スミナガシ  06.08.22

森の昆虫レストラン


 暑い本格的な夏がやって来ました。夏の主役はなんといっても昆虫たちです。手っ取り早く昆虫に出会う方法は、樹液が染み出している木を見つけることです。そこにはいつでも、何かしらの昆虫たちが食事をしています。では、そんな“森の昆虫レストラン”の見つけ方をお話しましょう。
 森の昆虫レストランは、コナラ、クヌギ、アベマキといったドングリを実らせる木が多いですが、木の種類を覚えて一本一本探して回る必要はありません。林の中を歩いていると、乳酸発酵したような甘酸っぱい香りが漂っています。これをたよりに探すと、うまく見つけられますよ。それでは、樹液にどんな昆虫が集まっているか、南但馬自然学校の森を見ていきましょう。

 森のスポーツ広場近くで樹液を吸っている蝶を見つけました。木肌とそっくりな羽を持つ“ルリタテハ”です。樹液によってくる蝶は地味な羽色のものが多く、保護色になっているようです。しかし、ひとたび羽を広げると、黒地に青色の紋が鮮やかです。こちらにいるのは、“ヒオドシチョウ”です。やっぱりシックな蝶ですね。この羽色だけを見ていると、蛾と間違えてしまいそうになりますが、その触角はすらっと伸びて、先は新体操のこん棒のようにぷっくりふくらんでいます。これに対して蛾の触角は、櫛状になっているのですぐに見分けがつきますね。
 下の横枝にはこんな蝶が来ていました。この蝶は日本の国蝶、“オオムラサキ”です。オオムラサキは、名前が示すとおり羽を開くときれいな紫色をしていますが、食事中はほとんど羽を開きません。観察してみると、アリやアブが近づくと追い払うために、ほんの一瞬だけ羽を広げます。その瞬間を狙ってシャッターを切ったのがこの写真です。さすがに国蝶だけあって見事な紫色ですね。
 このオオムラサキにも負けないくらい美しい羽を持つのが、自然観察館の近くにいた“スミナガシ”です。その名前は、水面に墨をそっと流したような羽の模様に由来しています。日本らしい情緒あふれるネーミングと渋い模様がすっかり気に入りました。

 次に、蝶以外の昆虫を見てみましょう。このツヤツヤしたグリーンの虫は“アオカナブン”です。アオカナブンの周りに、ムネアカオオアリが集まっています。よく見ると、アオカナブンの脚や身体に噛みついています。ムネアカオオアリはアオカナブンを狙っているのでしょうか? いいえそうではありません。アオカナブンが後脚を伸ばし、身体を浮かせて無理な体勢で頭を突っ込んでいるところは、樹液が特によく出るスポットです。ムネアカオオアリたちは、この場所を明け渡すように催促しているのです。しかし、いくら噛みついても、アオカナブンのツルツルした頑丈な身体には歯が立ちません。そのことをわかっているのか、脚の関節に食らい付いているものもいます。
 この押し問答が15分ほど続いたでしょうか、ついにムネアカオオアリの矢の催促にアオカナブンは仕方なく退散しました。待ちかねたように、先ほどまでアオカナブンがなめていた樹液に、ムネアカオオアリが群がります。おいしそうですね・・・樹液を口移しで仲間に受け渡しているものもいます。微笑ましい光景ですが、昆虫たちは食事中でも油断はできません。おいしい樹液に夢中になっていると天敵に捕まってしまいます。
 ムネアカオオアリが食事をしているすぐ下の葉っぱでは、クロオオアリが“アオオビハエトリ”というアリを食べるクモに捕まっています。木の裏側に回り込んでみると、樹液に集まる虫たちを狙ってモリアオガエルがよじ登っていました。このモリアオガエルはサトキマダラヒガゲという蝶をターゲットにしたようです。また、すぐ近くの散策道には、まだ動いている“ミヤマクワガタ”の頭がころがっていました、おそらく樹液をなめている最中に野鳥に食べられてしまったのでしょう。常に食べられる立場にある昆虫たちに、気の休まる時間はあるのでしょうか。

 樹液を出している木を数カ所見て回りましが、そこには樹液を求めていろいろな昆虫が集まっていました。また、その昆虫を狙ってやってくる生き物もいます。今度は、時間帯を変えて、夜や早朝に見てみようと思います。今回とは違った昆虫たちに出会えるはずです。みなさんも、是非、“森の昆虫レストラン”に出向いてください。きっと時間が経つのを忘れてしまうほど楽しいことが待っているでしょう。ただし、時には危険な“スズメバチ”なども食事をしていることがありますので、少し注意をしてください。
 
文責 増田 克也

このページのご意見ご感想をメールでお寄せください
  
Email mtajimashizen@pref.hyogo.lg.jp