上海市松江第二中学創立100周年記念式典に出席して

                                                                                 教 頭 桂  邦彦

  はじめに
   去る10月15日から3日間、国際理解教育推進委員会の中原先生とともに、本校の姉妹校である上海市松江第二中学の創立100周年記念式典に出席する機会をいただいた。中国は初めてであり、期待に胸が高鳴った。 
    関西空港から上海の浦東空港までは約2時間の飛行である。空港では、上海海事大学の黄教授と英語の張先生が笑顔で、親友のように私たちを迎えてくれた。二人は、「荷 物を持ちましょう。」と言って私たちから荷物を取り上げ、誘導してくれた。しかし、黄先生は、他のお客様を迎えるために、空港に残り、張先生が私たちを、宿舎まで送ってくれた。英語でのコミュニケーションであったが、英語が国際語であるというよりは、 自分が中国語を話せないことを恥ずかしく思った。お互いの学校のこと、翌日の式典のことなどが話題の中心であった。

  中国人の「相手の認識」の仕方
   学校から歩いて5分ほどの松江賓館にチェックインした。着替えた後、ホテルの2階にあるレストランの特別室で小さな夕食会を開いていてくれた。若い英語の潘先生が加わった。お互いの授業、日本や中国の食べ物、翌日の式典のことなど日常的な話題になった。リラックスした雰囲気の中で、ジョークも飛び交うなど楽しい一時を過ごすことができた。夕食後、潘先生が私たちに松江の繁華街を案内してくれた。彼女は、熱心に説明をしてくれ、こちらの質問を聞き逃すことさえあった。
    今回の中国訪問に際し、中国に留学した経験のある知人から、「中国人は、バスに乗るときも人を押しのけ、切符を買うときにも列に並ばない。まるで他人を意識していないようなところがある。しかし、彼らはいったん相手が『自分の領域』に入ると、突如 相手を『人』として認識するようになる。つまり、中国人と知り合いになり、彼らに「人」として認めてもらった瞬間に、自分もその相手の世界に入り込めたという実感がわいてくる。探り合いも何もなく、相手と気持を共有し、自分の世界も相手の世界分だけ広がったように感じられ、とても心地よい気分になる。これが中国人の魅力の1つである。」 と教えられていた。
   中国東方航空の乗務員や上海浦東空港での入国審査官の無愛想な対応、黄先生、張先生や潘先生の心のこもった対応などから、知人から聞いていたとおり、中国人の「相手 の認識」の仕方は、日本人とは全く違うのだと実感し、私にはとても興味深かった。

  松江二中の印象
   翌日、創立100周年記念式典に出席するため、松江二中を訪問した。正門前では、20人余りの生徒がトランペットを吹いて、創立100周年を祝っていた。その周りは、記念写真を撮ったり、懐かしそうに話しをしている年輩の卒業生などでごったがえしていた。
校内に入ると、それは事前に聞いていたとおり、広い敷地とすばらしい設備に恵まれ た学校であった。その広い校内のあちこちに生徒が制服を着て立ち、礼儀正しく式典参 加者に「ニーハオ」などと声をかけている。また、重い荷物を持った老人を見かけるとそこへ駆け寄って、黙って荷物を持ち、その老人を案内している。そのような光景を見ると、生徒は勉学だけでなく、マナーも一流であると思った。
   式典は500人を収容する大会議室で開かれた。私は来賓の一人として、来賓控室へ案内され、20人余りの県人民政府代表、県教育局代表など学校関係者とともに舞台に 設けられた席に座った。非常に丁重な対応に感動した。式典は、スピーチが中心で、他 にもこのような周年行事が2つもあるとのことで、1時間程度で終わった。式典で挨拶をしている人が自分で拍手をしたり、舞台上の来賓は隣の人と平気で私語をしたり、出席者も大きな声で話をしたりしていた。日本の式典の厳粛な雰囲気とは全く異なっていた。両国の文化の違いというよりは、中国人の細かいことに動じないおおらかさを感じた。
   式典の後、生徒による合唱、合奏、踊りなどがあり中国の雰囲気を楽しめた。生徒の生き生きとした姿を見ていると、不登校や心の病を持つ生徒は皆無のように思えた。実際は皆無ではないが、ほとんど問題にならないとのことであった。
昼食会の後、国際交流の責任者である程先生と英語の董先生が私たちをドライブに誘ってくれた。二人の言動には私たちを思う気持が溢れており、とても嬉しかった。夜は、校長先生を囲んでの夕食会が開かれた。式典のこと、3学期の兵庫高校への訪問を含め た今後の交流の在り方などを中心に2時間近く楽しく語り合った。中国人は本当に純朴で、「知人」を大切にするのだということを再認識した。
最終日は、程先生と英語の肖先生が上海市の中心部へ連れて行ってくれた。日本をはじめ欧米企業のビルが林立しており、大都会そのものであった。中国の勢いと同時に、松江の古い街並みとのコントラストに中国の歴史を感じた。

  おわりに
   わずか3日間ではあったが、今回の訪問で最も強く感じたのは、中国人の「相手の認識」の仕方は日本人と全く違うということである。いったん知り合いになると、そこには「心の壁」が存在しないかのような関係が成立する。
日本ではまるで正反対の人間関係が見られる。全くの他人にも、良く言えば礼儀正しく振る舞うし、知り合いになった直後にも、すぐに心の壁がなくなることはなく、よそ よそしさが残る。容易に自分の領域に他人を入れないきらいがあるのかも知れない。両 国の人々の気質にこのような違いがあるからこそ、私には中国人の言動が余計新鮮に映 った。同時に、松江二中との交流を更に深めることができると確信した。
   広大な景色をこの目で見て、出会った人たちと語り合い、充実した3日間を過ごせたのは何にも代えがたい経験になった。このような機会を与えていただいた阪本校長先生、この訪問の日程調整や航空券の手配など全てを準備してくれた松野先生と宗石先生に心より感謝申し上げたい。


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