雲海  06.08.29


自然が描いた水墨画



 暑い毎日が続いていましたが、このところ朝夕は涼しくなり、幾分過ごしやすくなりました。朝来山の裾にある南但馬自然学校では、牡鹿の物悲しい求愛の声が聞かれるようになり、着実に近づく秋の訪れを感じています。
 本校の秋の風物詩といえば、濃い霧が海のように広がる雲海です。今回の「自然のページ」は8月下旬から三度ほど現れた“雲海”のお話をします。

 本校は西に円山川が流れ、周りはぐるりと山に囲まれた盆地の中にあり、雲海が発生しやすい地形ですが、雲海を見るには、いくつかの条件が必要です。その条件とは、まず、前日の夜が星がまたたくいいお天気であること、次に湿度が高いこと、そして風がないことなどがあげられます。つまり「放射冷却現象」によって、昼間に太陽で暖められた地面の熱がぐんぐん奪われる翌朝によく発生しますが、あまり難しく考えずに、とにかく早起きをして、窓の外が霧でまっ白になった朝に、朝来山へ登れば雲海が見られるというわけです。

 この日の朝は深い霧に覆われました。標高250m付近にある南但馬自然学校のエントランス広場は、まるでミルクの中につかっているようです。少し高い位置にある生活棟も、どっぷりと霧の中です。こんな朝は雲海が見られるチャンスです。一刻も早く朝来山に登りたいと気は逸りますが、その前に空を見上げてください。少しでも青空がのぞいているようならば、見かけより霧の層が薄い証拠です。そんな日は、朝来山に登っても雲海は期待できません。幸いなことに、この朝は青空のかけらも見えません。さあ、雲海のビューポイント“雲海展望台”をめざして散策道くまコースを登りましょう!

 生活棟を出発してからずいぶん歩き、かなり高い位置に来てもまだ周りはまっ白です。「あ〜ぁ、今日は雲海ダメなのかな・・・」なんてがっかりしないでください。今歩いている場所のまっ白な霧こそが雲海なのです。そこからしばらく登ると、さっきまでの霧がうそのように突然晴れわたり、青い青い空が頭の上に広がります。そして、視線を足下に向けると、眼下には海のような雲海が広がっています。この瞬間は何度体験しても、思わず声が出てしまうほど感動するものです。
 上機嫌で小走りに駆け出し、標高555mの雲海展望台に到着しました。どうですかこの雲海。ここからは但馬の山々が一望できますが、低い山は雲海に呑み込まれてしまい、高い山の頂だけが浮島のように頭を出しています。この展望を写真にするには、広角レンズを使っても収まりきらないので、3枚の写真をつなぎ合わせパノラマ写真を作ってみました。
 雲海は壮大なパノラマを味わうのが醍醐味ですが、双眼鏡などで部分的に見ても楽しめます。この写真は粟鹿山の裾を拡大したものです。雲海は風が吹くたびに、寄せては返す波のような動きをしています。こちらは、竹田城が落城したときにお姫様が落ち延びたという伝説を持つ金梨山です。雲海が山頂付近を越えて生き物のように流れ込んでいく様子が見られます。

 雲海はコンディションのよい日には、午前10時頃まで見られることがありますが、夜明け前の暗いうちに、くまコースを登り雲海展望台で日の出を迎えるのが一番です。日が昇り始めると、グレーからゴールド、オレンジ、そして白へと様々な色に変化して、雲海のフルコースを味わえます。雲海はこれから晩秋にかけてよく発生します。自然学校で本校を訪れる子どもたちにも、是非、自然が描いた水墨画、雲海に浸ってほしいものです。きっと心に残る忘れがたい思い出になることに間違いないでしょう。
 
文責 増田 克也

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