーション・トレーニングの導入と意義」兵庫教育大学修士論文、1997年
4.補助資料
資料1
自分のことを知ろう | |
自分に当てはまるものに○をつけてみましょう。 | 「 はい 少し いいえ」 |
1 うれしい気持ちを表せますか。 2 くやしい気持ちを表せますか。 3 したくないときには、いやと言えますか。 4 友だちにすすんで「おはよう」「さよう なら」と言えますか。 5 友だちに話しかけることができますか。 6 自分の間違いを言われても、素直に聞けますか 7 困ったときに助けてもらうようはなせますか。 8 腹が立ったとき、そのいらいらをしずめられますか。 9 お願いされても、だめなときにはことわれますか 10「ごめんなさい」と言われると、ゆるしてあげようと心がけますか。 11わからないことを人にたずねられますか。 12親切にされたとき「ありがとう」と言えますか |
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自分について感じたことや気づいたことを書きましょう。 |
資料2 葛藤場面1
資料2 葛藤場面2
資料2 葛藤場面3
資料2 葛藤場面4