最後の一枚     by輝瞳蓮廉  
 

 私の名はリチャード=ティッシュペーパー。ブルーボックス王国を治めるもの。
いきなりだが、現在我が王国は巨大な敵と交戦中である。そう、巨大な…。
「リチャ−ド様っ!!」
 大臣が息を切らせて走ってきた。
「リチャード様、もう限界でございます。半数以上の兵がやられてしまいました。敵の攻撃は止まることをしらず…」
「…そうか…」
 私は静かに目を閉じた。
 いよいよ我が王国にもこの時がやった来てしまった。
 我ら…私も含む、この王国に生まれた者達全員…がこの日がくることを覚悟していた。これだけはどうしても避けられぬ『さだめ』であるからだ。
「あの者達によってつくられ、殺される・・・。ティッシュとは何と悲しい種族なのだろう!」
 私は思わず叫んでいた。叫ばずにはいられない気持ちであった。
 我らティッシュ族の悲劇は今に始まったことではない。
 ティッシュ族はこの世に生まれてきた瞬間から、なんともつらい『さだめ』を負っているのだ。
『人間』という、我らとは比べものにならない知恵を持った種族によってつくられた我らは、彼らにあらゆる用途で使われ…使われるということは、つまり死ぬということ。これまでも多くのティッシュ族が命を落としてきた。
 一度使われた我らは、まず二度使われるということはなく、汚いごみとしてすぐに捨てられることが多い。
 我らは生まれた瞬間に、近いうちに死が訪れることが約束されているのだ。死にに生まれてくるようなものである。
 ティッシュ族の儚い人生を思うと、いつも涙が止まらなくなるのだった。
 悲しみと怒りのあまり、激しく肩を震わせる私の側に大臣が歩み寄った。

「リチャード様…もう時期我らにもあの者達の手が…」
「あぁ、分かっている。我らのかすかな抵抗など、やはり意味のないことであったな」わたしがそう言った瞬間。
「あぁ!リチャード様!!!」
大臣の叫び。いよいよ来た!巨大な悪魔が…!!
私が振り向いた時には、もう既に大臣の姿はなかった。
あたりはしんとなり、私は再び目を閉じた。
今、この広い城の中にいる者はとうとう私だけになってしまった。
「さぁ、次は私の番だ…」

○ ○

ところは変わり、ここはとある高校のあるクラブの部室。

「ぶぇっくしょぃっっっ!!!!!」
強烈なくしゃみが炸裂した。
「おい、浩貴。大丈夫か」
「圭人…お前なぁ、これが大丈夫そうに見えるんか!?」
浩貴は、鼻声でそう言って、友人・・・圭人をにらんだ。
現在この部室のティッシュは、風邪で大変な浩貴が独占していた。
「うー…鼻がとまらん…」
そう言って浩貴はティッシュ箱に手を突っ込んだ。
「あ、これで最後や……??」
浩貴は空になったティッシュ箱を見つめて沈黙した。
「なにしとんねん」
圭人も一緒になってティッシュ箱を見つめた。
「うわっ、浩貴、おまえこの箱に惚れたんか。やばい趣味しとんなー」
「なんでやねん!そんなんで見とったんちゃうわ!!」
浩貴は怒鳴ってつっこみ、また静かになった。
「なんやねん、おまえ…なんか変やぞ」
圭人が浩貴をじっと見ていった。
「…なんか聞こえた気がしたんや」
「…は?」
「何か…」
「お前…保健室行ったほうがええんちゃうか?」
「…」
浩貴は黙ったまま、手に持った最後のティッシュを見つめていた。
<完> 


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