ヌルデ  06.09.12


アブラムシのゆりかご



 9月になってめっきり涼しくなり、秋の草花も花を咲かせようとしています。散策道くまコースを歩くと、小さな白い花を付けた木を見つけました。この木は“ヌルデ”といって、南但馬自然学校ではよく見られますが、存在が地味なためか注目されません。でもよく見るとおもしろいことがたくさんわかってきましたので、今回はヌルデのお話をしようと思います。

 まず上の写真を見てください。この黄色がかった白い花を付けているのが、ヌルデのオスの木です。そしてピンク色の花を付けているのがメスの木です。ヌルデはポプラやイチョウと同じで、オスの木とメスの木があるんですね。これを「雌雄異株(しゆういしゅ)」といいます。雌花は受粉して、既に米粒のような小さな実を付けているものもありました。
 一方、雄花は昆虫たちに大人気です。頭が花粉まみれアオハナムグリ、脚に大きな花粉だんごをくっつけたニホンミツバチ、お腹とシッポをピンと立て食事をするユニークなプロポーションのコンボウヤセバチ、ホバリングの名手ホソヒラタアブなど、様々な昆虫で大にぎわいです。
 また、この昆虫たちを狙ってやってくるハンターもいます。ヌルデの花や茎の色に紛れてハナグモが獲物を捕らえました。こちらでは、葉っぱの裏に隠れて待ち伏せをしていたハラビロカマキリが、ホソヒラアブを大きなカマでしとめています。よく見るとカマキリの獲物を横取りしようとしているものがいますよ。

 昆虫たちから目を離し辺りの枝を見回すと、大人の親指くらいの大きな実がなっていました。こちらには赤みがかったもっと大きな実がありますよ。
 本当のことをお話するとこの固まりは実ではありません。これは虫がヌルデに寄生してできた“虫こぶ”で名前を“ヌルデミミフシ”といいます。ほら、ここにもありました。これは赤い珊瑚の形に似ていることから名付けられた“ヌルデハベニサンゴフシ”です。最後にある“フシ”とは虫こぶを表しています。

 ところで、この虫こぶに本当に虫が棲んでいるのか気になりませんか?そこで、ちょっとおじゃまして中をのぞいてみることにしました。恐る恐るカッターナイフで半分に切ってみると、いましたいました、内側には体長1oほどのアブラムシがいっぱいへばりついています。アブラムシは虫こぶの中で成長して、ハネアリのような成虫になり出てきます。ヌルデの虫こぶはアブラムシのゆりかごだったのですね。
 たくさんのアブラムシを、気持ち悪いと感じる人もいるでしょ? でもヌルデの虫こぶは、昔から染料や薬として利用され、中でも乾燥させたものを「五倍子(ごばいし)」といって、お歯黒の材料などに用いられてきました。

 本当のヌルデの実は、10月になると粉を吹いたように白くなります。この白い部分には塩分が含まれ、昔は山師や猟師がこの実で塩分を補ったそうです。試しにぺろっとなめてみると、しょっぱい味が口に広がりました。でもみなさんはまねをしないでくださいね。ヌルデは、かぶれることで知られるウルシの仲間です。皮膚が敏感な人は、触れるだけでもかぶれることがありますから注意が必要です。

文責 増田 克也

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