樫の木でガサゴソ



 私たちスタッフが勤務する本館の裏には、ドングリがなる常緑樹、シラカシが数本あります。そのシラカシの葉っぱが、風もないのに揺(ゆ)れていました。そして、そこからはこんな声が・・・ この特徴(とくちょう)があるダミ声は、当地でカシバトと呼ばれるカケスのものです。

 正体はとっくに判っていても、葉っぱがガザゴソと揺れるばかりで、なかなか姿を現しません。隙間(すきま)から、ちらっと薄(うす)いブドウ色の体が見えてもすぐに隠(かく)れてしまいます。
 車の陰(かげ)に身を潜(ひそ)めて数分間、その時は突然(とつぜん)やって来ました。葉っぱの混み合ったところからガサッ、「こんちわ!」とでも言いたげに顔を突(つ)き出しました。黒い目の周りに白い喉(のど)、チェックのベレー帽(ぼう)、やっぱりカケスです。

 それでは、カケスを紹介(しょうかい)しましょう。本校では一年を通して見られる野鳥です。特に高い山から移動してくる、秋から春先まではよく目にします。体のサイズはハトほどですが、これでもカラスの仲間なのです。
 声は「ジェージェー」とダミ声で、お世辞(せじ)にも美しいとは言えません。しかし、これが意外にも、ものまね上手で、他の鳥や動物の声をまねることがあります。私も以前、雪山ではあり得ない、夏の渡(わた)り鳥の声にビックリさせられ、すっかりカケスのものまねに騙(だま)された経験があります。

 さて、シラカシにやって来たカケスたちは、ここで何をしているのでしょう。彼(かれ)らのお目当ては、たくさん実ったドングリです。と言うと「カラスなのにドングリを食べるのだろうか?」と思われた方もあるでしょう。カケスは雑食性で昆虫(こんちゅう)やカエルなども食べますが、とりわけドングリが大好物なのです

 それでは、カケスのドングリ採りの様子を見てみましょう。葉っぱの中を探って、ドングリを探し出し目にも止まらぬ早さで呑(の)み込(こ)みます。その素早さは写真を撮(と)ると、ブレて目玉が二重になってしまうほどのスピードです。

 こちらのカケスは、採ったドンクリをうっかり落としてしまいました。どんぐりの行方(ゆくえ)を目で追い、「あ〜ぁ、やっちまった」と言わんばかりのユーモラスな表情を見せて、次の場所へ飛び出していきました

 また、別のカケスは体を折り曲げて、くちばしでドンクリを挟(はさ)み、サッと起き上がると自慢(じまん)げにこちらに見せてくれました。その口元を拡大すれば、なんと喉の奥(おく)にもドングリが見えるではありませんか。

 カケスたちはその場ではドングリを食べずに、喉に詰(つ)め込みどこかへ運んで行きます。これは“貯食”と言われる習性で、食べ物が乏(とぼ)しくなる冬に備えて、地面などにドングリを隠(かく)しておくのです。そのドングリは、冬に全て利用されることなく一部のものが芽を出し、ドングリの木に生長すると言われています。カケスの行動は、種子の散布に一役買っているのですね。

文責 増田 克也


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