――――ここに、一人の霊能者がいた。彼女の名は滄子。幼い時にその才能が目覚め、今では表の世界で活躍する事はないものの、裏の世界では、徐々に注目されつつある存在だった。彼女は、霊視できるだけでなく、呼び出してコミュニケーションを図ったりする事も可能なため、普段は、『亡き夫に会いたい』だとか、『幽霊が出没するので、どうにかしてほしい』などという依頼をこなしていた。だが、最近、各方面から、『私のところで専属に働いてほしい』という勧誘が増えていた。どうやら、彼女の祖先が役小角であるという噂がかなりの信憑性をもって語られているせいもあるからなのか、上層部の人間は自分の事を少し買いかぶっているらしい、と滄子は考えていた。もちろん、上層部の人間は、その噂だけで判断しているわけではなく、身辺調査をして判断を下しているわけだが。
そして、リョウもまた、彼女に注目している人間の一人だった。彼も滄子と同じく霊能者なのだが、滄子とリョウは能力の性質が正反対だった。ちなみに霊能力は一般に、風・水・火・土の四つの属性に分類されており、滄子の能力は火、リョウの能力は風の属性をもっている。リョウは、以前から、裏の世界では名の知れた存在で、滄子が勧誘を受けるようになったのも、リョウが『見込みがある』と言い出したからだった。彼の能力は未来予知と夢見だが、もう一つ、重要な能力があった。それは、攻撃能力だ。やはり、誰かに襲われたという痕跡が残りにくいうえ、攻撃能力を持つ霊能者は少ないため、重宝がられるのだ。リョウはその能力をもって滄子の潜在能力を見極め、上層部の人間に知らせたのだ。ただ、リョウは噂の人物がいかなる者か調べよという依頼を受けて行なったのみで、自ら望んだわけでは
なくいささかの不満があったが。そして結局はその勧誘を断りきれずにリョウが報告をした会社の仕事に
就くことになった滄子と、そして彼女に何かと敵対するリョウの二人が織り成す物語が、今ここから
始まろうとしている―――――
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