エビフライ製造中


マツボックリをくわえて、いきなり現れた夏毛のニホンリス
 
「増田さん、リスって本当にいるんですか?」
「おるおる、早起きして裏山に行ってみな、運がよかったら会えるで」
若手のスタッフとこんな会話もしばしば。

南但馬自然学校には、ニホンリス《以下、リスという。》が棲(す)んでいます。しかも、子どもたちが宿泊(しゅくはく)する生活棟(せいかつとう)のすぐ側までやって来るのです。この日は、一番東にある生活棟、まつの館の近くでバッタリ出くわしました。

いったいどこで食べ物を探していたのでしょう。口にマツボックリをくわえて横枝を渡(わた)ってきたリスは、頭から背中にかけて水に濡(ぬ)れて毛の色がまだらになっています。


リスの指は思いの外長く、爪は鋭い。口には松の実をくわえている。
 
それに、顔の周りには、クモの糸やゴミまで付けているではありませんか。写真を撮(と)る側からすれば、せめて顔くらいは、もう少しきれいにしてほしいものです。

そんな私の願いなど、どこ吹(ふ)く風。体が安定する太めの枝に腰(こし)を下ろして、マツボックリを両前足で掴(つか)み食べ始めました。その早いこと早いこと、こちらがあたふたしてカメラのレンズを交換(こうかん)している間に、ほとんど食べてしまいました。後に残るは、ほぼ芯(しん)だけのマツボックリです。


この場所にリスが居たという証拠物件、山のエビフライはフィールドサインだ。
 
ところで、みなさんは登山やハイキングなどに出かけた時に、切り株や岩の上、または地面で、上の写真のようなものを見られたことはありませんか。

もうお分かりだと思いますが、これはリスがマツボックリの中にある種、松の実を食べた後に残る芯で、形が似ていることから、私は山のエビフライ”と呼んでいます。

本校でリスに会えるかどうかは、その時の運次第です。たとえリスに出会えなくても、このエビフライを調べることで、リスがよく訪れる場所が分かりますし、「どんな風に食べたのかな?」なんて想像するだけでも楽しくなりますね。



 松の実を食べ終えたリス。キョトンとした表情が笑いを誘う。

リスは、松の実を全部取り出して食べ終え「エビフライ、一丁あがり!」とでも言わんばかりに、芯だけのマツボックリを無造作に地面へ落とし、今度は枝を伝って移動した先で、身繕(みづくろ)いを始めました。


前足で顔を撫でる。うつむいて目を閉じた表情が愛らしい。
 
やはり、顔に付いたクモの糸やゴミが気持ち悪かったのでしょう、両方の前足を頭の上で揃(そろ)えて撫(な)で下ろす動作を繰(く)り返し、丹念(たんねん)にグルーミングを行います。その仕草は、まるでネコが顔を洗っているようで、大変微笑(ほほえ)ましいものでした。
 

 長い指でしっかり枝を掴み、軽やかに移動する。

その頃(ころ)には、濡れていた体毛もすっかり乾(かわ)いて準備完了(じゅんびかんりょう)。リスは、次なる食べ物を探すべく、枝から枝をするすると走り抜(ぬ)け、生活棟の裏山へ姿を消して行きました。
 文責 増田 克也
 


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