スズメ  06.08.08


田んぼの野鳥たち



 5月9日、自然学校で本校を訪れていた、相生市立若狭野小学校のみなさんに田植えをしてもらいました。苗はぐんぐん成長し、今では、青くみずみずしい稲穂を出しています
 日本の稲作の歴史は古く、今から約3500年前の、縄文時代後期に始まったとされています。稲を作る田んぼは、そのころから様々な生き物と関わりを持ち続け現在に至っています。今回の「自然ページ」は冬から夏にかけて、南但馬自然学校周辺の田んぼにやってくる、野鳥たちにスポットを当ててみました。

 季節は冬、霜が降り、辺り一面真っ白です。そんな寒い朝のこと、田んぼの中に2羽の野鳥がたたずんでいました。身体まで凍り付いてしまったのか、ピクリとも動きません。寒い夜をうねの谷間でしのいでいたのでしょう。よく見ると、片方の足をお腹の羽毛の中に引き入れ、一本足で立っています。白く凍てついた背中の羽が、昨夜の厳しい寒さを物語っているようです。
 この野鳥は、チドリの仲間で名前を“ケリ”といいます。以前は、南但馬自然学校の周辺で全く見られない野鳥でしたが、近年ではすっかり田んぼの住人となっています。

 季節は移り5月です。田植えの準備がすすみ、田んぼには水が引き込まれています。そこに“コチドリ”がやってきました。白地に黒のコントラストが効いた模様に、眼の周りの黄色い縁取りが愛らしさを引き立てます。
 こちらの田んぼでは、“タカブシギ”がお食事中です。おいしいごちそうを見つけたのでしょうか、眼を閉じてうっとりとした表情をしていますね。タカブシギは、春に南の国から繁殖のため、日本を通過して北のユーラシア大陸の北部に向かいます。旅の途中、休憩のために立ち寄ったのでしょう。
 山の中にある南但馬自然学校では、シギやチドリなどの、水辺に集まる野鳥たちに出会えることはめったにありませんが、この田植えの時季だけは特別で、珍しい野鳥たちに出会えるチャンスです。

 田んぼの稲も大きくなり、もうすぐ稲穂が顔をのぞかせるまでに成長しました。青々とした田んぼを見回すと、稲の中からニョキッと長い首が伸びています。大きなサギの仲間“アオサギ”です。アオサギは自慢の長い首と足で、背丈が高くなった稲の中に入っても、カエルや虫などの小動物を捕らえることができます。積極的に動き回り獲物を捕らえるシギやチドリに対して、アオサギはじっくりかまえる“待ち伏せ型”の狩りをします。獲物が長い首の射程範囲に入ると、目にも留まらぬ早さで捕らえます。この写真のアオサギも、田んぼで狩りをしていたのでしょうね。くちばしに付いた田んぼの土が動かぬ証拠です。

 さあ、夏になりました。今の季節、田んぼの主役は“スズメ”たちです。しかし、この主役たちは困り者で、せっかく出てきた柔らかい稲穂を、「ちょっと失敬」とばかりに食べてしまいます。見ていると、十数羽の群れでやって来ては、あっちでもこっちでも稲穂をついばみます。おやおや、地面の近くでは今年生まれの若鳥もいっしょですね。
 お米を作られている、農家のみなさんにとっては、丹誠込めて育てた稲を食べられてしまうのですから、大変迷惑な話です。そこでスズメを追い払うために、かかしを立てたり反射テープを付けたりと、いろいろな工夫をされていますが、これといった決め手はないようです。思えば、この人間とスズメの関係は、稲作が始まって以来、長い間続いているのでしょう。
 この様子をみていると「害鳥」のレッテルを貼られそうですね。しかし、スズメたちは雑草の種を食べますし、春から夏の繁殖期には、稲の害虫を餌として大量に雛に与えますから、トータルでみると、お米の収穫量アップに少なからず貢献しているといわれています。

 冬から夏にかけて、田んぼに訪れる野鳥の一部を紹介しましたがいかがでしたか。南但馬自然学校周辺では、8月終わりから稲刈りが始まりますが、刈り取りが済んだ田んぼにも、落ち穂を目当てにいろんな野鳥たちがやって来ます。みなさんの家や学校のまわりにある田んぼにも、目を向けてください。きっとそこには、わくわくする出会いがあるはずですよ。

文責 増田 克也 

このページのご意見ご感想をメールでお寄せください
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp