(((平成12年度 研究紀要 第112集)))
 
1 研究の経緯
 平成10年度にスタートした全国教育研究所連盟第16期共同研究は、当教育研修所が事務局を担当し、今、教育に求められている「生きる力」をメインテーマに、「『生きる力』をはぐくむ学校教育の創造」と研究主題を設定し取り組んできた。 そして、平成12年度には、しめくくりとなる第5回の全国研究集会を開催した。本年度も、当教育研修所内の研究活動は、本県の教育課題を念頭におきつつ、全教連第16期共同研究の研究主題を共通主題とし、その主題に迫る具体的なテーマを掲げ、研究に取り組んできた。 平成10年度以来5回の全国研究集会においては、全国から計76本の研究発表がなされ、当所からも研究紀要掲載論文を中心に計8本の発表を行った。

 2 研究主題設定の理由

 これからの国際化、情報化、高齢化等のいっそうの進展や平成14年度からの学校週5日制の完全実施などの変化に、学校が的確かつ迅速に対応するためには、教育課程の編成や学校運営の在り方、教師の資質・指導力の向上などに関して、これまでの教育観や学校観を転換して対応する必要がある。 また、いじめ、不登校など、心の教育にかかわる課題がある今日、自立心や協調性、勤労の尊さや厳しさを学ばせるとともに、豊かな人間関係をはぐくむなど、共生の視点に立ち、人間としての在り方生き方を考える教育が求められている。 さらに、子どもの学習意欲を高め、教育内容の基礎・基本を確実に定着させるとともに、ゆとりの中で子どもたち一人一人の個性の伸長を図るために、指導方法の工夫・改善などの教育実践を行うことが重要である。 当教育研修所では、本県教育の課題や全教連第16期共同研究の趣旨を念頭におき、学校教育において、これら「生きる力」を育成するための具体的な方策を提言、調査研究するという観点から、「『生きる力』をはぐくむ学校教育の創造」を研究主題と設定した。 

3 「生きる力」をはぐくむ3つの視点

 「生きる力」をはぐくむための学校教育の創造について、全教連第16期共同研究で設定した3つの各部会の趣旨にそって研究を進めた。以下に各部会の研究テーマを示す。

 [学習指導部会]
 学習意欲を高めるための指導の在り方についての研究

 [現代的課題部会] 
 社会の変化に対応する学校教育の在り方をはじめとする教育の今日的課題についての研究

 [在り方生き方部会]
 共生の視点に立ち、自己の確立や社会性の育成などを支援する教育についての研究

 なお、本紀要は部会の研究テーマ設定の基本的な考え方を先に示し、部会ごとに編集した。
 

 「生きる力」をはぐくむ学校教育の創造

学習指導部会 学習意欲を高めるための指導の在り方についての研究
現代的課題部会 社会の変化に対応する学校教育の在り方をはじめとする教育の今日的課題についての研究
在り方生き方部会 共生の視点に立ち、自己の確立や社会性の育成などを支援する教育についての研究
学習指導部会
「総合的な学習の時間」に関する研究
−小・中学校における実践上の課題と評価−
義務教育研修課 主任指導主事兼課長 公家  裕
  主任指導主事 藤川智代子
  指導主事 山本 雄幸
  指導主事 一山 秀樹
  指導主事 森本 寿文
  指導主事 小山 智久

 平成12年度は新教育課程の移行1年目にあたり、県内の多くの学校で「総合的な学習の時間」が実施されている。研究にあたって、「総合的な学習の時間」について、学校経営研修講座等の受講者にアンケート調査を実施し、学校での取組状況や問題点について分析した。その結果、教科等との関連、教師の共通理解、評価等が課題として明らかになってきた。そこで、小・中学校「総合的な学習の時間」を考える研究講座参加者の学校の実践事例から実践的な手法を探り、取組の方向を示唆するとともに、評価の工夫改善についてポートフォリオ評価の試みを示した。                                    全文はこちら
 
平成12年度高等学校「総合的な学習の時間」実施校における現状と課題
−平成15年度「総合的な学習の時間」本格実施に向け−
高校教育研修課 主任指導主事兼課長 藤森 陽子
  主任指導主事 塩谷  誠
  指導主事 矢田啓二郎
  指導主事 山内 裕文

 「総合的な学習の時間」を先行実施している県立高等学校18校における取組状況(実施形態・内容,実施上の課題等)についてアンケート調査を行った。この調査を通して,取組の現状と推進上の課題について考察した。その結果,主として,(1)「教育課程の編成」に関しては週時程への位置付け方や教科や特別活動との関係,(2)「総合的な学習の時間のテーマ・内容」に関してはテーマ設定や評価の在り方,また(3)「家庭・地域との連携」に関しては外部講師の招聘などの課題が明らかになった。これらの点を踏まえて,本格実施に向けて配慮すべき事項を整理した。                                    全文はこちら
現代的課題部会
高校教員の資質向上をめざす研修計画
―教員のライフステージに応じた研修の在り方―
高校教育研修課 主任指導主事兼課長 藤森 陽子
  主任指導主事 堀   健児
  指導主事 肥田   均
  指導主事 原 潤之輔

 高校教員対象の研修講座が、それぞれの教員の経験年数等に配慮し体系化されているかの視点に立って、教育職員養成審議会の答申に基づきその在り方を見直した。ここでは、今後特に教員に求められる資質能力を育成する観点から、初任者研修、中堅教員研修、管理職研修の研修内容、研修形態を検討した。このことから、中堅教員対象に一般研修講座の中で社会体験研修を新設する、15年次研修または教育経営講座に企画立案、事務処理能力を育成する研修内容をいれる、管理職研修に人事・経理の管理能力を育成する研修内容をいれる等の必要性を認識した。                           全文はこちら
 
今後の理科教育を展望した教員研修
−諸調査をふまえた新たな講座の取組−
企画調査課 主任指導主事 松本 明紀
  指導主事 安達 佳徳
  指導主事 平松 紳一
義務教育研修課 指導主事 一山 秀樹
高校教育研修課 主任指導主事 堀   健児
情報教育研修課 指導主事 沖田 雅一
  指導主事 寺村 雅守

 本研究では、子どもの興味・関心に大きな影響を与える時期である小・中学校を中心に、理科教育の現状を調べた結果、児童生徒の知識理解は優れているが、学年進行とともに理科嫌いが増えることや、教師自身の自然体験や観察、実験の経験が不足しているなどの実態が明らかになった。
そして、これらの実態から教員研修の課題および改善・充実の方途を探り、本県の今後の理科教育の方向性と研修の在り方について構想した。その結果、児童生徒の理科に対する興味・関心を高めることや、教師自身の指導力を養成することが重要であると考え、そのためには、観察、実験、実習をより一層重視した講座を編成する必要がある等の結論を得、新たな講座を開設するに至った。                              全文はこちら
 

教育情報ネットワーク等を活用した教育活動の実践研究 T
−「心と心をつなぐ」テレビ会議等を活用した交流学習への支援−

情報教育研修課 主任指導主事兼課長 上谷 良一
  指導主事 谷岡 正也
  指導主事 白石   守
  指導主事 常陰 則之
  指導主事 岡本 育夫
  指導主事 沖田 雅一
  指導主事 寺村 雅守
  情報教育研究員 松岡 弘子

 当所では、平成10年度からネットワーク活用研究講座を実施しており、ICT(情報通信技術)(注1)を活用した新しい学習環境での魅力ある教育活動の創造の可能性を探ってきた。ここでは、今年度までの3年間の取組から、教育情報ネットワークを活用した教育活動が与える、学習環境の質的改善や表現力やコミュニケーション能力の高まり、さらに情報モラルの育成等についてまとめた。
 「心と心をつなぐ」テレビ会議等を活用した交流学習を中心にした実践研究を検証する中で、コーディネータとしての教師の企画力や調整力の育成、全国の教育センター間の連携、情報モラルの育成、さらに人的物的な支援など、学校や教員に対する教育センターとしての支援の在り方を示した。
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教育情報ネットワーク等を活用した教育活動の実践研究 U
−テレビ会議等の活用への技術的な支援や教育情報ネットワークのサポート体制 −

情報教育研修課 主任指導主事兼課長 上谷 良一
  指導主事 谷岡 正也
  指導主事 白石   守
  指導主事 常陰 則之
  指導主事 岡本 育夫
  指導主事 沖田 雅一
  指導主事 寺村 雅守
  情報教育研究員 松岡 弘子

 研究(T)で示したように、新しい学習環境における魅力ある教育活動の創造に向けては、教育センターとして当所が果たす役割は大きい。今後、各学校での教育情報ネットワークの日常的な活用が増大すると予想される中、テレビ会議システムの設定など高度な技術的支援が必要となる。また、当所の業務としての学校や教員へのサポート体制についても大切になる。
情報通信技術を活用した新しい環境での教育活動には、これらの技術的な支援を行うため、ヘルプデスクの設置や問合せ窓口の外注化、さらに階層化された支援体制など、きめ細かなサポート体制の構築が今後ますます必要となってくる。             全文はこちら
 

「基礎学力に関する検討委員会」報告
−高等学校の卒業時において必要とされる基礎・基本の学力について −

高校教育研修課 主任指導主事兼高校教育研修課長 藤森 陽子
  指導主事 山内 裕文
  指導主事 原 潤之輔
  指導主事 池上   隆
  企画調査課 松田 義人
  指導主事 平松 紳一
  義務教育研修課 小山 智久

 基礎学力に関する検討委員会は、県立高等学校教諭15名、指導主事5名、事務局3名で構成し、平成12年10月から平成13年3月まで月1回の割合で、高等学校の卒業時において必要とされる基礎・基本の学力について検討を重ねた。委員会では、基礎学力を構成する様々な資質・能力を列挙するとともに、それらを三つのカテゴリーに分類することを試みた。基礎学力のとらえ方では、「基盤となる力」、「問題を解決する力」、「自己実現できる力」に分類し、評価基準の客観性との関連、「知識」「技能・スキル」「関心・意欲・態度」との関連で整理することにより、基礎学力の具体化を図った。                  全文はこちら
在り方生き方部会

自己効力感から見た「トライやる・ウィーク」の教育的効果
−「学校不適応感」群の変化を中心にして−

心の教育総合センター 義務教育研修課 主任指導主事 古田 猛志
    指導主事 住本 克彦

 本研究では、心の教育総合センターで実施した「トライやる・ウィーク」に関する調査をもとに、自己効力感の視点から、「トライやる・ウィーク」が生徒にどのような影響を与えたかを研究した。体験前から体験後にかけての分析では、独立変数として「学校不適応感」を用いた。
 統計的な検定の結果、中学2年生の自己効力感には男子と女子に差がなく、「進路への関心度」に関係していることや、「トライやる・ウィーク」体験によって自己効力感が高まることがわかった。また、「学校不適応感」の強い生徒の自己効力感も高まることが確かめられた。
                                               全文はこちら
 

中学生の「社会体験学習」の効果に関する研究 U
−不登校傾向生徒の「トライやる・ウィーク」効果を中心に−

心の教育総合センター 高校教育研修課 指導主事 小林   宏

 「中学生用社会体験学習効果測定尺度」1) を用い、平成12年度に実施された「トライやる・ウィーク」体験者の事前・事後得点を分析した結果、「勤労観」、「社会的協調」、「家族のきずな」において、男女ともに有意な得点増加がみられた。平成11年度調査に見られた特に女子の得点増加が顕著という結果は見られず、女子の得点が高いという性差(「社会的協調」「家族のきずな」)が見られた。また、「学校へ行きたくないか」「実際に休んだりしたことがあるか」等のアンケート項目を用いた群別分析の結果、不登校傾向生徒においても「トライやる・ウィーク」が中学生の社会的発達を促進することが実証された。       全文はこちら
 
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