北 川 英 基 氏 〔兵庫県立御影高等学校教諭〕
(Organizing a Network of Chemistry Teachers and Promoting Activities in the Community)
北川英基氏は,1966年に新潟大学教育学部中学校教育科理科を卒業し,新潟県新発田市の学校法人新発田工芸高等学校(現新発田中央高等学校)に赴任。1970年に広島大学大学院理学研究科化学専攻修士課程に入学,1972年に修了。同年4月から兵庫県立神戸高等学校に赴任。以来,北須磨高等学校,加古川東高等学校,御影高等学校と30年にわたって兵庫県立高等学校の教壇に立ち,公務や部活動の指導を熱心に行いながら,化学を中心とした理科教育に専念してきた。この間,自らも多数の研究発表や提言をするとともに,一貫して,理科嫌いの進行に抗して悩み,奮闘する化学教師とともに歩み,研究組織作りと地域活動の援助・育成に努めて,多方面で活躍する理科教師を多数輩出した。以下に,同氏の業績の概要を述べる。
1.兵庫県理化学会での活動
1973年,氏は,新設の兵庫県立北須磨高等学校に赴任して,化学実験室の整備に努め,生徒実験を数多く取り入れた化学授業と,教室にほぼ毎時間演示実験を持ち込む授業スタイルをつくった。占部正輝先生(当時,兵庫県立神戸高等学校)が主宰された地域における化学教師の勉強会「化学談話会」の創設に参加して,生徒実験・演示実験を交換しあった。この中で生まれた同氏の内容に富んだ示唆的な研究成果が,兵庫県理化学会や日本理化学協会で発表され,他の談話会会員の発表をも誘起して,兵庫県の化学教育を活性化した。また,兵庫県内国公立大学化学入試問題検討委員を5年間,兵庫県下一斉実力試験問題作成委員及び教科責任者を会わせて17年間務めた。問題作成にあたっては,単に偏差値を測定するだけの問題でなく,化学の基礎の理解度と応用力を測定する質の高い問題を練り上げて,高い評価を得た。
兵庫県立加古川東高等学校在職中は,3年間兵庫県理化学会の事務局を担当し,会誌の編集,実験書「理化I学習ノート」及び同改訂版の編集を統括した。この仕事を通して,生活と結びついた化学によって興味と関心を深めることの重要性を認識し,1982年日本理化学協会東京大会で「意見提示者」としてこれを訴えた。熱心な自習助手の人たちの要望に兵庫県理化学会事務局担当者として応え,全国に稀な「実習助手部会」の発足と,助手部会主催の第1回研修会開催を支援して,今日の目覚ましい助手部会活動の基礎を築いた。また,姫路−加古川地区でも松崎繁夫先生(当時,兵庫県立姫路東高等学校)・藤井舜介先生(当時・加古川東高校)とともに「化学談話会」を継続的に開いた。1981年以来,兵庫県理化学会の常任幹事として,各種行事の審議,運営にあたっている。
1992年兵庫県理化学会の推薦を受けて,日本化学会化学教育協議会近畿支部の委員となり,兵庫県化学教育とのパイプ役を果たした。大学の化学入試問題をめぐる大学〜高校交流会には,県内組織網をつくり,担当者中心に意見交換会を開いて臨む実践的な体制をつくった。検討結果を冊子にして配布・報告する,県理化学会誌に掲載するなどして,入試問題の質の改善,ひいては化学教育の改革を目指すことを訴えて賛同の輪を広げた。
2.研究グループの育成
「化学談話会」の多くのメンバーが校務の中心を担うようになって,会が休眠状態にあった1995年,その若手のメンバーと他の若手融資とが合流して,新たな研究会「化学教育兵庫サークル」が阪神淡路大震災後の兵庫に発足した。北川氏はこの会の代表を引き受け,有能な事務局スタッフとともに幅広い活動を続けて,活発な研究会を育てた。
月1回の定例研究会,毎月の会誌発行に加えて,実験ビデオの製作配布,中高理科教員向け環境科学実験講座の開催,公開講演会の実施などの事業が行われている。また,小中学生向け理科遊び教室の開催,青少年科学の祭典の運営や出展,地元新聞に科学普及講座「理科の散歩道」を毎日曜掲載,各種講演会の講師引き受け,,海外教師派遣事業への複数会員の参加,「化学と教育」氏に多数の会員が投稿するなど,研究会会員による活動は多方面に広がっている。この会の持続力は,第1に,会員が得意分野で自立的に活動して刺激しあうこと,第2に,それを援助する有能な事務局が毎月会誌を発行していること,第3に,定例研究会が,様々な話題の意見交換や近況報告という形で,ワークショップ的に和気あいあいとされていることによって生まれている。どうしは,こうした活動を支援し,自らも曲がり角にある学校現場から問題を提起し,解決策を模索し続けてきた。会員とともに語り合い,地域の理科教育を支える,すそ野の広い研究会を育てた。
以上のように,北川英基氏は,教育の土台を成す,化学教師の研究組織の構築と地域活動の育成・活性化に献身的に尽力して,その化学教育への貢献はまことに顕著である。よって,同氏の業績は,日本化学会化学教育有功賞に値するものと認められた。
※この記事は,日本化学会「化学と教育」誌 2002年50巻3号p251より転載したものです。
2002年3月27日,日本化学会第81回春季年次総会(於早稲田大学)において,化学教育兵庫サークル代表の北川英基氏が,ノーベル化学賞受賞者野依良治日本化学会会長より化学教育有功賞を受賞しました。
この化学教育有功賞は,全国の小・中・高等学校の先生方を対象に化学教育に長年功労のあった先生方に授与されるもので,今年度は5名の方が受賞しました。北川氏はその一人として「化学教師の研究組織作りと地域活動の育成」に対する活動が評価され,受賞となりました。詳細は,日本化学会編 「化学と教育」または「化学と工業」3月号をご覧ください。
受賞式は,早稲田大学14号館で行われ,授賞式には北川氏の大学時代の恩師の宮本先生もお祝いに駆けつけられました。
〔写真〕授賞式の野依良治氏(左)と北川英基氏(右)