(((平成11年度 研究紀要 第111集)))
 
研究主題 「生きる力」をはぐくむ学校教育の創造
 

1 研究の経緯
 平成10年度、全国教育研究所連盟第16期共同研究がスタートした。近畿地区の府県・指定都市の教育センターが連携して推進委員会が設置され、当教育研修所に事務局が置かれることになった。そして、共同研究の研究主題は、今、教育に求められている「生きる力」をメインテーマに、「『生きる力』をはぐくむ学校教育の創造」と設定された。そこで、当教育研修所内の研究活動も、本県の教育課題を念頭におきつつ、全教連第16期共同研究の研究主題を共通主題とし、その主題に迫る具体的なテーマを掲げ、研究に取り組むことにした。平成11年度までに、4回の全国研究集会を開催し、全国から計61本の研究発表がなされた。当所からも「研究紀要111集」掲載論文を中心に計4本の発表を行った。 

2 研究主題設定の理由
 子ども自身が自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動する。このような活動をとおして、よりよく問題を解決していこうとする能力を培っていく激しく変化する社会においては、このような資質や能力がより必要とされてくる。
さらに、心の教育の重要性が叫ばれる中、自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力も、これからの教育において、特に育成されなければならない重要な課題である。
当教育研修所では、本県教育の課題や全教連第16期共同研究の趣旨を念頭におき、学校教育において、これら「生きる力」を育成するための具体的な方策を提言、調査研究するという観点から、「『生きる力』をはぐくむ学校教育の創造」を研究主題と設定した。

3 「生きる力」をはぐくむ3つの視点
 「生きる力」をはぐくむための学校教育の創造について、全教連第16期共同研究で設定した3つの各部会の趣旨にそって研究を進めた。以下に各部会の研究テーマを示す。

[現代的課題部会]
 社会の変化に対応する学校教育の在り方をはじめとする教育の今日的課題についての研究 

[在り方生き方部会]
 共生の視点に立ち、自己の確立や社会性の育成などを支援する教育について研究

[学習指導部会]
 学習意欲を高めるための指導の在り方について研究

 なお、本紀要は部会の研究テーマ設定の基本的な考え方を先に示し、部会ごとに編集した。

 

 「生きる力」をはぐくむ学校教育の創造

現代的課題部会 社会の変化に対応する学校教育の在り方をはじめとする教育の今日的課題についての研究
在り方生き方部会 共生の視点に立ち、自己の確立や社会性の育成などを支援する教育について研究
学習指導部会 学習意欲を高めるための指導の在り方について研究
現代的課題部会
高校教員に対する新しい研修講座の在り方
高校教育研修課 主任指導主事 岡野 幸弘
  指導主事 北川 眞弓
  研究員 梶原   勝

 現在進行している教育改革の流れを、高校教員に対する研修を見直す観点から整理してみた。高校教育に関しては、単位制高校、総合学科などの新しいタイプの高等学校の設置をはじめ、様々な改革が進められている。こうした教育改革を実効あるものにするためには、教員の資質能力の向上が不可欠の要素であることは、教育職員養成審議会答申でも述べられている。
 そこで、新学習指導要領の移行措置の時期となった現在、当所として、高校教員に対してどのような研修が必要であるかを考察し、研修の内容、方法、形態などについて、次のような提案を行う。
 @ 高等学校における総合的な学習の時間研究講座の新設
 A アクション・リサーチの手法を活用した授業研究
 B 遠隔研修等の新しい研修形態                          全文はこちら
 
組織内情報共有化の研究
高校教育研修課 主任指導主事 堀   健児
  指導主事 東山 茂樹
  指導主事 肥田   均

 情報化の進展にともなって、学校をはじめ教育機関にコンピュータが導入され、ネットワーク化が進められている。当所のLANも設置後2年余りが経過した。
 そこで、私たちは講座の企画・運営に不可欠の受講者や講師に関する情報の共有化を1つのモデルとして、LAN活用の効率的な在り方と問題点について研究した。そして、組織内情報の共有化に関するシステムの提案を通して、情報の有効な活用方法と情報モラルについて考察した。                                      全文はこちら
 
「心の癒し」につながる本の紹介についての一考察
―ビブリオセラピーに用いた本を使った実践―
企画調査課 主任指導主事 笹倉   剛

 近年、子どもたち同士の人間関係が希薄になるとともに、ストレスや精神的な悩みを抱える子どもたちが多く見られるようになってきた。このような子どもたちの心を癒すものの一つとして本がある。古くから、本には精神的な病や疲れを癒す潜在的な力があるとされてきた。本を用いて心を癒す実践は、最近、ビブリオセラピーという療法で、専門家たちによって行われるようになってきている。本研究では、ビブリオセラピーに用いた本の紹介技法について探っていくとともに、専門家がビブリオセラピーに用いた本が心の癒しにつながる本であるかどうかを、子どもたちの感想文をもとに分析し検証した。                全文はこちら
 
「生きる力」を育む「総合的な学習の時間」
−子どもの豊かな学びを目指して−
義務教育研修課 指導主事 森本 寿文

 本研究では,子どもたちが自ら課題を見付け,自ら考え,よりよく問題を解決するなどの「生きる力」を育む「総合的な学習の時間」が各学校で円滑に実施されるために,単元の構想や展開,子ども主体の活動,評価の在り方などについて論じた。とりわけ,各学校が創意工夫を生かし,子どもたちに豊かな学びをさせるためには,教職員の共通理解や協力体制が重要である。                                       全文はこちら
 
新教育課程に対応した情報教育を推進する指導者養成について
−地域や学校と連携した情報教育に関する研修の実施を目指して−
情報教育研修課 主任指導主事兼課長 梅澤 一元
  主任指導主事 上谷 良一
  指導主事 矢田啓二郎
  指導主事 常陰 則之
  指導主事 山本 雄幸

 平成14年度から施行される新学習指導要領で重視されている「体系的な情報教育」の実施に備え、平成11年度から3年間にわたって各地域や学校における情報教育に関する指導者を養成する研修講座計画をたてた。
 計画初年度の終了にあたり、研修の実施状況と課題についての分析を行い、今後の情報教育指導者養成の在り方について考察とた。その結果、当講座を受講した指導者が地域や学校における研修の活性化に役立っているが、今後は、県と地教委と学校がより一層連携して推進体制を充実し、組織的に取り組んでいくことの重要性を確認した。   全文はこちら
在り方生き方部会
進路指導から見た「トライやる・ウィーク」の教育的効果
−男女別から見た中学2年生の勤労観と個人志向性・社会志向性の変容について−
心の教育総合センター 義務教育研修課 主任指導主事 古田 猛志
    指導主事 住本 克彦

 本研究では、心の教育総合センターで実施した「トライやる・ウィーク」に関する調査をもとに、進路指導から見た教育的効果の研究を行った。 独立変数として性差(男子と女子)を用い、体験前から体験後にかけて、勤労観としての職場人間関係、自己実現、社会的自己実現、社会的ステータスの4因子がどのように変化していき、個人志向性・社会志向性がどのようなバランスで変化していくのかを分析した。 統計的な検定の結果、男子と女子の変動には違いが見られるものの、「トライやる・ウィーク」の社会体験学習は、勤労観の育成に効果があり、個人志向性・社会志向性を発達させることがわかった。         全文はこちら
 
中学生の「社会体験学習」の効果に関する研究
−中学生は「トライやる・ウィーク」で、どう変わったか−
心の教育総合センター 高校教育研修課 指導主事 小林  宏

 中学生の社会体験学習による変化(効果)を測定する尺度(質問紙)作りを試みた。その結果、「勤労観」「社会的協調」「家族のきずな」の3因子18項目の質問項目を抽出した。妥当性・信頼性の検討の結果、作成された「中学生用社会体験学習効果測定尺度(以下「本尺度」とする)は、中学生の社会体験学習の成果を、測定するに十分な尺度であることが確認された。
 本尺度を用いた本年度「トライやる・ウィーク」体験者の事前・事後得点の分析の結果、「勤労観」、「社会的協調」において、男女ともに有意な得点増加がみられたが、特に女子の得点増加が顕著であった。「家族のきずな」においては、男女差は見られず、共に有意な得点増加が見られた。また、体験学習中に、親(父母など)と体験学習について、よく話し合ったと答えた群ほど、事後における得点の増加が顕著であり、地域と家庭の教育力が合わさることによって、一層中学生の社会体験を豊かにすることが実証された。   全文はこちら
学習指導部会

主体的に学ぶ態度を育成する家庭科保育領域に関する一考察
―ふれあい育児体験学習をとおして―

義務教育研修課 指導主事 門脇 千里

 家庭科保育領域の学習では、親の役割の重要性を認識させるために、子どもに対する具体的イメージを持たせ、将来の自分の生き方を考える視点が大切である。これらを学ぶための手だてとして、ふれあい育児体験学習が実施されている。そこで、学習効果を測るためにアンケート調査を実施し、幼児とのふれあいをとおして、どのように子どもに対する具体的イメージをつかんでいくか、また、どのように自分自身を見つめ直し、将来の自分の生き方を考える視点を学んでいくかを考察した。その結果、乳幼児に対する高校生の意識変化と自己変容が明らかになり、乳幼児の発達を学習した後のふれあい育児体験学習の実施がより学習効果を高めることがわかった。                             全文はこちら
 
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