実生  06.05.23
ベビーラッシュ



 木々の緑が美しい季節になりました。里山の花も咲きそろい、ふもとから見上げる朝来山は笑っているようにも見えます。
 山に足を踏み入れると、花や新緑に目を奪われ視線はつい上に向きがちですが、思い切って足下をじっくり見てください。そこには、小さな小さな木の赤ちゃんたちがあなたを見上げていますよ。この木の赤ちゃんのことを「実生」と言います。それでは、朝来山の実生たちを見ていきましょう。

 散策道きつねコースの東側に、自然学校でやってきた子どもたちが、基地づくりを行う一画があります。その少し奥の地面には、実生がたくさん芽を出しています。この緑色のすべてが実生ですから、うっかりすると踏みつけてしまいそうになります。

 こちらは、散策道むささびコースで見つけた、大きさ3〜4pの実生です。まだ、頭に種の帽子をかぶっています。すぐそばでは数本がまとまって芽を出していました。中には帽子を脱いだものもいますね。この実生は大きくなるとどんな木なると思いますか?では、親の木を見てみましょう。どうですか太い幹でしょう。ここまで大きくなるのには何十年もかかったことでしょうね。
 この木はみなさんもよく知っている、クリスマスツリーに使うモミです。大きなクリスマスツリーも小さいときはこんなにかわいい姿をしているんですね。

 むささびコースをもう少し上ると、こんな実生を見つけました。よく見ると、双葉が見えますね。みなさんも1年生の時にアサガオを育て観察したと思いますが、木の実生にもちゃんと双葉がありますね。双葉の上に開いたギザギザの葉っぱは本葉です。この本葉の形から想像すると、この実生はモミジのようですね。

 実生が生えている場所は、地面だけではありません。朝来山展望台から、くまコースを少し下ったところに、ヤマナラシという木が登山道に覆い被さるように倒れています。このヤマナラシの大きくひび割れた幹には、よく見ないとわからないくらいの、小さな実生が息づいています。幹が腐った部分から芽を出したものと、幹に付いたコケに根を下ろした2つの実生を見つけました。この実生は葉っぱの形からみるとヤマザクラでしょう。
 人間の感覚では「なにも倒れた木でなくても、地面から芽を出せばいいのに・・・」と思いますが、実生たちにとっては、地面から芽を出すよりもいいことがあるようです。倒れた木から芽を出すと、地面に多いばい菌から身を守ることができ、背丈の高い他の草などに日光をさえぎられることも少なく、すくすく成長できるそうです。このように倒れた木から実生が芽を出し、再び大きな木に成長することを「倒木更新」と言います。この倒木更新で森は作られているんですね。
 「ほんとに自然ってうまくできているんだなぁ」と幹から芽を出した実生を見つめながらしみじみと思った一日でした。
 
文責 増田 克也

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