ヒレンジャク 07.02.13





歓迎 歌舞伎役者御一行様



 ヒレンジャクという珍しい渡り鳥がやってきました。ヒレンジャクはシベリアやアムール川周辺で繁殖をして、冬には日本を始め、台湾、中国南部で過ごしますが、年によって渡来数がまちまちで、全く見られない冬もあるほどです。この辺りでは、ここ何年も見かけませんでしたが、今年は久しぶりに美しい姿を見せてくれました。

 生き物に詳しい方から、「ヒレンジャクが但馬地方に渡ってきている」との情報をいただいて、「今年こそは」と、何日も前から彼らが好みそうな実を付けた木をチェックしていました。そんなある朝のこと、いつものように赤い実をたくさん付けた、“タラヨウ”の木の近くを通りかかると20羽ほどの“ヒヨドリ”と“ツグミ”が群がり、他の者を寄せ付けないほどの迫力で実をついばんでいます。そこから少し離れたカキの木では、ムクドリのようなシルエットをした十数羽の鳥が、その様子をうらやましそうに見つめていました。
 「ムクドリも実を食べたいんだな」双眼鏡を目に当てると・・・赤味を帯びた薄い褐色の身体にわずかに、黄色い腹部。尾羽の先端の鮮やかな赤色、頭にはとさかのようにピンと立ち上がった冠羽(かんう)があり、顔は歌舞伎役者のような模様をしています。それはムクドリではなく、南但馬自然学校周辺では実に11年ぶりの“ヒレンジャク”でした。
 
 ヒヨドリたちが一通り満腹になり、タラヨウの木を明け渡してくれると、ようやくヒレンジャクたちの番です。「待ってました!」とばかりに群がるかと思えば、これがなかなか慎重です。
近くの電線に一列に並び、偵察役の1羽が安全を確認すると、1羽2羽とタラヨウにやってきます。
 ヒレンジャクたちも、ひとたび食べ始めるとヒヨドリたちに負けず劣らず食欲に火が付いたように赤い実をむさぼります。食べ方を見ていると全く落ち着きがありません。実を2つ3つ食べたかと思うと、まだ足元にたくさん残っている実を後目に、次の枝に移動して少しついばみ、そしてまた場所を移動する、この繰り返しです。少しでも熟れたおいしい実を探しているのでしょうか? そうだとすれば、ヒレンジャクはかなりのグルメですね。そんなせわしない食事中にも周りの警戒は怠りません。私が少しでも動くと食べるのをやめて辺りを見回します。美しいヒレンジャクに、野生を感じた瞬間でした。

 翌日の早朝、同じ場所に出かけてみると、タラヨウの実はほとんど食べ尽くされ、昨日、40羽ほどいたヒレンジャクも、わずか4羽になり、凍り付いた枝先で丸くなっていました。どうやら、この群れの多くはエサを求めて新たな場所へ移動したようです。11年ぶりの再会はタラヨウの実がなくなると共に、あっけなく夢のように過ぎ去ってしまいました。
 ヒレンジャクはタラヨウの他に、クロガネモチピラカンサなどよく庭木に用いられる木の実が好物です。さあ、今度はどこに現れるのでしょう。あなたの庭に、近くの公園に、そしてあの街路樹に。歓迎!歌舞伎役者御一行様!
 
文責 増田 克也

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