校長先生の授業 5月6日までの約束④

 みなさん、元気ですか。4月も今週で終わりですね。そろそろストレスがたまっていませんか。自分なりの発散方法を見つけましょう。ちなみに、私は人のいないところでジョギングすることと、YouTubeで漫才を観ることです。決して他の人に当たってはだめですよ。では、4回目のミニ授業です。

今回は「パイロットが空から学んだこと」(著者:坂井 優基 出版社:インデックス・コミュニケーションズ)です。

  著者の坂井優基さんは、国際線ジャンボジェット機の機長を長年され、この本にはその経験から感じたことや得たことが余すことなく書かれています。「空ほど美しい職場はない!」この言葉が心にしみてきました。大阪から札幌に向かうフライトは世界でも有数で、その情景がまるで目の前にあるかのように表現されています(わが校も修学旅行はこの便ですね)。離陸して水平飛行に移ると、左に日本海、右に太平洋。両方の海の色がいつも違うこと、日本はその土地のほとんどが山に覆われ少しの平地にほとんどの人間が住んでいて、そこから世界に色々なものが提供されたり入ってきたりすること。日本アルプスの山々や富士山の秋の紅葉の素晴らしさ、また、雪山の荘厳な姿など特等席であるコックピット(操縦席)からの感動が伝わってきます。また、海外への飛行では、高緯度地方で見る壮大なオーロラや様々な星座にはその周りには細かい星々があり、オリオン座などは本当に頭や手や足があるように見られ、古代ギリシャやローマの人が何故そのような名前を付けたかがはっきりわかるそうです。
 そんなまるで芸術の話があったかと思うと、次は飛行機の話に・・・ところで、みなさんは飛行機が電車と違って、毎回同じ航路を通らないことを知っていましたか。それも天候によってではないのです。例えば、機内で病人が出て、その人の脈拍が上がったとしましょう。すると少しでも呼吸を楽にしてあげるために高度を下げて機内の気圧を上げます。それによって、今度は空気抵抗が上がり燃料を消費しやすくなるので、次は経費のことを考え飛ぶ高さを考えるなどです。また、フライトごとにテーマが違うそうです。例えば東京~大阪の朝一番のフライトのテーマは、『時間』です。それは、お客さんのほとんどがビジネスマンなので時間を最優先に考えます。安全第一の中でできるだけ低く飛ぶ。しかし空気抵抗が大きくなるので、燃料を多く積んだり低く飛ぶと揺れが大きいかもしれないので機内サービスをやめたりなど・・・。しかし、これが夏休みの沖縄旅行だったらテーマは『揺れ』。それは、家族連れや子供の一人旅などもあるので、多少時間がかかっても揺れない経路を飛ぶなど・・。ただ操縦をされているだけではないことが書かれています。坂井さんは、『操縦席に座った時にはその仕事が9割終わっているくらい準備が大切』と言っておられます。昔、大リーガーのイチロー選手も『バッターボックスに立った時にはすでに準備は終わっている』と言っていたことを思い出しました。
 ところで、この本が面白いのは途中で問題が出ているところです。例えばこんな感じです。(ちょっと変えましたが・・)

【問題】 ハワイからの帰りの便で関西国際空港に南から近づいています。燃料は今から2時間飛び続けられる量があります。しかしこのとき、大阪から兵庫までべったり積乱雲が横に列をなしています。積乱雲の高さは7500mくらいで通常の関西国際空港への侵入だと、積乱雲の中を通過していかなければ高くて降りられません。レーダーで見ると積乱雲に隙間はほとんどありません。あなたならどうしますか。
 A シートベルトサインをつけ積乱雲の小さな隙間を狙ってアタック!
 B ハワイに引き返す
 C 高度を上げて積乱雲を飛び越す。
 D 伊丹空港に向かう。

答えは文末に載せてます。


 最後に、坂井さんはこう述べておられます。大切なことは自分の頭で考えること。飛行機に故障が生じたとき、天気は悪いけれどより近い空港に向かうべきなのか、天気はいいが遠い空港に向かうべきなのか、あるいは目的地まで飛ぶべきなのか、出発地に引き返すべきなのか様々な要素で判断が変わります。答えを教えてもらい、その通りにすることを何年もやっていると、自分で考えることができなくなってしまいます。情報はあくまで自分たちで考えるためのものであり、それを使えるようにするために様々な訓練を積んだり、コミュニケーションをとったりします。どんなことでも本物のプロになれば今までと違う景色がみられると坂井さんは言っておられます。皆さんの人生はまだまだこれからです。どんな素晴らしい景色が見られるか楽しみですね。これで授業を終わります。

 



  ところで、先の問題の答えはCです。Aは積乱雲はとても危険な雲です。飛行機を破壊するかもしれません。よって×。Bはここから引き返すには遠すぎます。燃料が足りませんから×。
Dは積乱雲が大阪から兵庫まで隙間なくあるのでアタックは難しい。そうなると一気に飛び越えて逆方向から着陸をアタックするのがベストだそうです。そのためには超えるだけの燃料の計算もします。柔らかい発想が大事だそうです。マニュアルだけでは答えは出ず、機転が大切です。同じことを確か③で書いた将棋の羽生名人とiPS細胞の山中先生も言われていましたね。

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