舌でガッチリ!


 それは、去年12月のことでした。目的地へ向かう道すがら、住宅街の一角にある小さな公園に植えられたハナミズキが、赤い実をたくさん付けていました。この実は野鳥たちの大好物です。

 付近の電線にはムクドリが群れ、歩行者や車の切れ目を待って、舞(ま)い降りる機会を虎視眈々(こしたんたん)と窺(うかが)っています。片や、地上から、じわりじわりとフェンス越(ご)しに近づいているのは、冬の渡り鳥、ツグミです。さあ、ムクドリとツグミのどちらが早く赤い実に有り付くでしょう。

 その時です、ハナミズキに向かって、サッと黒い影(かげ)が走りました。目をやれば、ボサボサ頭のヒヨドリが何のためらいもなく、実をパクついているではありませんか。その後、ようやくツグミもやって来てついばみ始めましたが、電線のムクドリたちは、通行人が気になる様子で、未だに降りてきません。先を急ぐため、とりあえずヒヨドリとツグミの写真を、ざざっと記録してその場を後にしました。

 後日、写真を見直すと、鳥たちに枝や実が重なり、見づらいものばかりです。普段(ふだん)なら、まとめて一気に削除(さくじょ)するところですが、試しにヒヨドリの口元を拡大すると、くちばしの間で実が宙に浮(う)いているシーンが、思いがけず撮(と)れていました。ヒヨドリは、くちばしの先端(せんたん)で実を摘(つま)むと、一旦(いったん)、放り上げて口の奥(おく)へ運んで食べることがあるのです。

 ならば、ツグミはどうでしょう。ツグミが放り投げて食べるなど、これまで見たことも聞いたこともありませんが、確認のために、写真の口元を拡大してみました。結果はやはり、投げることはなくゴクリと呑(の)み込(こ)むように食べています。
 
 ところが、順送りした1枚の写真に釘付(くぎづ)けになりました。それでは、ともかくその写真をご覧ください。これは大口を開けて赤い実を、呑み込もうとしているところですが、ツグミの舌を見てびっくりしました。舌の中程が山形になり、実をしっかり支えて口の奥へ押し込んでいるではありませんか。
 次に、横からの写真です。丸い実にピタッと舌が密着し、吸い付いている様子が見て取れます。これなら取りこぼすこともなく、喉(のど)に送り込めるでしょう。ツグミの舌には、全く驚(おどろ)きの仕組みが備わっていたのです。

 ツグミは実をくわえてから、目にも留まらぬ早さで呑み込んでしまうので、舌がどうような働きをしているのか、とても肉眼では確認できません。この度は、写真を連続して撮影した中に、偶然(ぐうぜん)、写っていたため判ったことです。

 今回のことで、一瞬(いっしゅん)を切り出す写真の魅力(みりょく)を再認識すると共に、差し当たり記録することの大切さ、そして、観察の対象として野鳥の舌にも興味を覚えたのでした。

文責 増田 克也


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