令和3年度 第46回 入学式 学校長式辞  

 校門の横に伸びやかに咲き誇る桜の木も、4月になるのが待ち遠しかったのか、弥生3月には満開を迎えましたが、本日、春のさわやかな風の中、心洗われる木漏れ日のもと、ここ伊川谷は春爛漫の季節を迎えています。本来なら、本日は多くのご来賓のご臨席を賜り、入学式を執り行うことになっておりましたが、感染症拡大の防止のため、このような形で行うこととなりました。しかし、多くの方々が皆さんの入学を心より祝福してくださっている気持には変わりありません。

 ただ今入学を許可された200名の新入生のみなさん、入学おめでとうございます。私たち教職員はもとより、在校生とともに心から歓迎いたします。また、保護者の皆様、お子様のご入学おめでとうございます。お子様が学校の門をくぐられた姿を見られ、感慨ひとしおの保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

  さて、入学に際して新入生の皆さんに一つだけお話しをさせていただきます。 新型コロナウイルスが登場して約1年半が経とうとしています。先日、保育園を訪問したときにコロナウイルスに扮したバイキンマンと正義の味方アンパンマンが戦っている紙芝居を保育園の先生がされていました。しっかり感染予防をしましょう、というねらいで作られていました。子供たちは真剣そのもの、その後、子供たちは手洗い消毒を楽しそうに、そして一生懸命していました。アンパンマンは漫画のキャラクターの一人ですが、アンパンマンは本当にすごい力を持っているなあと改めて感じた出来事でした。保護者の皆様もお子様が小さいとき、ちょっとぐずった時など、ずいぶんアンパンマンに助けられたのではないでしょうか。ところで皆さんは、アンパンマンの作者、やなせたかしさんをご存知ですか。発行部数8000万部を超える日本を代表する漫画ですが、やなせたかしさんは、最初からアンパンマンで売れっ子になったわけではありません。ある日、ラジオドラマのシナリオが間に合わない事態が起き、ラジオ局の人から「何でもいいから明日までに書いてください」と頼まれ、急遽、「やさしいライオン」という30分のラジオドラマを仕上げ、放送されました。すると、これが意外と評判になり、フレーベル館という出版社から「やさしいライオン」の絵本の話が舞い込みました。そして、このフレーベル館から次に出した絵本が「アンパンマン」だったのです。これも初めは主人公はアンパン自身ではなく、アンパンを売るおじさんが主人公でした。その後、主人公をパンそのものすることで、みんなのヒーロー愛と勇気のアンパンマンが生まれました。しかし、ここでもまた、最初は評論家や編集者からは不評で続かないだろうとうわさされていました。けれども、幼稚園や保育園の子供たちの間でジワジワと人気が拡がっていきました。やなせさんはこうおっしゃっています。「子供たちが認めてくれたからアンパンマンは世に出ることができました。よく御存じの方はわかると思いますが、アンパンマンはとても弱いんです。雨にぬれてもダメ。顔に少し影響が出てもジャムおじさんに直してもらわないとダメ、でもいざというときにはやるわけです。必殺技のアンパンチでやっつけるシーンは気分爽快。我々は絶えずバイキンマンというウイルスとの戦いを繰り返しています。そしてその中で免疫力を付けてアンパンチを出し、いずれ幸せが訪れてくるということです。そして、次の週も平気な顔をして、またバイキンマンは現れお互い戦うのです。だからこそ活力があふれるのです」このやなせさんの話はもう10年以上前にやなせさんが受けたインタビューの一部ですが、今のこの社会にこそ、まさに通じる話ではないでしょうか。コロナ禍の中、今少し失われているのはこのような人間の活力だと私も思います。 現在、皆がコロナウイルスとまさに戦っている状況ですが、やなせさんが言われるように、戦うからこそ活力が出てくる、というという生き方もあるんだと考えさせられました。これは、やなせさんが様々な逆境を経験されたからこそ出てきた言葉かもしれません。

 みなさんも、これから始まる青春時代に、時には失敗や挫折があるかもしれません。しかし、そんなとき、やなせさんやアンパンマンのように、その逆境を生きる活力に変えて一歩踏み出す愛と勇気が必要なときもあると思います。そして、やなせさんは、アンパンマンを応援してくれる素敵な仲間をたくさん描いてくれています。皆さんにもここ伊川谷高校にあなたを応援してくれる友達、先輩、先生がたくさんいます。

  今日からここ伊川谷で始まる皆さんの高校生活が、百花繚乱の素晴らしい青春時代となることを祈念し、式辞といたします。


  令和3年4月8日
兵庫県立伊川谷高等学校長 曽谷 功

 

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