学校の働き
1.児童・生徒の命を守る
児童・生徒が在校中に発災した場合、子ども達の命を守れるのは学校職員と子ども達自身である。
何が、どう起こるのか想像できないのが自然災害ではあるが、過去の教訓からどうすることが何よりも大切な子ども達の命を守ることにつながるのかを探り出せればと思う。
(1)職員
職員のすべきことは、大きくは二つあろう。一つは災害発生時の避難・救助等の行動であり、二つ目は事前の子ども達に対する防災教育である。
@災害(地震)発生時の職員の行動【資料1:災害対応マニュアル(職員)参照】
ここでは、地震の発生から児童・生徒を無事保護者へ引き渡すまでの間の行動について考えていくことにする。
 
ア揺れている間
この間は、きっと何もできないだろうが、それでも二つすべきことがあるのではなかろうか。
一つは、「机の下に隠れ、机の脚を握りなさい!」あるいは、その揚に応じた指示を出すことであろう。過去の記録にもあったように、きっと何が起こっているのか分からない状態にあろうと考えられ、的確な指示が必要となろう。二つ目は、職員自らの命を守ることである。子どもの命と同様職員自身の命も尊いと同時に、職員の負傷・死亡は子ども達に大きな動揺を与えることになるであろうし、今後の避難行動、救助行動に大きな支障をきたすことにもなる。
授業中以外だったら、全く(ほとんど)職員は何もできないであろう。そのためにも、子ども達自らが自分の命を守ることのできる力を事前に身に付けさせておかなければならない。
 
イ揺れがおさまったら
学校現場を考えたときに、職員は学級担任をはじめとして直接子供たちと関わっている職員、校長をはじめとする職員室等にいる職員とに分かれる。それぞれにすべき役割が異なってこよう。
・直接子どもに係わっている職員
まず、子ども達の安全確認を行うことが先決である。ここで、負傷者がある・なしで行動が変わってこよう。
生命に係わる負傷者があれば、まず、その負傷者の対応が先決となり、養護教諭もしくは他の職員を呼び救急措置をとる。普段とは異なり救急車が来てくれる補償はなく、職員で医療機関への搬送を考えることが必要であろうと考える。
また、負傷者がない場合及び負傷者の対応以外は、子ども達の動揺が大きいだろうと考えられる。この動揺(パニック)を押さえるために、「大丈夫!」の一言を言うことが避難行動をとる上でも大切であろう。
次に、避難することが賢明なことなのかどうかの判断であるが、この判断は、校舎の破損状況等とも関係あり全体を把握する事のできる校長をはじめとする職員が行うことが良いと考える。従って、子ども達に直接関わっている職員は、この間子ども達の動揺を抑えることに集中し、避難の連絡を待つことが良いと考える。(避難の判断については後述)
場所によっては(家庭科室・理科室等)、火災防止の行動をしなければならない所もあるだろう。
 
・校長をはじめとする職員室等にいる職員
まず、被害状況の把握である。被害状況は人的及び物的被害の状況であるが、緊急に避難を要する事態を想定すれば、同時に行う事が望ましい。つまり、何人かの職員が場所を分担し、状況把握に回ることが必要である。この際、負傷者を把握すると同時に避難行動に支障ある破損個所の確認をし、避難経路決定の資料とする。
避難を要する場合は、放送が使える場合は放送で、使えない場合は各教室を回って連絡をするが、必ず安全な避難経路と集合場所を指示することが重要である。
また、破損状況によっては、避難経路の片づけ等によって安全確保をする必要がある。
 
ウ避難行動
連絡により、指示された避難経路を通り、指示された集合場所に避難を行うが、この時に最も重要と考えられるのがパニックを押さえることである。子ども達がパニックを起こせば全く指示が届かず、又、とっさに危険な行動をとってしまうことも考えられるからである。避難の指示を待つ間に心の安定を図っておくことが大切ではあるが、様々な状況を見ると恐怖心も強まってこよう。城崎小学校での逸話にもあるように、子どもを脅してでもパニックを押さえなければならない。
子ども達に守らせる事は次の4点である。
『お』押さない:特に階段で前の者を押すと、将棋倒しになり死亡事故にもつながる。
『は』走らない:上記同様。
『し』しゃべらない:重要な指示を聞き難くする。
『も』もどらない;余震等で倒壊するおそれがあり、二次被害を防ぐ。
避難場所へ集合後、すぐに人員確認を行い、不明者がいる場合は二人以上がグループとなり捜索行動を行う。この捜索グループについては、事前に捜索場所別のグループ編成を行っておくことが必要である。
 
エ保護者引き渡し
北但大震災において、このシステムが確立されていたわけでもなかろうが、すでに保護者への引き渡しが行われていた。保護者が引き取りに来る場合と地区の代表者が引き取りに来る場合があったようであるが、各地区の状況を知らせてもらう等の利点もあったようである。
引き渡しに当たっては、引き渡しカード(事前に作成)により引き渡しの確認を行う。
県下では引き渡し訓練を実施する学校が増えているが、「災害が起こった場合、子どもは学校で保護しています。落ち着いて迎えに来て下さい。」ということを周知徹底しておくことが必要ではなかろうか。訓練は、引き渡しのシステムを完成させる上で大切ではあるが、保護者の感覚としてはあまり意味あるものとは考えられない。保護者の生活範囲が広がっていることや交通事情を考えると、引き渡しには相当な時間を要すると想像でき、また、引き渡せない子どもが出ることも想定しての計画が必要だろうと考える。
引渡しカードの例
 
(2)児童・生徒(事前防災教育)
授業中等の指導者がいる揚合はある程度の指示が出せるが、休憩時間・登下校中・在宅期間等、全く指示を出す人がいない場合は、自らが自分の命を守るしかない。本震災において、港西小学校において6人の児童が学校で死亡し、又、他校においても帰宅時・在宅時において死亡者を出している。どうしようもない場合もあるかもしれないが、一人の命でも助かることはできなかっただろうか。
命を守る行動としては、大きくは、落下物・倒壊物からの逃避、火災からの逃避(火災を出さないことも含め)であろう。また場所によっては、津波、土砂崩れからの逃避行動も必要となってこよう。
@落下物・倒壊物からの避難
今は「地震が起きたら机の下に潜る」という事が定説になっているが、本震災時において、ほとんどの子ども達は、地震発生と同時に屋外へ飛び出しており、机の下に潜る行動はあまり見られていない。阪神淡路大震災後、更に「机の脚をしっかりと持つ事が言われている。実際を想定し、より現実に迫る行動を普段から身に付けておく事が重要であろう。
また、場所により逃避の方法が異なるであろうから、倒れそうな物・落ちそうな物の近くにいる場合は、そこから広い場所に逃げることと机等の身(特に頭部)を隠すことのできる物がある場合は、その下(横)に逃げ込むことを教えておきたい。更に、低学年においては具体的に場所を示し指導する必要があろう。
A火災からの避難
古くから言い伝えられているように、地震に火災はつきものである。本震災において城崎町では548軒(78.1%)の家屋が焼失し、278人(8%)の死亡者の大半が焼死であったと伝えられている。焼死の原因として、倒壊家屋の下敷きとなり逃げられなかったことと、避難したが周りから火に囲まれてしまったこととがあげられている。火に囲まれた人の中には、地震の時にはここに逃げればいいとされていた山に逃げたが、周りが火の海となり、山の下から火が上がり焼死した人々も多かったらしい。
このことから考えても、事前に避難場所を決めておくことはできず、その時の状況により避難経賂・避難場所を決めなければならない。つまり、出火揚所・火の勢い・風向き・その他の状況把握がいかに正確に素早くできるかが子ども達の命を救うことにっながってくるであろうと考える。
また、火災は人的要素も多く、火災を防ぐことも可能であろう。本震災の気比・田結地区において各家で養蚕の炉に火が入っていたにも関わらず、火災及び焼死者が極めて少なかったのは、火災の恐ろしさを充分に理解していたため、何を置いてもみんなが消火に当たったためであろう。
学校においてほとんど火の気はないが、理科室・家庭科室・校務員室・冬季のストーブにおいては「まず、消火!」の意識を植え付けておきたいものである。但し、小さな子どもや火の勢いが強いときには、「逃げる」ということも強調すべきであろう。