(((平成10年度 研究紀要 第110集)))
 
研究主題 「生きる力」をはぐくむ学校教育の創造
 

1 研究の経緯
 平成9年度、全国教育研究所連盟第16期共同研究がスタートした。近畿地区の府県・指定都市の教育センターが連携して推進委員会を設置し、当教育研修所に事務局を設けることになった。そして、今、教育に求められている「生きる力」をメインテーマに共同研究の研究主題を「生きる力をはぐくむ学校教育の創造」と設定した。そこで、当教育研修所内の研究活動も、本県の教育課題を念頭におきつつ、全教連第16期共同研究の研究主題を共通主題とし、その主題に迫る具体的なテーマを掲げ、研究に取り組むことにした。
 平成10年度には、2回の全国研究集会を開催し、全国から計31本の研究発表がなされた。当所からも「研究紀要109集」掲載論文を中心に計3本の発表を行った。 

2 研究主題設定の理由
 子ども自身が自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動する。このような活動をとおして、よりよく問題を解決していこうとする能力を培っていく 激しく変化する社会においては、このような資質や能力がより必要とされてくる。
 さらに、心の教育の重要性が叫ばれる中、自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力も、これからの教育において、特に育成されなければならない重要な課題である。
 当教育研修所では、本県教育の課題や全教連第16期共同研究の趣旨を念頭におき、学校教育において、これら「生きる力」を育成するための具体的な方策を提言、調査研究するという観点から、「生きる力をはぐくむ学校教育の創造」を研究主題と設定した。

3 「生きる力」をはぐくむ3つの視点
 「生きる力」をはぐくむための学校教育の創造について、全教連第16期共同研究で設定した3つの各部会の趣旨にそって研究を進めた。以下に各部会の研究テーマを示す。

[現代的課題部会]
社会の変化に対応する学校教育の在り方をはじめとする教育の今日的課題についての研究

[在り方生き方部会]
共生の視点に立ち、自己の確立や社会性の育成などを支援する教育について研究

[学習指導部会]
学習意欲を高めるための指導の在り方について研究

 なお、本紀要は部会の研究テーマ設定の基本的な考え方を先に示し、部会ごとに編集した。

 

 「生きる力」をはぐくむ学校教育の創造

現代的課題部会 社会の変化に対応する学校教育の在り方をはじめとする教育の今日的課題についての研究
在り方生き方部会 共生の視点に立ち、自己の確立や社会性の育成などを支援する教育について研究
学習指導部会 学習意欲を高めるための指導の在り方について研究
現代的課題部会
研修事務処理システムの構築
  研究員 田中 忠正

 研修の実施には多くの事務処理が随伴する。そのために必要な労力と時間は多大なものである。その負担を少しでも軽減するために Microsoft Access を用いた事務処理システムを試作し、本年度試用した。
 まだ不完全な部分を含んでおり、改善の余地を残すものの、前システムと比較して入・出力が容易であり入力ミスが生じにくい。特に統計処理に関しては、労力と時間の軽減に非常に有効であった。
 
「生きる力」を育む21世紀の学校づくり
−新任校長研修より−
  指導主事 東山 茂樹

 平成8年7月の第15期中央教育審議会第一次答申の中で、「生きる力」は提唱された。この力は21世紀に生きる子供たちに必要な能力であるといわれている。
 平成10年度県立学校新任校長研修で、演習・協議「生きる力を育む学校づくり−7×7法を使って−」を行った。これは児童生徒が「生きる力」を育むには、学校としてどういった面で改善・充実を図っていく必要があるかを新任校長に考えてもらう研修であった。
 この研修で作成した7×7ボードを用いて、新任校長の考える「生きる力」を育む学校について分析・考察を行った。その結果、新任校長の考える主な改善・充実面は、@教育課程の弾力化、A家庭・地域住民との連携、B教育環境の整備、C教員配置の改善、D校長のリーダーシップ、E法的制度の改善、F校内制度の改善であることがわかった。   全文はこちら
 
農業高校における学校開放の調査と研究U
  指導主事 松島 正志

 今日の子どもたちは人間関係が希薄化していると言われる。すべての子どもたちに豊かな人間性や社会性をはぐくむ上で、障害のある子どもたちと活動することは大きな意義があり、多様な連携や交流が求められている。
 一方、学校は地域社会とつながることによって、社会性豊かな教育環境となり、社会に対して「開かれた学校」となることが求められている。
 本調査から、障害のある人を身近に感じ、自分と立場や考え方の異なる人間を受け入れる心、意欲的、主体的に取り組む態度、自発的に交流活動のできる子どもたちを育てるには、高等学校3年間を見通した交流学習が大切であることがわかった。
 
授業におけるインターネットの活用について
  指導主事 矢田啓二郎

 21世紀における教育においては、個が生きる学習、共に高め合う学習の観点から、児童生徒の主体的な学習形態が必要とされる。インターネットを授業で活用することは、このような点に大きく役立つものと考えられる。インターネットを活用した授業の中では、その目的や対象、子どもの学びの広がりに応じて、インターネットにおける様々な手法を使い分けて行くことが必要とされる。
 本論文では、平成10年度に行った、インターネットを活用した実践的研究を通して、今後、インターネットを活用した授業を行う上での教師の役割、教師が身につけるべきリテラシーとして4点をあげ、その定着を支援する方法について提案を行う。         全文はこちら
 
情報教育と人権
  指導主事 常陰 則之

 次期教育課程では、小・中・高等学校のすべての発達段階で情報教育を行うとされ、各教科においても情報化が求められている。そこで、情報教育のあり方及び情報化への対応を探るとともに、高度情報通信社会の可能性、問題点、危険性等について概観し、それらが、学校現場にどのような影響を及ぼすかを論じる。
 また、「情報の主体的な選択」、「情報発受信の基本的ルール」、「情報化の影響」等、情報教育と人権との関わり、情報化社会がもたらす新しい人権について考察する。新しい人権としては、情報アクセス権、情報発信権等が考えられるが、児童生徒の発達段階に応じたレベルを考慮することが必要である。
在り方生き方部会
進生徒指導の在り方を探る
−思春期の子ども理解を通して−
  主任指導主事 藤原 功

 「思春期の子どもを考える(研究)講座」の各受講者の研究テーマにおける実践研究より、子どもたちの現状を分析し、思春期の子ども理解の方法や子どもたちへの指導・支援の在り方を探る。
 結果として、@教師がセルフチェック方式等の様々な方法を活用し、多面的に子ども理解を図る。A教師が受容的な態度で人間関係づくりを促す構成的グループエンカウンター等の授業実践などに取り組むことによって、信頼関係を育み、人間関係が深まる。B子どもたちが思春期を乗り越えるためには、自己理解を深め、自立していくために教師の指導・支援が必要である。などが確認できた。
 
乳幼児期・学齢期における音環境についての一考察
  指導主事 細見 悟

 今日の生活環境の中には、音や音楽が溢れ多様化しているため、それらの有用性や人間とのかかわりが見失われつつあると思われる。また、無意識のうちに耳に入り込む騒音による影響も無視できない。
 そこで、子どもたちを取りまく音環境について分析し、とくに乳幼児期・学齢期の子どもたちに対して、心身ともに健康な生活を送るための基礎を培う音環境の在り方について考察した。
 それらから、私たちが、子どもたちに自然の音や生活の音について興味をもたせ、体験を通して意識的に聴覚を育て、音環境を創造していくことが大切であると提言する。
                                               全文はこちら
開発的カウンセリングの考え方と実践に関する研究(U)
―その成果と課題―
指導主事 古田 昇 指導主事 久保田幸久
指導主事 岡野 幸弘    

 本研究は、子どもたち一人一人に「生きる力」を育む「心の教育」を推進していくための具体的な方法を探る目的で開始した。第1次報告として、「研究紀要第109集」(平成10年5月)において、開発的カウンセリングの視点に立った構成的グループ・エンカウンターを授業に導入することを提案した。
 本稿は、その第2次報告として、開発的カウンセリングの考え方や構成的グループ・エンカウンターがどのように教師や子どもに受け止められ、どのような効果があったかを分析したものである。
 その結果、教師に関しては効果として、@ 開発的カウンセリングの必要性の認識、A 構成的グループ・エンカウンターのねらいの重要性の体感、B 指導方針の確立や実践意欲の高揚、などが確認できた。
 また、子どもに関しても、@ 信頼関係に基づく望ましい人間関係の深まり、A 学習意欲の高まり、B 内容理解への助け、などが確認できた。                全文はこちら
「地域に学ぶ『トライやる・ウィーク』」の教育的効果に関する一考察
−中学生の「生きる力」をどのように育んだか−
主任指導主事 古田 猛志 指導主事 小林 宏

 心の教育総合センターでは、「トライやる・ウィーク」を体験した中学2年生に対し、体験前・後に心理学的テストバッテリーを実施・分析することによって、その教育的効果の測定を行った。
 測定に用いた心理学的テストバッテリーは、「自己効力感」「勤労観」「個人志向性・社会志向性」である。いずれも中学生の「生きる力」の根幹をなすものと考えられる。
 分析の結果、「自己効力感」「勤労観」「個人志向性・社会志向性」の各合計得点ともに、事後において増加し、同事業の体験が中学生の「生きる力」を高めることがわかった。
                                               全文はこちら
学習指導部会

生活科教育の改善・発展に向けた単元構成の工夫

主任指導主事 藤川智代子

 生活科新設以来10年が経った。その取組について、平成 11年9月に出された教育課程審議会は「中間まとめ」において、「直接体験学習が展開され、子どもたちは意欲的になったが、画一的な活動や単に活動するだけにとどまり知的な気付きを深めることが十分でない」と指摘している。このことを受けて、これまでの成果を生かし、さらに、生活科を改善・発展させるためには、カリキュラム編成の視点から再考する必要がある。本稿では、主体的な活動の連続・発展を図る単元構成について、実践例をとおして提案し、改善の一考とする。
 

数学科教師の専門性を高めるティーム・ティーチングの在り方に関する研究

指導主事 笹倉 剛

 本研究の目的は、中学校数学科におけるティーム・ティーチングの授業を実施していく上で、課題や問題点となっていることを明らかにしながら、ティーム・ティーチングの効果的な在り方を探ることにある。研究の方法として、教師の共同研究の成果が数学科教師の専門性や自律を高めていくということを、文献をもとに考察を進めていった。その結果、ティーム・ティーチングでの授業の進め方や教師の専門的自律性を高める指導項目・内容が明らかになってきた。その中でも、特に数学科教師の「指導の振り返り」や「他の数学科教師との意見交換」がティーム・ティーチングの授業にとってもっとも重要であるといえる。
 

これからの世界史教育
―教育内容の厳選と「生きる力」をはぐくむ歴史教育―

指導主事 松田 義人

 昨年の教育課程審議会答申は「ゆとり」の中で「生きる力」をはぐくむことを目標として掲げ、教育課程の改善点を具体的に示した。そこでは教科内容の厳選が「ゆとり」の前提として強く求められるとともに、知識注入型の教育から自ら学び自ら考える教育への転換が求められている。一方、これまでの世界史教育では内容の過剰さが教師・生徒を苦しめ、知識注入型の教育が主となり暗記教科のイメージを脱しきれていない。本稿では、世界史教育において教育課程審議会答申が提示した課題に取り組むための視点を考察し、世界史Aへの積極的な取組が従来の世界史教育を大きく転換し、課題解決への一つの突破口となることを示す。
                                             全文はこちら
 

学ぶ意欲を育む「天体に関する教材」の開発

指導主事 安達佳徳

 本研究では、小・中学校の理科「天体に関する教材」について、学習効果を高める教材の開発と指導者研修プログラムの開発を目指す。3か年の計画で進めることとし、今年度は児童生徒の興味や関心を喚起し学習を深める指導法の工夫について、教科書の記述内容から分析と検討を行なう。
 

算数科の基礎・基本をふまえ「生きる力」を育む算数的活動
−算数科から考える「総合的な学習の時間」−

指導主事 森本 寿文

 本研究では、算数科における基礎・基本とは何か、児童にそのような力をつけるためにどのような学習指導が必要であるかについて考察した。
 その結果、算数的活動を重視した基礎・基本が、児童に「生きる力」を育むことにつながるという結論にいたった。授業実践の結果、教師の豊かな発想が子どもたちの豊かな学びを生むことにつながり、教師の発想の転換と子どもを育てる評価の観点が求められることがわかった。また、基礎・基本を発展させる指導の在り方についてまとめ、「総合的な学習の時間」に発展する実践事例も挙げた。                           全文はこちら
 

自ら学ぶ家庭科保育領域に関する一考察
−「自分を見つめる」授業をめざして−

指導主事 門脇 千里

 中学生・高校生の家庭科保育領域におけるふれあい育児体験学習の目的は、乳幼児とのふれあいを通して、人間関係を築き、自分自身を見つめ直すことである。そのために、ふれあい育児体験学習に対する生徒へのアンケート調査を実施し、その結果に基づいて生徒ちの実態を分析することで、「自分を見つめる」授業のめざす方向について考察をした。
 その結果、中学生・高校生が乳幼児とのふれあい育児体験学習を実施することは、多様な生き方・考え方を生徒自らが学び取ることができる授業であり、新たな自己発見にもつながる体験であることが明らかになった。

 

「自ら学び、自ら考える力の育成をめざす」国語科教育

指導主事 細畠昌大

 本研究は、「自ら学び、自ら考える力の育成をめざす」国語科教育について、平成10年度小学校国語科教育(研究)講座受講者の研究成果からの分析を基に、今後の国語科教育の在り方について考察した。
 研究に際しては、子どもたちが自分の思いや考えを生き生きと発揮できるための授業の在り方に視点を据え研究を進めた。その結果、指導者たちが共通意識の中で、日常生活に必要な「話す・聞く、書く、読む」などの基礎的な内容を繰り返し学習させる必要性が明らかとなった。                                            全文はこちら

 

高等学校における「総合的な学習の時間」の展開について

指導主事 肥田 均

 「総合的な学習の時間」は、2003年の新学習指導要領の実施において最も注目されるものになると思われる。そこで、本研究では、第15期中央教育審議会第1次答申と教育課程審議会の答申の趣旨をふまえて、この時間をどのように展開するかを考察した。
 そして、「情報教育」「福祉・ボランティア・体験活動」「国際理解教育」「環境教育」などを柱とする「総合的な学習の時間」の全体計画のモデル案を提示し、展開にあたっての留意点を述べた。
 

理科評価法について
−化学における観察・実験の評価の在り方−

指導主事 堀 健児

 探究活動としての観察・実験をとおして、生徒に習得させたい科学的な能力や態度を明確にする必要がある。そこで、生徒が意欲的に観察・実験に取り組み、科学的に探究する能力と態度の学習をとおして問題解決能力を磨くとともに、自らの能力や個性を振り返り、生き方在り方を考えさせるための評価の在り方について考察した。
 さらに、指導の主体者である教師の行う個別評価と学習の主体者である生徒の行う自己評価や相互評価を組み合わせる多様な評価法のモデルを示した。
 

「NHK名曲アルバム」を教材化した世界史学習

研究員 梶原 勝

 NHKテレビに「名曲アルバム」という番組がある。古今の名曲を、それを生んだ国や町に取材し、名曲にまつわるエピソ−ドなどをテロップ(字幕解説)で画面に流し、名曲の生まれた故郷の美しい自然の映像とともに紹介している番組である。この番組で紹介された名曲の中から、世界史学習で教材として活用できる名曲をとりあげ、「名曲アルバム」教材化の利点について考察し、「名曲アルバム」活用リスト一覧を示した。
 

専門高校、家庭科におけるマルチメディア・インターネットに対応した情報基礎の指導について

指導主事 上谷 良一

 家庭に関する各学科では、情報基礎として「家庭情報処理」を共通に履修している。家庭生活に関する各分野の職業における情報化の急速な進展に対応するために新設された。しかし近年、情報化は想像を超える規模・速度で進展し、高度情報通信社会を迎え、産業社会だけでなく家庭生活にも大きな影響を与えている。 県内の各家庭科に関する学科を持つ専門高校では、教育用コンピュータの更新が進みマルチメディア、インターネットに対応したシステムの整備がされている。中央教育審議会第一次答申では、小・中・高等学校の各段階における系統的・体系的な情報教育を一層充実させていく必要があるとし、専門高校については、情報関連科目の充実を図ることとしている。「家庭に関する学科研究委員会」の情報教育グループは、新たなコンピュータシステムの活用方法を検討する中で「家庭情報処理」の見直しが必要とし検討を行い本年度から新しいカリキュラム案で授業を実施している。本研究では、マルチメディア、インターネットに対応した授業について試行した。
 

高等学校数学科において学習意欲を高め、自ら学ぶ力を育むコンピュータ活用の実態調査と考察

指導主事 谷岡 正也

 平成15年度からの高等学校信教育課程の実施に向けて、授業でのコンピュータ活用がこれからの課題になっているところである。そこで、高等学校数学科の授業の中でコンピュータがどのように活用されているか。また、これから活用したいかどうかの調査を行った。活用した結果は「体験的な活動や問題解決的な学習ができ、生徒自ら学ぼうとする意欲を持ってきた」など、生徒の学習意欲を高め、自ら学ぶ力を育むには成果が得られている。
 本研究では、上記の実態をふまえた上で、今後の数学の授業におけるコンピュータ活用の有効性及び問題点並びに教員の研修のあり方について提言した。       全文はこちら
 

中学校数学科の学習指導の在り方に関する研究
−数学的思考力を培う学習指導とコンピュータ等の活用−

指導主事 山本 雄幸

 本研究では、新学習指導要領及びその告示に至る過程を検証し、中学校数学科の学習指導の在り方について考察した。その結果、数学的活動や問題解決的な学習を通して、基礎・基本の確実な定着を図るとともに数学的な見方や考え方を育成していくという中学校数学科の学習指導が見えてきた。
 そこで、具体的に教材をあげ、コンピュータ等の活用を含む学習指導の方法を論じた。また、これらの具体的な学習指導例は、今後の当所における体験(教師が数学的活動や問題解決を体験する)を重視した研修講座の題材となることを期待してのものである。
 
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