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False Moon....




十数年前、静かな、獣のつめのような月が浮かんでいた夜。

暗く、、少しかび臭い部屋で、ソレは行われたのです。

誰にも知られることなく、、創りだされたのです、、、。

そう、、誰も知らない、、、、、、、、。




国中に美しい運河が流れる別名『水のアクエル』こと、アクエル国では国を上げての 盛大な祭りの最中だった。

この国の王子と王女の17歳の誕生日を迎えたのだ。

前日にはパレードもあり、異常なまでの盛り上がりを見せた。

そして王子たちの誕生日である今日、城でパーティが開かれるということで、

町の娘たちは王子に会うため気を入れてめかしこみ、淡い夢に浸っていた。

もちろん男たちも例外ではなかったが。



城の屋根の上、春の暖かい風にその絹糸のような長い金の髪をなびかせ、 少女が一人、たたずんでいた。

足元のほうでは数人の侍女たちがその手に今日のパーティ用のドレスを抱えて、

彼女を探して駆けずり回っていたが、そんなことはお構いなしだった。

「はぁ〜、、も〜ドレスなんか着たくないな〜」

透き通った声で、不平を誰に聞かせるわけでもなくつぶやく。

『ガラスの乙女』とまでうたわれるこの少女こそ、 アクエル国第一王女にして水の巫女、セシル=アクエルである。
ガラスのように繊細で儚げな美しい顔立ち、薄い唇は何もつけていないのに綺麗なピンクに染まっている。

特に印象的なのは、夕暮れに近づく空を吸い込んだような蒼い大きな活気に満ち溢れた瞳であった。

国中の男達の目をくぎ付けにするのはたやすいであろう。

しかしこの少女、実は体を動かすのが大好きで趣味は体を鍛えること。

そして城の兵士たちではかなわないほどの武術の達人であった。

普段はそれらしく振舞っているが、男勝りな性格で今日もドレスが嫌だと逃げてきたところだった。

突然風の向きが変わり、セシルは後ろのほうから人の気配を感知した。

何事かと振り返ると同じ金髪、同じ顔の美しい少女が立っていた。

いや、服装を見る限り少年のようだ。

セシルよりずっと髪が長く頭の後ろでひとつにくくり、少し間を空けてまたくくっている。

風が吹き、宙に髪が踊る。

「なんだリムルか〜、脅かすなよ、、、というかどうやって登ってきたんだ、、?」

「それは、な・い・しょダヨv」

そう言うとリムルと呼ばれた少年は柔らかく微笑んだ。

身長はセシルよりかは幾分か高いようだが、その微笑はやはり『ガラスの乙女』そのものだった。

セシルの双子の兄である、第一王子リムルである。

こちらも肌が透き通るように白いが、あまり健康とはいえないような白さである。

恐ろしく頭が良く、一日のほとんどは本を読み知識を詰め込んでいる。

それに加えこの容姿なので『才色兼備』という言葉は

この者の為にあるような物だと皆にいわれている。

もっとも、セシルには『歩く辞書』、『生きる化石』などといわれているが、、。

「セシル、みんな探してるよ〜?ほら、降りようよ〜ねっ?」

穏やかな、というより気の抜けるような声である。

低いような高いような中性的でどこか夢を見ているような気分にさせる。

「だって〜、あれひらひらしててすごく動きづらいんだもん」
ぷいっとそっぽを向く、が何かひらめいたらしくニヤリと笑うとふりかえる 。

「そんなに言うならリムルが着ればー!」

あかんベーをすると一目散に走り去ろうとした。

怒りと批判の声が飛んで来ると思ったのだ。

しかし、、、

「あ、別に良いよ〜楽しそうだしv」

あっさり受け入れられてしまった。 こうもあっさりいくと逆に残念な気分になる。

「いいって、、おまえなぁ、、」

「一回やってみたかったんだよね〜♪」

その一言にセシルは凍りついた。

(、、、こ、こいつ、、、そういう趣味があったのか、、?!)

頭の中でそんなことを考え半ば混乱したまま引きつった笑いを浮かべていた。

べつに女装趣味があるわけでなく入れ替わりというものをやってみたかったという意味なのだが

そこまで頭が回らなかったらしい。

こうしてセシルの心にひとつの疑惑がのこるまま

大切な大切な国を上げてのパーティの主役たちは恩をあだで返すように

このおばかな計画を実行に移したのであった、、、、、。