心の教育推進センター 兵庫版「自殺予防教育プログラム」 |
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はじめに | ||||
2006年の「自殺対策基本法」の成立以降、中高年のうつ病対策を中心に自殺予防の取組が進められた結果、2011年に至るまでは3万人を超え続けてきた自殺者数が、コロナ禍で若干の上昇が見られたもの、今は、もう少しで2万人を切るところまで減少してきています(2024年の日本全体の自殺者数は20,268人)。しかし、全体の自殺者数が減少している中で、若い世代の自殺は増加傾向にあり、ここ3年続けて、小・中・高校生の自殺者数は500人を超え、2024年は527人(厚生労働省の発表によれば、内訳は小学生15人、中学生163人、高校生349人で、前年比2.7%増)と、統計のある1980年以降で過去最多の数字を示しています。 日本全体の自殺者数が減る一方で、児童生徒の自殺が増え続けているということは、これまでの自殺防止対策が児童生徒には十分に届いていないと捉えざるを得ません。「自殺対策基本法」の成立を受けて、文部科学省でも2006年に「児童生徒の自殺予防に向けた取組に関する検討会」(2008年より「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」)を設置し、学校における自殺予防の取組や、自殺が起きてしまったときの緊急対応の在り方などをまとめ、さらに、児童生徒を直接対象とする自殺予防教育のモデル案も全国に発信してきました。更に2016年には「自殺対策基本法」の一部改正が行われ、学校における自殺予防に係る教育の一層の推進・強化が求められる中で、今日に至っています。 児童生徒に対する自殺予防教育の大きな柱は、「早期の問題認識(心の危機に気付く力)」と「援助希求的態度の促進(相談する力)」です。消えてしまいたいと思うほどの辛い気持ちに自分自身で気付いて自ら「助けて」と声を発せられること、周りの人の危機に気付いて適切な相談や支援を行えること、信頼できる大人や専門機関に危機にある状況を伝えられることが重要だと言えます。ただ、「自殺」を直接的に扱う授業は、学ぶ主体である児童生徒自身が内容を適切に受け止められる基盤を身に付けていなければ意味を持ちません。そこで、文部科学省は自殺予防に焦点化した自殺予防教育の「核となる授業」の実施前に、「生と死の教育」、「心身の健康教育」、「温かい人間関係を築く教育」などを、自殺予防教育の「下地づくりの授業」に当たるものとして位置付け、取組を進めることを求めています。 兵庫県では、2017年に、「早期の問題認識」と「援助希求的態度の促進」をねらいの柱とし、自殺予防教育の「核となる授業」に直接つながる「下地づくりの授業」として活用できる「自殺予防に生かせる教育プログラム」を作成し、中学校・高等学校での活用を促してきました。しかし、教職員の合意形成や教育課程への位置付け等、実施体制づくりに悩む学校もあることから、今回、自殺予防教育に取り組む場合の全体像のモデル及び校内の体制モデルを示すとともに、「生徒指導提要」(文部科学省, 2022)の改訂の方向性も踏まえて、同プログラムをより実効性の高い、また、学校でより活用しやすいものにすることをめざして、大幅な改訂を行うことになりました。 そこで、「自殺予防に生かせる教育プログラム」実践校に対する調査を実施し、これまでの取組の成果と課題を整理した上で、同プログラムを見直し、事前の教職員研修も含めた新たな実践モデルを「兵庫版『自殺予防教育プログラム』」として作成し、自殺予防教育の「核となる授業」として位置付けることにいたしました。 実施に当たってクリアーしなければならない課題もありますが、本プログラムが多くの学校で活用され、学校における自殺予防教育の普及に少しでも寄与できること、ひいては児童生徒が自ら命を絶つというような不幸な事態がなくなることを切に願っています。 |
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2025(令和7)年3月 自殺予防教育の指導モデル開発事業協議会委員長 関西外国語大学外国語学部 教授 新井 肇 |
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プログラムの内容 |
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第1章 兵庫版「自殺予防教育プログラム」について | ||||
第2章 授業案
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付 録
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